裏切り
第2話 友達
桜庭巴(さくらばともえ)。16歳。3ヶ月前に人生初の彼氏ができた。
生まれて初めて同年代の異性から可愛いと言われて恋に落ちた。
相手のことをよく知りもせず、ただその一言で好きになってしまった。
もし私が他の人からも可愛いと言われていたら、きっと彼を好きになることはなかった。
だからこそ後悔してしまう。
あんな一言で彼を好きになってしまったことを。
彼が本当は私のことを好きではなかったと知るのは今から4日前。
その4日間は私の人生で2度目の波瀾万丈だったと思う。
初めての彼氏と幼馴染を失ったのだから。
時は遡り4日前。
「ねぇ、巴」
「なに?桃花(ももか)」
同じクラスで中学から仲の良い桃花に声をかけられ顔を上げる。
「確か今週の日曜だったよね?空手の大会」
「うん。そうだよ」
「え?なに?今週の日曜なの?急いで彼氏にやっぱりデート無理って言わないと」
高校生になってから仲良くなった楓(かえで)がスマホを取り出し彼氏にラインをする。
「え?そんないいよ。デートの方を優先しないよ」
彼氏に申し訳なくてそう言ったのだが「なに言ってんの!巴の試合を見る機会なんてそうそう無いんだよ!デートはいつでもできるんだから、今回は諦めてもらうの!」と何故か怒られてしまい「……そう。ありがとう」と楓の圧に負けてそう言ってしまった。
「馬鹿ね。ちゃんとメモしとかないからそんなことになるのよ」
同じく高校から仲良くなった芹那(せりな)がスマホのカレンダーアプリを見せながら言う。
「仕方ないでしょう。スケジュール管理苦手なんだから」
「なにそれ。せっかくアプリ取ったのに意味ないじゃん」
「取っただけで満足するタイプよね。楓は」
芹那の言葉に桃花が同意する。
「二人とも酷くない」
「「全然。寧ろデートの約束を断られる彼氏の方が可哀想」」
桃花と芹那は同時に同じことを言う。
「……確かにそうだけどさ」
楓は口を尖らすもすぐに開き直ってこう付け足した。
「まぁ、でも私の彼氏はちょー優しいから許してくれるわ」
「……」
「……」
その言葉を聞いた瞬間、二人の目は冷たくなった。
「巴。最初の試合は何時からなの?」
暫く楓を冷たい目で見ていた桃花が急に話しを振ってくるので驚いたが、すぐに「開会式が10時からで、私はシードだから11時くらいだったと思う」と答える。
「11時ね。了解。それに間に合うように行くよ」
「ありがとう。頑張るよ」
「そういえば、彼氏達も応援にくるの?」
芹那がふと思い出したように聞く。
「さぁ?どうだろう?来ないんじゃない?」
大会があることは教えたが、興味なさげな様子だったから応援には来てくれないだろうと誘うのをやめた。
「まぁ、どうせ来ても一緒に帰れないし。試合終わったあとはいつもの焼肉屋に行くじゃん」
私がそう付け足すと「確かに」と三人は同じタイミングで返事をする。
大会の後は焼肉に行くのが定番になった。
私は空手。桃花は柔道。楓と芹那は合気道。
三人が大声で応援するからと私より意気込んでいるのでつい吹き出すように笑ったそのとき、休み時間の終わりを告げるチャイムがなった。
先生が入ってきたので急いで席に着く。
私の席は窓際の一番後ろ。最高の席だ。
授業が始まって20分が経過した頃、芹那がさっき言った言葉が頭をよぎった。
「彼氏達も応援にくるの?」
本当はきて応援してほしい。
頑張れって言ってほしい。
でも、同時に来てほしくないと思った。
小学生の頃からずっと男子に「男女」「女のくせに強くて可愛くない」と言われてきた。
他にも色々空手をする自分を否定されることを言われた。
もし、秋夜(しゅうや)に空手しているところを見られてそんなことを言われたら立ち直れないかもしれない。
怖くてしかたない。
いつから自分がこんなに情けなくなったのかと思うほど弱くなった。
