詩情深い筆致に惹き込まれます。読み手に任せられる余白は、まるで反射した硝子の光のようにちらちらと、AIの扱い方、関係の持ち方を問いかけてくる。読後に拾い集めたそれらの欠片によって鏡の中で考え込む自分さえ見つける感覚になる。その問いと答えは読者一人ひとりに委ねられていて、考えさせられる深い味わいのある作品です。
とにかく文章が美しい。難しいからと逃げるのではなく、向き合った先に考えさせられるテーマと心にのしかかる重みを感じるべき作品だと感じる。AIというと、現代では三者三様の捉え方があるだろう。仕事が奪われることを恐れストライキをする団体もあれば、そこに未来を託す研究者もいる。陰謀論を唱える者だっているだろう。この作品も、その三者三様の中で、一つの願いの先の未来を暗示しているように思う。この美しくも儚い作品が少しでも多くの人に届くように願う。
シンギュラリティのその先に、一体何が待っているのか――繊細な筆致で描かれる、ヒューマノイドと人間の30年にわたる“心の記録”。感情を持たぬ存在は、人間よりも優しく、強く、そして儚い。SF好きはもちろん、心に静かに染み入る物語を求めるすべての人におすすめしたい作品です。
AIをはじめとした技術の極点、SFがいつか避けては通れない『ユートピア』の橋掛かりになるような物語です。SF好きはぜひ、この物語が何につながるのか想像するのも一興かと思います。
今らしい良質な物語。
このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む(317文字)
非常に今日的な問いを投げかける意欲作です。主役となる人間型ASIとその調律者が、作者のメッセージを体現していると思いました。
未来像なんてのは、異様に楽観的なものから聞くのもおっくうになる悲観的なものに至るまで古今東西色々ある。なかには、過去の人物のことばを用いて不安ともつかぬ未来像を予言と称してあおって金儲けをする人物も。だが、ここで描かれる未来像は、少なくとも悲観的なものや不安をあおるものでは全くない。かと言って、おめでたく楽観的ともいわないが。そうですね、こんな未来なら、いいのではないかな。そんな思いにさせてくれる、未来の姿ですね。
このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む(251文字)