第6話 友達じゃない
「ここで大丈夫。私の家あそこだから」
家を指差す。
今いるのは公園。
「わかった」
「ありがとう。じゃあね」
私はその場から離れようとしたが、藤堂に話しかけられて足を止める。
「あのさ……!」
藤堂はそう言ったが、その続きを言おうとはしなかった。
正確には言おうとしてやめた。
言っていいのか迷って。
これを聞いたら、また傷つけるかもしれない。
そう思うと怖くて続きが言えなかった。
「大丈夫。本当にもう大丈夫よ」
私は藤堂が何を言いたいのかわかり、笑顔で彼が知りたかったことを答える。
「もう未練もないわ。明日別れるつもりよ。だから、もう大丈夫よ。それとごめんね」
「なんで桜庭が謝るんだ?」
急に謝罪されて困惑する。
その謝罪の意味がわからなくて。
「藤堂くんはあの二人と仲が良いでしょう。私はあの二人とはもう縁を切るつもりだからなんともないけど、でも藤堂くんはこれからもあの二人と遊んだりするでしょう。もしかしたら、私のせいで嫌な気持ちにさせたかと思って」
私は裏切られたから二人と縁を切るつもりだけど、彼は違う。
裏切られたわけじゃない。
これからも仲の良い友達として過ごせる。
実際、友達が浮気してても仲良くする人は大勢いる。
傷ついている人がいるとわかっているはずなのに「格好いい」「やるじゃん」と褒める人達もいる。
でも、きっと私のせいで微妙は立場になった。
あのとき私と一緒にいたせいで関係ないのに巻き込まれた。
友達の嫌なところを見た。
見なければ、知らなければ、今まで通り過ごせたのに。
それもできなくなった。
それがどうしよもなく申し訳なかった。
「……じゃない」
「え?なんて?」
声が小さすぎてよく声なかった。
「友達じゃない」
藤堂がそう言った瞬間、風が吹いた。
髪が靡く。
それでも、彼の目はブレることなく真っ直ぐと私の目を見つめていた。
'友達じゃない?聞き間違い?'
私はその発言に混乱する。
言っていることが理解できなかった。
だって、茜は遊ぶたびに藤堂の話をしていた。
そしていつも仲の良い友だちなんだと自慢していた。
それなのに藤堂は「友達じゃない」と言う。
もしかして私のせいで友達をやめるってことなのかと思い、顔が真っ青になる。
「ごめん」
そう言おうと口を開いたが、先に藤堂が口を開きこう言った。
「桜庭は関係ない。俺はあの二人を友達だと思ったことは一度もない。だから、気にしなくていい」
私の顔が顔が真っ青になっていくのを見て、慌てて否定する。
「……友達じゃないの?」
私は藤堂が何を言ってるのか理解できなかった。
あれだけ一緒にいるのに友達じゃないなんて、なら彼らと何故いるのか。
「ああ」
藤堂は即答する。
「なら、どうして一緒にいるの?」
私を安心させるために言ってるのか、本当に友達じゃないから言ってるのか知りたくて尋ねる。
友達じゃない、発言で一瞬で藤堂のことがわからなくなった。
「俺の友達が仲良いから。自然と一緒にいるようになっただけ。友達と遊ぶ約束をしたのに、気づけば知らない奴もいて、そのせいで話すことは何度かあったけど別に仲良くはない。二人で遊ぼうと思わない。強いて言うなら、友達の友達って関係だ。だから、そんな顔をしなくていい」
'そんな顔?'
藤堂が言うそんな顔をとはどんなかはわからないけど、何故か今の彼の顔は私より傷ついた顔をしている気がする。
私は藤堂の言葉になんて返すのがいいか、わからず固まってしまう。
友達の友達。
だから何ともない。
彼の言いたいことはわかった。
でも、どうしてそれなら仲良くない私のこたは助けてくれたのか。
彼が優しいからなのか、それとも他に何か理由があるのか。
今日は頭を使いすぎて何も考えられなかった。
「……じゃあ、俺はもう行くよ」
「あ、うん。送ってくれてありがとう。じゃあね」
これ以上考えても仕方ないと思い、私は笑顔でお礼を言う。
どうせ、明日からは元通りの関係になるのだから。
「ああ。じゃあな」
藤堂の背中が見えなくなって私は家の中へと入ろうとするが、玄関に何か挟まっていた。
「何これ?手紙?……住所も名前も書かれてない?へんなの?」
とりあえず、家に入ってから確認しようと玄関を開ける。
リビングの電気をつけ鞄を置く。
「白い花?」
外で見たときは暗くて見えなかったが、明かりをつけたら花の絵が描かれているのがわかる。
私はスマホで「白い花」と検索し、何の花か調べた。
いつもなら無視していたが、調べた方がいいと頭の中で誰かの声が聞こえ、それに従うように調べた。
少しして絵と似た花を見つけ、それをクリックする。
「山茶花?でも何でこの花?」
私は首を傾げる。
一体何の意味があるのかわからなくて。
とりあえず中身を見ればわかるだろう、と思い封を切る。
封の中には一枚の紙が入っていた。
恐る恐る取り出し内容を確認する。
『近いうちに会いに行く。君の知らない真実を伝えに。それまでに心の準備をしておいてくれ』
「なにこれ?」
私は手紙の内容をみるなり気持ち悪くなる。
「あの裏切り者達のこと言ってるわけ?もう知ったわよ。それにしても一体誰がこんな手紙を?私の知ってる人?」
これ以上考えても明日、秋夜と別れるし関係ない。
このときの私はこの手紙の意味を深く考えなかった。
そんな余裕がなかったから。
でも、ちゃんと考えるべきだった。
そうすればあんなに深く傷つくことはなかったかもしれない。
私は手紙をゴミ箱に捨て何も考えたくなくて寝ることにした。
今日はじぃちゃんはいないから一人だ。
両親は5歳の時に事故で亡くなったから、もうこの世にはいない。
こういうとき誰かにそばに居て欲しいと思うと同時に、こんな惨めな姿を誰にも見られなくて良かったとホッとする自分がいる。
感情がぐちゃぐちゃになって気持ち悪い。
どうせ明日になったら、いつもの生活に戻る。
そう思って布団の中に入り無理矢理眠りについたのに、どうしてこんなことになったのだろうか。
憂鬱な気持ちで学校まで来たのに。
みんなが見てる前で藤堂に挨拶された。
そのせいでその場にいる全員の視線が私に向けられた。
「おはよう。桜庭」
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