第18話
『まもなく、終点、東京です。山手線、中央線、〜〜〜~~にを乗り換えの方は………』
揺れる新幹線の中、僕たち2人は席を立つために軽く支度をしていた。
「片桐さん、忘れ物はないですか?」
「はい、全部持ちました」
少し大きめのバッグと剣をしまってある袋を片手に、片桐さんは返事をした。
僕は、大体をマジックバッグの方にしまっているので、特に確認することはない。
家族連れの人を先に通し、僕たちは無事に東京へと辿り着いた。
片桐さんは、元々都会の方に住んでいた事もあってか、余りはしゃいでいなかったが、それでも何処か何時もよりソワソワしているように感じる。
行き帰りで2時間ちょっとかかる為、余り時間は取れないが、早めに手続きが終わったら東京観光なんかもありかもしれない。
そんな事を考えていると、片桐さんがスマホを片手にギルド本部の場所を検索していた。
「えーっと……白峰さん、こっちに行けば良いみたいです」
息巻いて先導していく片桐さんを微笑ましく思いつつ、遠回りしている事については彼女が気付くまで黙っていようと決意した。
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現代的な建物が乱立する中、極めて異質な西洋風の建物。
剣と杖、盾が描かれたエンブレムが掲げ、重厚そうな木造の大扉が目に留まる。
ギシギシと軋む音が鳴りながら、その大扉を開く。
其処には、外観からは想像できない、現代的な白を基調とした大広間が広がっていた。
僕たちはその中心にある受付へと真っ直ぐ向かう。
「ようこそ、冒険者ギルド本部へ、本日はどの様な御要件でしょうか?」
「先日、お電話いただいた龍禅支部から来ました。白峰零士と片桐六華です。ランクアップの手続きの際に此方で手続きが必要との事で伺いました」
受付の男性が「少々お待ち下さい」と言うと、手元のパソコンを操作し始める。
僅か2分程で確認が取れたのか、男性が立ち上がり、「此方へ」と言って僕達を案内する。
エレベーターに乗り込み、片桐さんは、12階で降ろされ、僕はそのまま最上階へと連れて行かれた。
受付の人は僕を最上階へ降ろすと、エレベーターに乗ったまま下の階へと戻っていった。
僕は面倒なことが起こる予感に苛まれながらも、一本道の廊下を歩いていく。
廊下は綺羅びやかな装飾がされており、照明の明るさを間違えれば、少し眩しく感じる人も出てくるだろう。
歩を進めていくと大きな扉に辿り着いた。
此方もかなり装飾されているが、廊下に比べれば幾らかマシだった。
僕はノックをしようと扉を叩くが、防護魔法の類がかけられており、音が鳴らない。
軽く右手に魔力を込めて、先程よりも強めにノックするが、またも防護魔法に阻まれる。
少し面倒になって来たな…ちょっと本気を出して…叩く!
『バリバリバリッ!!』
鏡が割れる音に似た、不穏な音が静謐を保っていた廊下に鳴り響き、僕は防護魔法が完全に破壊されたのを理解した。
少し焦ったが、この部屋の主を思い出し、僕はそれらを気にすること無く、中へ入るのだった。
「いやいやいや!零士?!零士だよね?何で無視するの?ねぇってば!」
「壮也様、煩いですよ」
「え、何、これ俺が悪いの?多分だけど零士のほうが悪くない?」
残念そうなイケメンと無表情な侍女がわちゃわちゃしているのを尻目に、僕は来賓用のソファに座った。
「それで、今日はどうして態々僕を呼び出したんですか?」
「え…こんなに無視する?」
「流石壮也様のカリスマ、全く意に介されてませんね」
侍女がそう言うと、また残念イケメンがわーわーと騒ぎ出す。
……本当にもう少ししっかりして欲しいものだ。
あの残念系イケメンは我らが冒険者を統率する最高権力者、冒険者ギルド、ギルド長の”
隣の女性は壮也さんが雇っている従者の黒川さんだ。
壮也さんは漸く満足したのか、荒れた呼吸を整えながら、僕へと目線を向けた。
「それで……何で、零士を呼んだか、だっけ?」
「そうです。冒険者ライセンスを持っているとは言え、既に活動を休止した身、それ相応の事態でなければ僕に話を持って来ないと、引退する際にお話しましたよね?」
そう言うと壮也さんは、苦虫を潰したような表情を浮かべた。
「ああ、そうだ。出来る限り零士には頼らないよう、いろいろと頑張ってきたんだけど…ちょっと問題が発生してな…」
彼はそう言うと、机からそこそこ分厚い書類の束を取り出した。
「これは時幻連盟を中心とした未攻略ダンジョン、”精霊の墓”の攻略についての書類だ」
「”精霊の墓”……少し書類の方を拝見させてもらいます」
未攻略ダンジョン、”精霊の墓”20年前に発生した未攻略ダンジョンの中では割かし最近のものである。
現在は47層まで確認されており、一階層から1級モンスターが現れる上、ダンジョン内のギミックも非常に悪辣である。
未攻略である理由がこれでもかと詰められたとんでもないダンジョンなのだけど…資料を見る限り、勝算はありそうだ…ただ…幾つか不審な点が…。
「…一通り目を通しましたが…この、十冠2名の貸し出しと書かれているのは何故ですか?今、冒険者ギルドに居る十冠は鏡花だけでしょう?」
「ん?それは……まあ、な」
壮也さんは少し、視線を迷わせた後、じっとこちらを見つめた。
「薬師ギルドからは1級治癒士を5人、2級、準2級を合わせて10人、時幻連盟からは4級以上の職員が総動員、冒険者協会からは1、2級パーティーを数組と…十冠【覇王】と…お前を出す」
…やっぱりか…。
「改めて、冒険者協会から指名依頼だ元十冠【白夜】。時幻連盟と共に未攻略ダンジョン”精霊の墓を”攻略して来てくれ」
僕は彼の言葉に頷く事なく、静かに目を閉じるのだった。
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キャラクター紹介
・元十冠【白夜】
戴冠から1年で電撃引退を表明した幻の十冠。
短い在任期間ながらその功績は凄まじく、現十冠である【覇王】と共に、複数の1級ダンジョン、未踏破の準1級ダンジョンを攻略、そして未踏破ダンジョン、”幽霊船”を攻略して見せた。
薬師会と冒険者ギルド所属の十冠として、三大組織のパワーバランス維持にも貢献。
その輝かしい功績と、倒れぬ事なき姿から彼がいる限り夜は訪れないと謳われ【白夜】と言う名が送られた。
・十冠【覇王】 黒羽鏡花
白夜の引退から1月、未踏破ダンジョン”永遠の戦陣”の踏破によって戴冠された。
彼女の立ち振る舞い、言動、カリスマ性、その全てから【覇王】と言う名が送られた。
現在の存在する異能者の中で最強と名高い存在であり、魔力、武術、指揮その全てが最高峰であり、文字通り一騎当千である。
世界観紹介
・”精霊の墓”
残存する等級認定が不可能の未踏破ダンジョンの一つ。
一階層から1級相当の魔物が現れ、冒険者たちの体力を確実に奪ってくる。
精霊に分類される魔物が多く現れ、それぞれは1級の中でもそこそこだが、群れると天災に匹敵する魔法を使用してくる。
それに加え、階層が非常に多く、途中でどうしても物資が不足してしまう。
しかしながら、多くの物資を持った所で天災級の魔法を使われてしまえば持ってきた物資もろともダンジョンで埋まる事となる。
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