でもそんな自分も嫌いではないと思えるから、きっと他の人から見た私は間抜けに見えるだろう。
私は空を見上げながら早く放課後にならないかと思った。
今日は秋夜と放課後デートする日だから。
次の日。
寝坊した。時計が壊れてアラームが鳴らなかった。
今日に限ってじぃちゃんがいないから最悪だった。
いつもなら、時間になっても起きてこなかったら布団を剥ぎ取り無理矢理起こす。
そのお陰で遅刻を何度か免れた。
だけど、今日はそうもいかない。
私は急いで着替えて朝ご飯を食べずに家を出た。
自転車を思いっきり漕ぎ、なんとか間に合った。
教室に入った瞬間にチャイムが鳴り、本当にギリギリだったと冷や汗が流れた。
「おはよう。巴。どうしたの?髪ボサボサじゃん。寝坊でもした?」
桃花は私の髪を見て笑う。
「うん。そうなの。よりにもよってじぃちゃんがいないときに時計が壊れてさ。最悪だよ。本当に」
髪を手でとぎながら席に座る。
「ありゃあー。それはご愁傷様」
桃花は手を合わせて憐れむ。
「お陰で朝ご飯も食べれなかったのよ。お腹空き過ぎて最悪だよ。昼までもつかな?」
「仕方ない。哀れな子にお菓子を恵んで差し上げよう」
鞄からグミを取り出し私にくれる。
「ありがとう。これでなんとか昼までもつ……かはわからないけど助かったよ」
「うむ。感謝するのだぞ」
「はい。桃花様」
私は感謝して封を開けグミを口に入れる。
そうしてグミでなんとか空腹を誤魔化し続け、ようやく昼食時間になった。
基本教室で食べるが、今日は私と桃花が弁当を持ってきてないので食堂で食べることにした。
久しぶりに学食を使う。
楓と芹那には席を確保してもらい、私達は全力で走って食堂に向かい列に並ぶ。
チャイムがなってすぐ教室をでたのでそんなに待つことなく注文できた。
私は朝からグミしか食べてないのでお腹が空き過ぎてカツ丼を注文した。
桃花はカレー。
良い匂いすぎて早く食べたい。
二人が確保した席に向かおうと移動しようとしたとき「巴?」と後ろから声をかけられた。
この声は……そう思い後ろを振り向くと予想通り、幼馴染の茜(あかね)がそこにいた。
近くには彼氏の秋夜もいた。
他にもいつも二人が一緒にいるグループのメンバーがそこにいた。
「茜」
「今日は学食なんだ。珍しいね。なに頼んだの?」
茜は笑顔で話しかけてくる。
「カツ丼」
私がそう言うと茜のグループの女達はクスクスと笑い出した。
なぜ急に笑い出したのかわからず私は首を傾げる。
面白いこと言ったつもりはないのに。
「カツ丼か。美味しいよね。私も久しぶりに食べようかな」
茜は私が持っているお盆に乗ったカツ丼を覗き込む。
「そうすれば。美味しいし」
私は食べたいなら食べればいい、そう思って言ったのだが、秋夜は「茜。そう言ってこないだ丼系のやつ全部食べれなかったじゃん。俺また食べるの嫌だからな」と言った。
「えー。だって食べたかったんだもん」
茜は頬を膨らます。
私は茜の可愛らしい言動に可愛いなと思いながらその光景を眺めていた。
私は黙って二人のやり取りを見ていたが、何を思ったのか桃花が私の前にスッと立った。
急にどうしたんだ、と思いながら桃花を見るとニコッと笑いかけられ、つられて私も笑い返す。
「巴。もう行こう」
桃花は私に見えないよう二人を冷たい目で見たあとそう言い、楓と芹那がいる席へと向かう。
「あ、うん。わかった。じゃあね」
突然その場から離れた桃花の後を追うように私もその場から離れる。
「なんだ?あいつ。感じ悪くないか?」
桃花に睨まれて秋夜は機嫌が悪くなる。
「……」
茜は秋夜の言葉に何も言わず、ただ私達の後ろ姿をジーッと眺めていた。
「ねぇ。早く並ぼうよ。食べる時間がなくなるよ」
その言葉で茜はようやく私達から視線を外し、列へと並んだ。
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