僕のハタゾンビ

花田ユウマ

一章 予知夢・呪い・皮剥

第一話 障り神

「ある夢を見たんだよ」


「妖怪も神様も人間も全部が一緒くただった時代に、僕はある人に恋をした」


「その人と共に生きた。幸せを分け合い、長い時間を過ごした」


「だけどある日、その人の皮が剥がれ、中から得体のしれないなにかが出てきた」


「僕は怖くなって逃げた。あの人は|*:=□○だったのだと、僕は確信した」








「…はぁ」


ため息をついた女性は、ミルクでぐずぐずになったぬるいコーヒーを口にした。


普段から、比較的ガラガラの喫茶店「なごみ」。

長時間居座るのにピッタリなこの店は、なぜか今日に限って騒がしい。

先刻まで本を読んでいた女性は、しかたなく栞を手に取った。


妖怪人間の悲しい話は、もっと静かな所で読んだ方が良かったのだろう。

コーヒー代を素早く出し、彼女はうるさい黒スーツ達を横目に、店を後にした。




「だから、ここからこう行くんだよ」

「ちっげーよ。こっちからこうだろ」



喫茶店の入口でざわざわとする、ガラの悪いスーツ男三人組。


彼らは、さっきの不機嫌そうな女性には目もくれず、手書きの地図を睨みながら歩き始める。 

  


地図には、適当な字で順路が示されていた。

この喫茶を出て、真っすぐ歩く。

商店街を抜けて、もうやってない駄菓子屋を右に曲がる。

古い空き家の並ぶ通り、赤いおかけをつけた祠を3つ過ぎて、道路脇の森へ入る。


苔むした、傾斜のある石階段を登ると、「それ」は現れるらしい。


「しゃあないわ。お前の言った道、合ってなかったら小指一本で許したる」

「冗談よしてくださいよ」


転がる蝉の死骸をぐしゃりと踏み潰して、彼らは店を後にした。





アスファルトの熱気にさらされながら、はや二十分。

ついに彼らは、あの石段まで来ることができた。


「ここであってるんすね、九条ンとこの相談所は…」

「うん。案外、すんなり辿り着きましたっスね」

「ここを知るまでがクソ面倒だったけどな…」




もう随分探していたらしい。

この場所を知る者探し。この場所の記憶を持っている者探し。地図を書ける者探し…。


「これだから陰陽連は嫌いなんだ!いろいろ手数料取るし、かといって、仲介人用意しないと本部まで辿り着けないし」

「まぁまぁ!祓い屋業でも、個人経営のとこより安いんッスよ」

「九条の現当主、確か高校生だったし。こっちが押せば、どんな条件でも呑んでもらえますよ」


…尾行していたとはいえ、すごく酷い言われようだ。ヤクザと言いつつ、なんだか気の抜けた集団である。

汗をダラダラと流す姿が少し不憫になり、僕はとうとう声を掛けた。


「高校生の押しに弱い祓い屋です。…事務所はこちらなので、早く来てください」


「「わ゛っ!?」」




本殿を通り過ぎ、横にある一軒家が僕らの事務所。入ってすぐお客様に座ってもらうフカフカのソファーがある。

奥の部屋では、ヤクザ嫌いのお祖父ちゃんがゲームをしている。

静かにしていると言いつつも、煎餅をボリボリと食べる音が聞こえた。


「ずっと見てたんなら声を掛けてくださいッスよ!!本当暑かった……」

「尾行に気づけないヤクザとかいるとか思わなくて。すみません。今回の案件は僕、九条朔太クジョウ サクタが承ります。皆様は、近衛会の若中の方達でよろしいですね」

「ぶっとばす……って言える立場でもねぇな。さっきはすまねぇ。全部冗談だ。資料とりあえず渡すから読んでくれな」

「…はい。了解しました」


一番真ん中に座った、大柄な男。多分この中じゃ一番立場は上なのだろう。訝しげに僕を見ながら、資料を手渡してくる。

雑にまとめられたスクラップブックには、写真と市役所からの報告書が貼り付けられていた。


「なるほど。障り神のお祓いですか」


…どうやら西の町にある廃工場で巨大蛇の触り神が出たらしい。

最近はこういうのが頻発している。神様の信仰離れが加速し、魂が穢れた低級の神が暴れてしまう。 一般市民に危害を加えてしまう前に、僕ら「祓い屋」がすばやく対処するというのが通常だが…、


