閑話

 朝焼けの街を見下ろす丘に、いくつもの人影が立っていた。

 彼らに囲まれた一人の男は、地面に置いた石の板に何かを熱心に書き込んでいる。


「隊長、それは一体何なのです?」


 集団の一人が、男に訊いた。


「昔じいさんに教わった術さ。失敗した時のための、バックアップだな」


 隊長と呼ばれた男は手を止めて立ち上がる。作業は終わったようだ。

 彼は街の方角を見た。集団は彼の視界を開くため、素早い足運びで左右にばらける。

 眼下に見下ろす街と、見上げるほど巨大なダンジョンを眺め、男は乾いた笑いをこぼした。


「あの大戦が終わって三十年。あの時ガキだった俺たちもまあ、ずいぶんと老けたよな」


 男の呟きに呼応して、集団からも自嘲めいた笑い声が上がる。


「今の時代、正しく戦士と呼んでいいのはこの街の人間だけだ。冒険者だけが、戦争をしている。終わらない戦争を」


 男は側近の一人に視線を移す。さっき彼に質問した男だ。


「リーオ、お前さっきこいつが何かって聞いたな?」


「ええ隊長」


「この街の地面の下にはな、霊脈って言う自然の魔力の川が流れてんだ。そいつはな、いろんな方角から集まって来て、あのバカでかいダンジョンに集まってんだ」


「ダンジョンが魔力を集めているのですか?」


「さあな。ダンジョンが先か、霊脈の収束点が先か。そいつは分からないが、少なくともこれだけは言える。俺たちの足元に流れている力は、ダンジョンの力だ。連中が戦う敵の力ってわけだ。なら、連中と戦う俺たちにもちょっとダンジョンの力を貸してもらおうじゃないか」


 隊長は部下たち全員を見た。


「死ぬまで戦うのが俺たちの本望だが、死んだ後も戦えるならそれも面白かろう。どうだ?」


 問う隊長に、側近は決まりきった答えだとばかりに返した。


「俺たちはアンタが何をしようと付いて行くよ。ゾンビになろうが、幽霊になろうがね」


 隊長はその問いに満足し、手を叩く。


「いいだろう。それじゃあ、はじめようか」

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