プロローグ ――五百旗頭煌夜――

 ――それはとある冬の日。

 僕と戦友はとある学校に来ている。


 僕は解っている。

 なんたって、彼女がいることはとっくに知っていた。情報は伝わってくるんだ。

 聞けばすぐに解る。


 問題は、向こうが覚えているかどうか。

 まだピアノを続けているかどうか。


 それはわざわざ聞かせるのは憚られる内容だ。僕には尋ねることができなかった。

 でも、もうこれで分かる。


 僕がもう一度、ピアノで繋ぎ止めれば良い。

 彼女がしてくれたように、今の僕のピアノで絶たれてしまった縁を繋ぎ直せば良い。


 その為に、僕はこれまで頑張ってきた。

 演奏会を開けるように。僕自身が知られるように。


 きっと、僕たちはそれなりに有名だ。

 それでもまだ足りない。だって、恩を返すべき対象に知られていなければ、それは意味が無いからだ。


 戦友は全てを終えている。

 次は僕だ。


 ステージ横で、目を閉じて少し深呼吸をする。

 僕がたくさんのコンクールで身につけてきた、緊張への対処法だ。

 深呼吸の間、頭の中では光を想う。

 僕を連れ出してくれた光を。


 目を開ける。


 幕は開き、既にステージ上は光に満ちている。


 僕はここまで来た。





 ――――ピアノで繋ぐ時間だ。僕が僕を、時間だ。きっと、届ける。





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