10.ノハ
もう、何日たったのかしら。ノハは昼も夜も暗い中で、好きな時に寝たり起きたりしていたので時間の感覚が
「わあ、母さんと父さんみたい」
おそろいの洋服を着たお人形をみると急に父さんと母さんを思い出してしまった。
(父さん、母さん、ナミ姉さんどうしているかな?急にノハがいなくなって今ごろ心配しているかな。ノハ大丈夫だよ、寒くないよ。でもお顔見たくなっちゃった。)
すこししんみりして鼻をすすっていると、
(変なもの口に入れたら駄目だよね)
初めは毒かもしれないと手を出さなかったけれど、だんだん棒から漂うニオイが強く感じるようになってきた。とうとう空腹に勝てず、一本手に取って、一なめ、ペロリ。
「美味しいー。はちみつのお菓子だ」
とろける様な食感、じわーと甘さが口の中に広がっていった。はちみつはノハの大好物。先ほどまでの警戒心は何だったのか、ノハは一本丸々食べきってしまった。お腹が満たされると眠くなる。自然の摂理。人形を抱いて寝て、起きてははちみつのお菓子をちびちび食べる。これを繰り返しているともう三本とも食べつくしてしまっていた。
ガリガリ、ガリガリ
何度目かの眠りから覚めると、戸口をひっかく音が聞こえていた。
(何だろう。恐ろしい獣に食べられたらどうしよう)
でも、音のする方が気になって仕方がない。好奇心には勝てずにノハはおそるおそる戸口に近づいて行った。
ヒューヒルルルルル、ヒューヒルルルルル
鳴き声が聞こえる。ノハは戸口をちょっとだけ開け、外をみた。大きな目がすきまをのぞき込んでいる。
「わっ、目玉の幽霊」
思わず後ずさり。そして、深呼吸。また少し近づいてもう少しよく見ると、まつ毛が長い馬の目だった。
「えっ、お馬さん?」
ノハはそりをどけて入り口を広げるとそこには体中から白い蒸気が立ち込めた馬が立っていた。こげ茶色の毛並みは光沢があり、タテガミと尻尾は銀から白へとグラデーションがかった色をしていた。長い距離を走ってきたのか、荒い息をして体はずいぶんと濡れている。
もう、雪は降っていない。それにニザミモの根の周りには殆ど雪は残っていなかった。
ノハは改めて馬をみた。私、このお馬さんのこと、何故だか知っている。でも、どこで見たのかしら。ノハは馬のタテガミに手を触れた。
(タ、タス……、タスケテ ノ……ノハ ヲ ノ……ノハ ブジ デ イテ、イテクレ)
音を聞いているのか、そう聞こえるように感じているのかわからない。けれど、手を通して、言葉が伝わってくる。そして、くるっと黄金の光がまわった。
「あっ、コインの馬だ」
ナックは日頃から馬の絵が描かれたコインのペンダントを身に着けている。前にコインを見せてもらったことがあった。そのコインに描かれている馬だ。
「ああ、ナックのコインの馬ね。助けに来てくれたのね」
ここ数日の間に荒唐無稽のことが起こりすぎ、もう何でも受け入れられる気がしていた。
「お馬さんありがとう。ナックのナの字をとって、ナンナと呼ぶね」
フシュー
ナンナはつんと鼻先を上にあげ、満足そうに鼻息を鳴らした。そして、ナンナは、近くの木の枝に巻き付いたつる状の植物を口でくわえてちぎるとノハの方へ押しやった。さらに、首をぐるぐると動かし、顔を背中の方へ向ける。
「ああ、このつるをロープ代わりにしてナンナの首にまきつけるのね」
ノハはナンナの首にゆるく二周ほどつるを巻くと、ナンナは足を折ってその場にしゃがみこむ。
「ナンナ、ノハを乗せてくれるの?」
ノハは馬の背にまたがると、つるの端を左手、右手でしっかりと握りしめた。
シュル
つるがノハの両手にからみついた音。
「うわっ、このつるまだ生きている」
驚いていると、ナンナはゆっくり前足を持ち上げ、続いて後ろ足を伸ばして立ち上った。ノハは思わず、ナンナにしゃがみつく。ナンナがつるをもう一本枝からちぎると、その勢いでつるはノハごとナンナの胴に巻き付いた。
「はは……、これなら落ちなくていいね」
ノハはナンナにしがみついた姿勢で身動き取れなくなった。ナンナはのっそりと歩き始める。
「私のお家、知っているの?」
プシュー
鼻を鳴らし、身震いして、ナンナはゆっくりと歩き出した。しばらく歩き、ノハの家の近くの小山までやってきた時、大勢の人が集まっている気配がしてきた。ノハは顔だけ上にあげ、声のする方に目をこらした。
ヒュヒルルルルルーーー、ヒュヒルルルルルーーー
ナンナは何度か
ナンナは前足を大きく上げ、雪の壁を飛び越えた。馬が空中を高く跳んでいる。その下にジョンたちの頭が見えた。
ナンナは丁度ジョンとヘンリーとの間にドカッと降り立った。雪のしぶきがバケツリレーをしていた人にも、ノハにも振りかかる。
バチッツ、バチッツ
痛々しい音を立ててぶつかっていった。
「うわー」
「なんだ、なんだ」
勢いでスコップやバケツが吹き飛ばされ、雪の中に埋まっていった。いきなりの馬の登場にみなが驚く中、いち早くジョンがナンナの背に乗ったノハを見つけた。
「ノハか、ノハか!」
大声でノハに向かって走り寄ってきた。
「父さん!」
ノハはそう叫んで、あー、助かったと気を許した瞬間、ナンナはジョンには目もくれず、全速力でノハの家へと走り出した。
キャーーーーーーーーーーー
キャーーーーーーーーーーーー
キャーーーーーーーーーーーー
ノハの
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