「…この件は分かりますけど、この方は…」


もう一つのスクラップブックにまとめられた、とある金髪の若い男性。


「ソイツは、ラッキー鯨崎クジラザキって名前の芸人だよ。今失踪中の…、しらねぇの?」

「誰ですかそれ」


僕もお祖父ちゃんも、ゲームの時しかテレビはつけない現代っ子だし。

…でも、鯨崎という苗字の一族は知っている。

確か…


「この芸人、予知夢を見る一族の末裔なんすよ」

「それか。やっと思い出した。自分、一度この一族の方に会った事がありました。…それで、本件となんの関係が…?」

「それがなぁ。ちょっとこれ見てくれよ」





『それでは占います!あ、貴方死相がでていますよ!!』


『ラッキー鯨崎が見たのは…、アイサの死相!?』


『ちょっとありえないんですけど!!そういの占うんだ、ラッキーさんって』

『本当なんです!これから夜道には気を付けて!』

『もう嫌なんだけどぉ〜!!私帰る〜!!』

『す、すみませんっ』




「…放送事故ですか?」

「笑えますよね」


ラッキー鯨崎という芸人が、有名タレントの「松本アイサ」に、最悪な占いをして爆死している動画。

ユーチューブで無断転載されるほど、かなり炎上したらしい。

確かに自分でも、そんなこと言われたら最悪だな、と思いつつ、次のページをめくる。






「…彼女、亡くなったんですね」


松本アイサは、ドラマ撮影の最終日、自宅の玄関で自殺していたのを発見されたらしい。 


「…亡くなる前日、アイサの自宅に鯨崎が出入りしてたって情報がマスコミに流れたんすよ。そこでこれ…」


右側に座った、一番年下そうな彼は、少し顔に影を落とした。

そして、彼は数枚の写真を机に広げた。


「昨日の午後、マスコミが撮った写真です。鯨崎が写ってるンすけど、わかります?」


写真には、これでもかと焦っている鯨崎の姿。そして、背景は、赤茶けたトタンの壁。 


「…なるほど。ここが例の廃工場ですか」

「おうよ。…加藤、地図渡せ」

「はいっス」



彼らの推測。

予知夢を見る一族の鯨崎は、アイサの死相を占ってしまい、なんとテレビで公言してしまった。

それを良い機会だと思った誰かが、鯨崎を犯人に仕立てあげる事を計画。

アイサ殺しを隠蔽し、鯨崎を工場に呼び込んだ…?蛇の障り神も、アイサ関連のもの…?

…。


「なんか、フワフワしてますけど」

「あくまで推測ですから。これが近衛会の見解です」


そうなると、やはり知りたいのは、この件がなぜ近衛会とかいうヤクザ連中から依頼されるのか…。そして、僕はこのラッキー鯨崎をどうすれば良いのか、だ。


「僕ら若中なんで、よく分かんないっすけど…。上から伝達されたこと、今から話します。今回の具体的な依頼内容っす」





蛇の障り神を祓い、中にいるだろう鯨崎を確保。

予知夢の里を知っているのは、近衛会のみ。

彼を里へ返すための手伝いをしてください。


 




若中三人組が帰り、静かになった客室。

そこで、彼らの名刺を受け取り、顔と名前を一致させる。


「加藤があの、少しチャラついたサングラスしてる下っ端で…。三浦がガタイの良い一番威張ってる奴か。そんで、顔にホクロがあって、真面目そうだけどちょっと元ヤン感がある人が、成瀬。よし、覚えた」


「別に覚えなくて良くない?おじいちゃん、アイツら嫌いなんじゃけど」


お祖父ちゃんが、フカフカソファーでDSをしている。

多分音的にハコボーイだろう。


「別に悪い人達じゃ無かったよ。ちゃんと誠実に依頼内容話してくれたし」

「ふぅーん…。ふぅ〜〜ん!!」

「全くもう…」


身支度を済ませ、お祖父ちゃんから御札とおにぎりをもらう。

大きな肩掛けカバンに荷物を入れて、


「鯨崎は、厄介じゃぞ」

「別に良いよ。僕はやるべきことをやってくるだけ」

「…そうじゃな。じゃあ、いってらっしゃい。


「はい、行ってきます」






第一話 障り神

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