第30話 勇者の試練?
咲ねえという理解者を得た僕は、ニコニコと笑いながら二人の元へ戻る。
「つむぎん、先生と遥人くんは教室で一体なにを……?」
「さあ?」
紬と楓薫は、そんな僕のことを訝しげな表情で見るのだった。
*
――そうして、いよいよ本格的に僕の退魔師としての日々が幕を開けることとなる。
咲ねえの話によれば、登下校のルートを見回ったり、担当地域に発生した雑魚怪異を駆除したりするのが主な仕事の内容らしい。
前者は生徒だけで行うが、後者には咲ねえも同行する決まりになっている。
火曜から木曜――即ち最初の三日間は見回りを行ったが特に何事も起こらず、退魔師って意外と退屈なんだなぁと思った。
しかし、平和なのは素晴らしいことである。本来は勇者の出番なんて無い方がいいからね。
……というか、今後のことを考えると皆にもある程度成長してもらった方が良いのは明白だ。
最終的には魔王軍幹部や僕が戦った赤鬼くらいの強さ――Sランク相当の相手に単独で勝てるようになってもらうことが理想である。
つまり、エインやメフィア並みの実力を三人にも身につけて欲しい。そうじゃないと不安で夜も眠れないから!
僕がふとそんな考えに至ったのは、金曜日の任務で街外れにある廃墟と化した洋館に巣食う怪異を手分けして捜索している時のことであった。
「勝てそうな相手なら、紬達に横流しした方が良いよな……?」
洋館の部屋の扉を一つずつ開けて中の様子を確認しながら呟く。
本当はみんなを守る為に率先して雑魚怪異とも戦うつもりだったけど、それではかえってよろしくないことに気づいてしまったのだ。
僕が強い勇者になれたのも、毎回仲間と一緒にギリギリの強敵と戦ってきたからだ。
――よし。いい感じの雑魚を発見したら本気で戦わないようにしよう。
その方が自分の実力を隠せるし、みんなの修行にもなるので一石二鳥である。
我ながら天才的な発想だ……!
ぼんやりとそんなことを考えながら一番奥の扉を開けると、そこには一匹の怪異が居た。
虫人間といった感じのものすごく気持ち悪いヤツだ。
「あ、どうも」
僕は思わずそいつに向かって挨拶をする。
「オマエヲ……喰イ殺ス!」
一方、いきなり背中の羽を広げて飛びかかってくる黒光り虫人間。
「きもっ!?」
僕は手元に出現したクラウ・ソラスでその攻撃を受け止めた。
「そのカタコトな喋り方……僕が前に戦った巨大コオロギと同じタイプの怪異だな!」
「我ガ兄弟達ヲ殺シタノハ貴様カッ!」
僕の問いかけに激怒し、さらに激しく暴れる虫人間。
強さも大コオロギと似たような感じだし、今の紬たちにはちょうど良さそうな相手だ。ベストなタイミングで出現してくれたことに感謝する。
ここは皆の成長の糧となってもらおう。
「大変だー! みんな助けてーっ!」
僕は洋館じゅうに響き渡る大声でそう叫んだ。危機感の伝わる素晴らしい演技だと個人的には思う。
「貴様……! 仲間ヲ、呼ンダノカ……! ナラバ、我モ――」
「それは面倒だから却下」
僕はそう言って虫人間の発声器官がありそうな部位を聖剣で斬りつける。
「がああああああああッ!」
「一対三でみんなと戦ってくれ。万が一お前が勝ったら僕が殺すけど」
理不尽な脅しを入れてちょっと弱らせることもできたので、下ごしらえ完了といった感じだ。
これくらいの強さならみんなにぶつけてもきっと大丈夫……のはず!
「遥人っ! 大丈夫っ?!」
それから程なくして、背後で紬の声が聞こえた。
みんなすぐに集まれるよう近くを調査していたので、他の二人もじきに到着するだろう。
「う、うわーっ、なんて強敵なんだーーーー! このままではー、やられてしまうーー! うおーーーっ!」
僕は倒れていた虫人間の頭を鷲掴みにして無理やり立たせ、上手い具合に苦戦している感じを演出する。
「…………遥人?」
「後ろに下がっててっ! 今の遥人くんにそいつの相手は無理っ!」
勘の鋭い紬が気づきかけたけど、楓薫がいい感じに乗っかってくれたので結果オーライといったところだろうか。
「くそーっ! 僕にもっと力があればーっ!」
僕は斬られた上にいきなり立たされてふらついている虫人間を部屋の中へ突き飛ばし、皆の元まで走っていく。
「はぁ、はぁ……怪異はあの中だよ……。僕の相手にはならなかった……!」
「分かってる。――遥人くんは後ろで休んでて」
「気をつけてね、楓薫」
「うん」
それから、楓薫と紬は互いに顔を見合わせて怪異が投げ込まれた部屋の方へ歩いていく。
少し遅れて到着していた咲ねえもその後に続いた。
「…………お前の考えてることは大体分かった」
すれ違いざまにそう言われたので、この先のことは咲耶先生に任せておけば問題なさそうだ。
「今のみんなにはちょうどいい相手だと思う。弱らせてあるし!」
「…………ああ」
咲ねえは他にも何か言いたそうな顔をしてたけど、おそらく僕の演技があまりにも上手すぎたので驚いているのだろう。
「……さてと」
武器やらお札やらを構えて部屋へ飛び込んでいく三人を見送った後、僕はゆっくりと立ち上がる。
「地下だな」
この屋敷に足を踏み入れたその瞬間、一番ヤバい奴は地下に潜んでいると一発で分かった。
皆が気づかなかった理由は、そいつの発している邪気の正体が霊力ではなく魔力だったからだろう。
だから僕は皆に最初、上から順に手分けして調べていこうと提案した。
そんなこんなで、上手いこと皆を危険から遠ざけることには成功したので、今のうちにそいつを片付けておこう。
それにしても、怪異のみならず魔物までいるなんて……一体いつから日本は魔境になってしまったんだ!
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