第20話

「お前は……そうか、お前が白峰零士か」


振り払った腕を摩りながら、目の前の男が忌々し気に呟く。


「ええ、おっしゃる通り、白峰治療院院長の白峰零士です。貴方は…まあ、良いです。特に興味ないので……。さ、六華さん行きましょうか、東京観光は友人にいい店を紹介していただいたので期待してください」


「おい!私を無視するな!」


顔を真っ赤にして怒鳴る目の前の男に、分かりやすくため息を吐く。


「何ですか、僕たちは今から東京観光をして、今日中に果角村へ帰る必要が有るんです。ですから、時間がないので手短に、且つ分かりやすくお願いします」


「何を……私はこの子の父親だ!お前の様な部外者が家の話に無遠慮に入って来るんじゃない!」


「そうですか、それは失敬。それで、話とは?言いましたよね、時間がないって、それだけで終わりなら、僕たちはこの辺りで…」


更に顔を赤くして、怒りを露にする片桐何某に思わず、笑ってしまいそうになる。


「一介の治癒士風情が私を馬鹿にするな!!」


「一介の治癒士風情に馬鹿にされる程度の人間なのですよ、貴方は」


噂に聞いていた通り、コンプレックスの塊の様な人だなと強く感じた。

言葉の節々でただの治癒士である僕を馬鹿にしているのが分かる。


彼と同じように夢破れた人と言うのを今まで何度も見たことがある。

彼らの大半は目標を失い、無気力になってしまう。

しかし、それでも前を向き、新たな目標へ向かう者も多く見てきた。

だが、そんな彼らと目の前の彼は違う。

己の夢を歪な形で、自分の家族へ無理矢理叶えさせようとしている。

その様な事を許して置ける程、僕は甘くない。


「貴方には事情も、過去にも、まあ…色々とあったのでしょうね…ですが!仮にも冒険者をであったと言うのなら、自分の夢の一つや二つ、自分の手で掴み取って見せなさい!」


強く言い放った言葉に彼は悔しそうに表情を歪めた。


そして、何か言おうと口を開くと、また何者かによって扉が開かれた。


「…あれ、これ入らない方が良い感じかな…?」


気不味そうにキョロキョロと周りを見回す女性の入室に僕は小さく安堵の息を漏らし、一方で片桐総一は眉を顰めた。


「これはこれは、A級冒険者の長尾様、このような場所にどの様な御要件で?」


目に見えて取り繕った声色で話し掛ける片桐総一に対し、彼女は心底不思議そうに彼の方を見た後、僕へ視線を向けた。


「ねえ零士…この人はどちら様なの?零士の知り合い?」


愛想笑いを浮かべてフリーズする片桐総一、そんな彼を置いて僕達は話を進める。


「まあ、ちょっとね……」


「ふーん…一応知り合いって感じね」


彼女は、値踏みをする様にジトッとした視線を片桐総一へ向ける。


「な、何でしょうか…?」


「貴方、零士との話は終わったの?」


「え、それは…」


片桐総一は僕へ一瞬視線を送った後、直ぐに彼女へと視線を戻した。


「え、ええ、一応纏まりました」


「それなら良かった。悪いけど私達、予定が入ってるの」


そう言って彼女は、僕の手と六華さんの手を取った。


「それじゃあ、貰っていくわ」


颯爽と僕達を連れて行く彼女だったが、そんな彼女に対して、片桐総一は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるだけで、何も言って来なかった。


―――――――――――――――――――――――――――――


「もう…私、入ってくる場所間違えたかと思ったわ…」


「ごめん、けどあれが一番丸く収まると思ったんだ」


僕がそう言うと彼女は、暫くの間頬を膨らませていたが、段々と笑みへと変わっていった。


「久しぶりね、元気にしてた?」


「そっちこそ、元気そうで良かった」


旧友との再会を楽しんでいると、六華さんが極た自然な動きで僕の後ろへと隠れた。


「あ、ごめんなさいりっ…片桐さん…此方、僕の友人の長尾咲良で、今日の東京観光を手伝ってくれる気の良い人です」


「はじめまして~六華ちゃん?で良いのよね、今日はよろしくね」


六華さんは軽く会釈をして、小さく口を開いた。


「六華で大丈夫です。父と分かり辛いと思いますし、それと…助けて頂いて本当にありがとうございます…」


そう言うと六華さんは僕の後ろへと隠れた。

そんな六華さんの様子を咲良はニコニコと微笑みながら眺めていた。


「……ごきげんそうだね」


「ふふ、随分と懐かれてるようで、微笑ましくて…」


「そうかな…そうだったら嬉しいな」


心を開けるような頼れる大人だと思われているのなら、良いのだけれどね…。


「そう言えば、零士は冒険者活動を復帰したの?」


「あー…仮だよ仮、まだ治療院の経営をしなくちゃならないし、そもそも六華さんがB級になったらまた隠居するつもりだったよ」


「へー……何か、その子の方はそう思ってなかったみたいだけど…」


そう言われて後ろを振り向くと、其処には昏い表情の六華さんの姿が。


「あ、いや、その、ね?勇者スキルってある程度強くなると治癒魔法も何となく使えるようになる人も出てきますし、えっと…その…この話はまた今度にしましょうか」


僕がそう言うと、六華さんは何も言わずコクリと頷いた。

三人の中で気まずい空気が流れる。


ま、拙い、ここは両方と知り合いである僕が会話を回さなくては…。

数秒間考えた後、僕はどうにか口を開いた。


「そ、そう言えば、咲良は実はあの十冠【覇王】様と同じパーティーなんです。しかも、【覇王】様は勇者スキルを所持しているらしいですし、何かアドバイスとか聞けるかもしれませんね」


「ね!」と言って咲良の方へ向くと彼女は意地の悪そうな笑みを浮かべた。


「へー…零士、私や鏡花に対してそんな他人行儀何て、とっても悲しいなー…ね、鏡花?」


「え?」


僕は反射的に後ろへと振り返る。


「ああ、とても残念だ…零士、貴様は私の第一の臣下であったはずだが…どういうつもりだ?」


そこには隠しきれない怒気を纏った鏡花の姿が。


前門は怒気を纏う鏡花、後門は背中に張り付き、昏い表情を浮かべる六華さん、そして板挟みの僕。


僕はどうすれば良いのか分からず、その場で乾いた笑いを浮かべる事しか出来ないのであった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

キャラクター紹介


長尾ながお咲良さら


1級パーティー【栄光の勇王】所属の1級冒険者。

人当たりが良く、見た目がとても整っている事も有って、パーティーの中でも2番目に人気が高い。

実力派の弓使いで、射程範囲は300mを超えると言われている。


・黒羽鏡花


不満を隠せていない。

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