第9話 回想(6)~装備をそろえる~

 冒険者御用達のアンダーウェアーは基本的に『火』『毒』『瘴気』、そして刃物やこぶし等『物理攻撃』に対する防御が基本的に付与されている。


 さらにそれに上乗せして特に強い防御機能を付けたものもあるが、それらは項目により布地の色が変わってくる。

 火なら紅、毒なら紫、瘴気は緑、物理攻撃は灰色。

 そして防御機能が強ければ強いほど色が濃い。


「わかりやすくていいですね」


 リンデンの説明をきいてわたしはつぶやいた。


「身を守るすべをまだ身に着けていないのなら、A級ダンジョンでも対応できるものにしておいた方がいい」


「お金は足りるのでしょうか?」


「購入数を少なくして、その分、質のいいものをそろえる形にすればいいよ」


 働くダンジョンの性質も考えて、毒と物理攻撃防御が強いものを一枚ずつ購入することにした。


 物理攻撃防御を特に強化したカットソーはチャコールグレー。

 シアンが身に着けていたのはライトグレーだからそれより効果が高い。

 そして、毒耐性の強いものはヴァイオレットカラー。

 どちらも襟元にレースをあしらったおしゃれなものにした。


 靴はワーキングシューズに似たデザイン。

 アンダーウェアーと同じ防御機能があるうえに、防水及び靴擦れ防止と疲労軽減効果もある。


「上に着る仕事用のシャツとズボンも注文しておこうか、これはオーダーメイドになるよ」


 リンデンは再び別のカタログを私に手渡した。


 今度は上に着るシャツとズボン。


「エマは服装に無頓着だったからね」


 いろんな種類の布地とデザインに見入っている私にリンデンが言う。


「オーダーメイドなら採寸は?」


「必要ないよ、衣料品のサイズは大中小と三種類。調整機能が魔法で付与されているのが普通だから、おおよその大きさを合わせればそれでぴったり合う服になるんだ。ミヤなら女性用の『中』かな」


「アンダーウェアのように布地の色や柄によって機能が違うとかいうことはないのですか?」


「アンダーウェアが機能によって色分けされているのは、うっかり間違ったものを身に着けるのを防ぐためで色そのものに機能が付与されているわけではない。マグマ吹き出す火山に出かけるから防火機能に優れたウェアを身に着けるつもりが、間違って防毒機能の強いものを身に着けたら目も当てられないだろう。人間は間違える生き物だから、一目で見てわかるようにしているんだ」


「じゃあ、自分の好きなデザインや色を選んでいいのですね。でも、これだけあると迷うなぁ……」


「防寒と防暑、そして防水、あとはエマの服にもついていた自動で修復、調整、洗浄ができる機能は必須だね。ガーデンにはいろんな植物があって、肌はさらさない方がいいから、アンダーウェアと同じく長袖長ズボン」


 私が迷っていると、リンデンは必要な機能と基本デザインを先に言ってくれた。


「迷うようなら表紙を開いたところに手のひらを当ててみると参考になるよ」


「???」


 リンデンの言っている意味がよくわからなかったが、とりあえず表紙の裏に手を押し当てた。するとカタログの中から、特に大きく強調されるデザインや色が出てきた。


「手のひらを当てるとその人の身体的特徴が登録され、体形や髪や肌の色、それらを総合して似合う色やデザインを選出してくれるんだ」


 いわゆるパーソナルカラーやデザイン診断というものですか?


「これも魔法で?」


「ああ、そうだよ、魔法の一環だね」


 まさか魔法でコーディネイトの相談までできるとは!

 正直言って感動したが、はしゃいでばかりもいられない。


 この世界では、服に劣化防止の魔法が施され末永く着られるようなので、奇をてらうよりオーソドックスなデザインの方がいい。


 ピックアップの中から仕事用には今着ているものと同じデザインの灰桜色のシャツを選ぶ。そして、ガーデンの外に出かけるときにも対応できる服として、無地の紺のストレートパンツも購入することとした。


「飽きがこなくて動きやすいデザインがいいと思いましたので」


 聞かれたわけじゃないけど、それらを選んだ理由を私は説明する。


「聡明なお嬢さんだ」


 リンデンがほめてくれた。


 そのあと、靴下や手袋やスカーフなどの小物も選んで注文が終わった。


「既製品が届くのは数日後、オーダーメイドの服が届くのは十日後くらいだからね」


 注文書に記述をしながらリンデンは言う。


 三枚複写の紙の一番上を中空に浮かんだ青い光の中に入れると、それはすっと消えていった。


「注文完了。これはお客様控えだよ」


 リンデンはそう言って一番下の紙を私に手渡す。


「補助金の申請にこの用紙を出しに行かなきゃならないから、組合支部に行こうか。どうせ君たちもこの後立ち寄る予定なんだろう」


 リンデンは立ち上がり私たちに言う。


「「はい」」


 シアンと私が返事をし、そしてハモった。

 私たちは三人で連れ立って、途中にあった白い壁のダンジョン組合の事務所に向かうこととなった。


「ああ、そうそう。服の洗浄効果はね、脱がなきゃ発揮されない。つまり着たままだと汚れは蓄積されてゆくんだ。だから、めんどくさいからってそのままの服で寝ないようにね。安眠効果のある寝巻ならうちもいくつか置いてある。快適温度の調整や防音機能が備わっていて肌触りもいいんだ。私はもう年で眠りが浅いからね、これが無きゃ眠れなないほどさ。どうだい一着?」


 最後に営業トーク!


「あの、お金が入ったら考えます……」


 当たり障りのない返事をしておいた。

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