第36話: バイロン狩り
「今です‼︎ 秀一郎様‼︎」
「はぁっ‼︎」
おれの剣撃を受けた牛型のモンスター「バイロン」は、醜い鳴き声をさらしながら消滅した。
消滅した後に残るのは、一枚の皮。今回の依頼の目的の品だ。
「これでどんくらい集まった?」
バイロンの皮を拾ったカースが、トレランスに渡しながらいう。
「今でやっと30枚よ。あと70枚。ちょっと先が長いわね」
現在、アパナイトというダンジョンの第一階層で狩りを始めて、一時間くらいが経過していた。
「シキ、弓、強い。バイロン、一撃」
基本的に四匹程度の群れを作って行動をするバイロンを、はじめにヒヤシキスが二匹ほどを射抜き、残りの二匹を秀一郎、ニゲラの二人と、カースで倒すという構成で討伐が開始されてから、効率は爆発的に良くなった。
この間約四十秒ほどと言ったところだろうか。
ヒヤシキスは素材運び兼ヒーラーとして後方支援にまわっていた。
「ここら辺で一回休憩にしましょうか。
ダンジョン内だと太陽の光が届かないからわからないかもしれないけど、そろそろ正午を回るころよ」
ヒヤシキスの呼ぶ声に、おれたちは臨戦態勢を解くと、彼女が床にシートを敷くのを手伝う。
レンガのように組み合わさった床には埃がうっすらと溜まっており、あまり使われないダンジョンだと言うことがよくわかった。
基本的に、初心者ギルドがまずすることといえば、素材を集めると言うことは変わりないのだが、ダンジョンに潜ると言うよりかは、街の外にいる野良のモンスターの素材を集めるところから始める。
そこで戦闘の経験を積んだ後に、ダンジョンに入ったが、戦闘の辛さを体験し、また野良モンスターを狩ると言う話はよく聞く。
そうならなかったのは、もともと同じギルド「金獅子」にいた四人の戦闘経験の豊富さ故だろう。
「ダンジョン内でこんなくつろいで大丈夫なのか?
ここにはモンスター以外にも冒険者とかもいるだろう?
こんな道の真ん中で広げたら邪魔に何ねえか?」
何も、このダンジョンを使うのは、俺たちのような低ランクのギルドだけではない。
息抜き程度にと、高ランクのギルドもたまにこの場所を使ったりもするのだ。
「大丈夫よ。そんな滅多に遭遇しないわよ。
私だってこの場所に来たの久しぶりだもの」
「この場所、人気、ゼロ」
バイロン自体そこまで強くないモンスターということもあって、報酬自体はあまり豪華なものではない。
そのくせ毎回100枚単位で素材を依頼されるので、一回こなすだけでもかなりの重労働だ。
流石にヒヤシキスの人気0発言はいいすぎなのかもしれないとは思ったが、実際に一時間狩りをしていても、人の気配などしなかったのだから、案外間違ってないかもしれない。
「それに、もし人が来たとしても、このくらいなら少し端に寄せれば人は通れるわ。この通路はそこまで小さくはないから」
ダンジョンの中には、人一人がやっと通れる程度の道もあるため、この通路は広い方だろう。
おれはその場に座り込むと、トレランスからサンドイッチをもらう。
「いただきまーす」
かぶりついたサンドイッチからは、爽やかな酸味が口一杯に感じられ、とてもおいしかった。
「シキ、ここ座る」
ヒヤシキスが座った場所は秀一郎の膝の上で、彼女が楽しそうにサンドイッチを食べているのを見ていると、突っ込む気もなくなり、おれはただヒヤシキスが食べ終わるのを待った。
「ごちそうさまでした」
「ご馳走様」
「お粗末様でした。さて、ちょっと提案があるんだけどいいかな?」
食べ終わったころ、トレランスがある一つの提案をした。
「このままのペースで狩りを続けていたら、日が暮れてしまうわ。
そこで、私とカースで一つのグループ。ヒヤシキスとシュウくんとニゲラで一つのグループにして、効率をあげようと思うの。
カースにも頑張ってもらうけど、そろそろ私も攻撃系の魔法が使いたくなってしまったのよ」
イタズラっぽく笑うトレランスの提案に、おれたちは賛成した。
ダンジョンなんてモンスターが大量にいるような場所に何時間もいるくらいなら、何人かで手分けして素材を集めたほうがよっぽど効率がいいからだ。
「あ、すみません。ヒヤシキス様と秀一郎様だけで狩りを続けてもらうことって可能でしょうか?
私はシャクナゲ様の様子が気になりますので」
ニゲラの意見に、トレランスは「いいわよ」といい、合鍵を彼に渡した。
「じゃあ、私たちは引き続きバイロンを狩りましょうか。
ニゲラはシャクナゲをよろしくね。
もし何かあったら、迷わず病院に行くこと。
あの場所からなら、一番近いのはメビヒメね。
あの院長とは私仲良いから、きっと良くしてくれるわ」
「わかりました。では皆さんも頑張ってください」
おれたちはそれぞれのグループごとに、分かれ道を歩いて行った。
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