第13話

「零士、何だか最近元気そうね」


「……そうかな…?」


突然の母からそう言われ、少し驚きつつも、食器を洗う手は止めずに聞き返す。


「うーん…何と言うか忙しそうなんだけど、充実した忙しさと言うか……上手く言えないね」


そう言ってお母さんは嬉しそうにはにかんだ。

しかし、その笑みに少しだけ影が差す。


「零士は冒険者…まだ続けたかったんじゃないの?」


「——そんな事は無いよ」


何度目かになるその問いに、何度答えても慣れない。

如何取り繕っても、お母さんには見透かされているような気がするから。


本音を言うならば、あの7年間の冒険は本当に楽しかった。

15歳の夏、突然パーティーに入るよう誘われ、色んなダンジョンを巡った。


治癒科だった僕を連れ出した彼女は、今何をしているのだろう…?

十冠に就任したのは聞いたのだが、元気にやっているかな…あの高慢な態度で他の人を怖がらせていないと良いけれど…。


脳裏に浮かんだ彼女の姿に思わずクスっと笑いそうになってしまった。

僕は思考を切り上げ、お母さんの方へ向き合う。


「…僕は元々治癒士になりたかったんだから、後悔は無いよ」


これは本当だ。

確かに、僕は冒険者になって、パーティーを組んで、ダンジョンに潜った。

けれど、元々は治癒士を目指して学園に入った。

それで冒険者を辞め、治癒士になることに何の後悔があるというのだろうか。


……強いて言うなら、彼女の夢を最後まで共に見る事が出来なかったのは、少し悲しいが…。


食器洗いを終え、テレビの電源を付けると噂をすればなんとやら、彼女が取材を受けていた。

どうやら生放送の様で、僕は少し…否、かなり不安を感じた。


黒羽くろばね鏡花きょうかさん、本日は取材にご協力いただきありがとうございます』


『構わない、さあ、疾く質問すると良い』


優雅に足を組み、記者と向き合う彼女の姿は、記憶の中の彼女より何だか威厳が有る様に感じた。


『ええっと……それでは、パーティーメンバーに関するご質問何ですが…現在のパーティーメンバーである鳴島なるじま雲雀ひばりさんと恋仲と言う噂が流れておりますが…そちらは本当なのでしょうか?』


え……鏡花と雲雀が…?


自分に記憶にあるパーティー内の恋人関係が大きく変わっており、頭の中が混乱してしまう。


僕がテレビの前であたふたしていると、取材を受けている鏡花は非常に不機嫌そうな表情を浮かべた。


『誰だ、そのような荒唐無稽極まりない噂を流したのは…私と鳴島が恋仲などと……被害妄想も甚だしい…』


忌々しそうに呟く鏡花に対し、僕は二つの事で静かに胸を撫で下ろした。

やっぱり記者の勘違いだったと言う事と、鏡花の対応が思ったより優しかった事だ。

記憶の中の彼女はあんな事を言われたら、不機嫌さを隠さなかったと思うが…やっぱり互いに大人になったって事だな…。


取材はそのまま続いて行き、段々とまじめな話も入って来た。


『ズバリ、次に攻略するダンジョンは何処なのでしょうか?』


『ふむ、今の所は都内のA級ダンジョンを2週間ほどかけて攻略する予定だ』


『それは依頼等を受けたからでしょうか、それともまた別の目的が有って――』


『悪いが、余り詳しい事まで聞いてほしくは無いのだがな』


そう言って圧力をかける鏡花、記者は【十冠】の圧を真正面で受けたせいで、顔色が悪くなっているように見える。


『も、申し訳ありません。……それでは次の質問をお願いします』


この一件以降、記者は委縮したままであり、最早気の毒に見えてくるほどだった。

彼女の取材が終わり、そのままテレビをボーっと眺めていると、スマホが二回振動した。

どうやら、頼んでいたものが出来たらしい。

一週間程前に依頼した【凩工房】から受け取り日時を指定して欲しいと、メールが届いており、明日の夕方頃に受け取りに行く旨を返信する。

【凩工房】は小さな工房で余り知名度は無いものの、製品の完成度は素晴らしく、今も凩工房製の解体用ナイフを愛用させてもらっている。


色々と注文が多かったはずなのだけれど、まあ、【凩工房】さんなら大丈夫だろう。


そんな事を考えていると、母が台所から僕を呼んだ。


「零士~貰い物のスイカを切ったから食べない~?」


僕は携帯をポケットに仕舞い、元気よく返事をすると、母の手伝いをしに台所へと向かった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

キャラクター紹介


・黒羽鏡花


現十冠にして学生時代に治癒士を目指して努力していた零士を表舞台に引っ張り出した張本人。

綺麗な黒髪をウルフカットに切り揃えており、切れ長の瞳が彼女のクールさを際立たせている。

二人で様々なダンジョンを攻略し、学園に幾つかの伝説を残すほどであった。


・鳴島雲雀


鏡花のパーティーメンバーで中衛の魔法剣士をしている。

金髪で茶色の瞳と、何となくチャラい印象が強い彼だが、非常に一途で紳士的なので、余り人を見た目だけで判断する事は良くない。


世界観紹介


・学園


異能力を生かした職に就く者達を育成する為の学園。

高校生以上が入学することが出来、【冒険科】、【魔法科】、【治癒科】、【管理科】等、三大組織に関連した学びを得ることが出来る。

最速で3年で卒業できるのだが、基本的に卒業までに5年ほどかかってしまうので、周りの比較する事無く、自分に必要な知識を得て、冒険者、治癒士、異能管理局局員になろう。


因みに、中等部が存在しており、中学三年間で異能についての基礎知識を学ぶことが出来る。


・凩公房


刀剣の制作を中心として行っている工房。

値段は張るものの非常に品質が良く、ダンジョンさんの鉱石を使っているお陰か、とても長持ちする。

全国に3つほどの工房が有り、初めて武具を製作してもらう場合は直接工房へ足を運ぶと良いかもしれない。

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