第21話「姉の隠し事」
悠の部屋の外では一向に部屋の扉を開けてくれない悠に対して、結がぐずり始めていた。姉弟揃って互いに互いへの愛情が強いのか。それともこれくらいが普通なのか。兄弟のいない雪には分からなかった。
悠は姉の泣き声に一転、心配そうな表情になり怖ろしい表情はどこかにいってしまった。
雪があそこまで拒絶されるのは滅多にないことだった。たまに鋭い人間が雪の殺人の匂いを嗅ぎ取ってか、やたと警戒されることはあれど、初対面でここまでなのは本当に珍しい。
「早く隠れて……!」
「そうね」
悠の言ったとおりに、雪はクローゼット前の段ボール箱をずらして、クローゼットの中に入った。扉を閉め、耳を澄ませる。
結と悠は口論してるようだった。どうしても、部屋の中に入れたくない悠に対して、そんな風に言われたのがショックだったのか結がだだをこねている……、そんな感じだった。
時間がどんどん経っていくが中々終わらない。結が悠に対して甘える性質だったとは驚きだ。これだけでも新しい情報だった。
しかし、いつまでもこの中にいるのも疲れる。スマホの時計を見ると侵入してから一時間ほどが経過していた。
口論がやみ、二人の話し声が聞こえなくなる。部屋の中にいるような気配も感じない。結の部屋か一階に行ったのだろうか?
雪はそろそろとクローゼットの中から身体を出した。部屋の明かりは点いたままだ。悠の部屋の扉に耳を付け、様子を窺うが廊下にもいそうにない。
そっと部屋の扉を開ける。廊下は真っ暗で誰もいない。一階から二階への階段は吹き抜けになっているため、雪は二階から手摺の下を覗き込んだ。一階にはさっきは点いていなかったリビングらしきものが合った方向からの明かりが漏れている。どうやら一階にいるようだ。
これはチャンスだ。
悠にはああ言ったが、この状況ではまず結の部屋の様子を探りたい。なんでもいい。とにかく情報が欲しい。
結の部屋の方へと雪は移動する。念の為、扉に耳を付けるが何の音もしない。悠と同様に一階に降りたのだろう。
雪は結の部屋の扉を開けた。
中に入ると悠とは異なり大分女の子らしい部屋だった。明かりは点けっぱなしになっている。たくさんの縫いぐるみがあるベッドに勉強机、クローゼットに服を掛ける用のハンガーラック。全体的に白を基調とした色遣いになっているせいか明るい印象を受ける。
ローテーブルに下は絨毯が敷かれていた。
「女の子の部屋って感じねー。でも随分綺麗だこと」
姉弟揃って綺麗好きらしい。部屋はよく整理整頓されていた。
「さて、と……」
今回は金目のもの盗むわけではない。結の情報そのものが目的だ。日記でもあれば、色々知れそうだが、日記自体つけているのか分からないし、スマホでやっている人間もいる。わざわざ紙媒体でやっているかも分からない。
部屋の中は当然だが彼女のもので溢れてる。並んでいるぬいぐるみは猫が多い。猫がすきなのだろうか。勉強机には教科書以外にも参考書が並んでいる。結構勉強熱心なのかもしれない。
机の引き出しを開け、中を探る。文房具、ノート、筆箱、メモ帳。ファンシーな文房具が多い。雪はシンプルさを好むため、こういうのを集めるのは正直言って理解できない。邪魔になるだけだと思うのだ。
ノート類パラパラと捲って見るが勉強の跡があるだけで情報の役には立たない。
「んー、なにか秘密を隠していたりしないかしら……?」
雪は悠の部屋にあったのと同じクローゼットの方へ向かう。雪が三人は入れそうな大きなクローゼットの両扉を開けると――中には錫杖があった。
あまりに斜め上の予想外のものが出てきて驚く。クローゼットの壁に立てかけてある錫杖、その傍には半透明の引き出しがついた長方形の収納ケースがあった。雪は女子学生の部屋にはあまりに似つかわしくない錫杖に訝しがりつつも引き出しを引く。
すると中には数十枚というお札が収納されていた。
「なに、これ……」
雪は開けた一番上の以外の引き出しも引いていくが――どの引き出しもお札がたんまりと入っていた。
よく見るとクローゼットの中には明らかに女子学生が着るようなものでない服が入っている。一つはまるでコスプレのような巫女服。もう一つは袴。何がどうなっているのか。
自分も含めて女性には秘密が多いと言われているが、とんだ物が出てきた。雪はスマホを取り出し、一部始終を写真に撮っていく。
「ん? これなにかしら」
お札の印象が強烈すぎて見落としていたが、クローゼットの中には大きめの収納箱が一つあった。お札の入ってる収納BOXと同じ、半透明の引き出しが付いている。
普通であれば下着とかが入っているんだろうが、雪には中身を見る前から違うような気がしていた。大きめの収納箱の奥にはさらにBOXがあり、そちらは半透明の引き出しではない。なんとなくそっちに下着が収納されている気がする。
雪はおそるおそる半透明の引き出しに手を付けた。
「さて、何が入っているのかしら……」
するするとスムーズに引かれていく引き出しの中――そこには雑多な物が入っていた。半分を仕切りで区切られ、片方には白いシャツが入っている。ただし、ボタンの位置からして男性ものだ。靴下もある。もう片方にはかなり色々なものがある。ボタンやシャープペン、ストロー、スプーン、おもちゃ……。一体何を入れ込んでいるのかさっぱり分からない。ただ、結の持ち物では無いような気がした。なんとなく彼女が持つようなものではない気がする。少なくともさっき見たばかりの勉強机の中に入っていたものとは毛色が違う。
「とりあえず撮っておきましょうか」
雪はよく分からないものに困惑しながら中身の写真を撮った。
すべてを元通りにし、クローゼットを閉める。あとはベッドの下など確認するがめぼしいものは何もなさそうだった。
「あまり長居するとまずいわよねえ」
一度、悠に見つかってしまっている。まだいるのかとバレると子供の約束だ、すぐに姉である結に言いかねない。
「潮時ね」
雪は再び部屋の扉に耳を付け様子を窺ってから廊下に出た。廊下は真っ暗なままだった。用事はない、と足音を立てないように一階に降りる。
リビングらしき方を見ると明かりが点いており、中で話している声がする。まだ二人がいるのだろう。この隙にと、玄関に回るが玄関扉には鐘がついており、開けた瞬間にバレるのは間違いなかった。
仕方なくトイレの方へ向かい、頭から窓に入って行く。中に入ったのと同じ要領で出て、雪は完全に外に出ることに成功した。
外から真っ暗な家を見上げる。
「変な家だったわね」
一見普通そうなのに、やたらと姉弟の絆が強い上に、姉の結アレはなんなんだ。錫杖とお札……、それに巫女服まで。まるでお祓いでもやっているみたいだ。
そこで気付く。まさか、あの先輩に見せて貰った『幽霊告発』とか言う動画は結が……?
それならば、依頼主が結を狙うなと言ってくるのも頷ける。なにしろ自分の命のなのだから。しかし、本当に幽霊だなんているのだろうか。
動画の内容は確かにCGには見えなかった。だが、本当にあのクローゼットの中の通り霊をどうにかする人間ならば、依頼主が結だというのは可能性があるような気がする。
「まあ、やめないけどね」
たまたま偶然の要素が重なり思い付いたが、正直依頼主が誰かなんてどうでもいい。
雪は微笑を浮かべて、結と悠の家から夜の住宅街へと歩いて行った。
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