第12話 ゴーレム退治そして決着
「俺は黒ちゃんに乗って空から攻撃するけど、シルキラはどうする?」
「私も最初は全体が見たいから、一緒に行くかな。それでないと、アル君の攻撃魔法を受けちゃうでしょ」
「そうか。なるほど、そう言う事もあるかもしれないな。じゃあ一緒に行こうか」
そんな話し合いをして、俺とシルキラは黒ちゃんに乗りこんだ。もちろん操縦者のコハクも一緒だ。
空から下を見ると、ピラミッドを囲む砂嵐の結界の外側にサンドゴーレムがとてつもなくたくさんいて、砂嵐の結界を破ろうとして、はね飛ばされている光景が見えた。
「結界の外側からぐるぐる回りながら段々外側に行くように飛行してくれ」
俺は、コハクにそうお願いした。
そして、身体を椅子にベルトで固定して下を見ながら魔法を練った。
両手に魔力を集めて等間隔でフレアバーストを放っていく。ファイアボールとは違うので、砂嵐の影響を受けないのがいい。1発のフレアバーストで10体ぐらいが飲み込まれるように、そして、地面に隙間が無いように上から狙う。ぐるぐると旋回しながらフレアバーストを放って行く。
「時々当たらないのも出るから、あれを私が片づければいいよね」
と、シルキラが言ってくる。
「うん。そうだね。そうしてもらえるといいな」
そう言ったら、シルキラがベルトを外して、外に飛び出した。
「あ!」
と言ってから思い出した。シルキラは飛行魔法が得意だったんだと。
シルキラも、魔法で攻撃するかと予想して空から見ていたら、違っていた。彼女は〈魔剣セリッシュ〉を出して、それサンドゴーレムを切りまくっていく。
(魔力が強くなったから、岩も切れるようになったのか)
ちょっと、感慨深いものが俺の中にこみ上げてきた。
(それにしても、砂の上の移動速度が速いな)
どうなっているのか、目に魔力を込めてよく見ると、彼女が砂に足を付けていないのが分かった。浮かんでいるのから速いのだ。
まだ倒れていないサンドゴーレムめがけて一気に飛びながら、次々に頭を切り落として破壊していく。そこには、足だけ狙っていた時とは違う強さがあった。
「アルルス様、攻撃してくださいよ。じっとシルキラさんを見ているだけじゃだめじゃないですか。もう。しかたありませんねえ」
そう言ってコハクに怒られてしまった。
俺は、その後も自分の魔力量の多さを生かして、砂漠全体に、フレアバーストの雨を降らし続けた。シルキラも、俺が打ち漏らしたサンドゴーレムをコツコツ片づけて行った。
その日の夕方。砂漠には、フレアバーストによってできた穴ぼこと、溶けた砂が残っただけだった。
そして、俺たちはピラミッドにもどった。
俺たちを、ルビイが満面の笑みで出迎えてくれた。
「アルルス様、シルキラ様、本当にありがとうございました。これで、〈赤のカギ〉をこれからも安全に守れます」
「私たちも、出来るだけ早くすべてのカギを安全に守らないと世界を救えませんから、当然のことをしたまでですよ」
シルキラがそう言った。
俺たちにはそんなに時間が無いのかなという思いが俺の頭をよぎった。
「お2人に提案があります。あと1つのカギを手に入れるだけですよね。ならば、〈青のカギ〉へ飛べる転移陣が使えるかもしれません」
すごいはなしだけれど、嘘みたいな話だとおれは、不思議そうな顔をした。
「3つの〈魔力の色〉に反応する転移陣があるのです。これは4つのカギを整備するために、遥か昔マスターが作った転移陣です。そのため、4つの魔力がそろわなくても3つの魔力が揃えば動くはずです」
なるほど。1つのカギに不具合があった場合、残り3つのカギの魔力を持っていれば、残り1つのカギに飛べるというわけだな。おれは、納得しながら話を聞いた。
「それはとても素晴らしいです」
シルキラは、涙目になるくらい感動していた。彼女にとってはついに念願の最後のカギへの扉が開かれるわけだから。
俺たちは、3つのカギの場所に移動できる、秘密の部屋へやって来た。
そこには、青の魔法陣、黄色の魔法陣、緑の魔法陣の3つの魔法陣があった。3つの魔法陣が並んでいる様子は壮観だった。
「すごいなこれは!」
俺たちは、トパズたちに頼んで、簡易魔法陣を作ってそれぞれのカギの場所に飛べるように考えていたのだが、遥か昔にこの施設を作った人物はそれを用意してあったのだ。
「さあみんなで行こうか」
俺がそう言うと、コハクがさみしそうに言った。
「アルルス様、シルキラ様、これはカギで手に入れた魔力の色が必要な魔法陣です。魔法を使えない私は同行できません。ごめんなさい」
「そうか……。わかった。俺とシルキラで行ってくるよ。黒ちゃんとコハクの助けを借りられないのはきついけれど、頑張って来るから、待っていてくれ」
そう言って俺とシルキラは、青い魔法陣に乗った。
一瞬の浮遊感はいつもと同じだった。でも遺跡の様子が全く違っていた。
青のカギのある場所は、いわば海底神殿だった。上を向くと水が見えるのだが、その水が落ちてこないのだ。不思議な構造物だった。
辺りをきょろきょろしていたら、青い髪の男性に声を掛けられた。
「アルルス様とシルキラ様ですね。お待ちしておりました。こちらにどうぞ」
「…………?」
そう言って長い階段を下りて案内されたのは、青のカギのある部屋だった……?
目の前には、予想通り青い台座があった。その上に青い球体が浮かんでいる。台座の前には、青い剣が置いてある。これまでと、全く同じだ。
「それでは、アルルス様、シルキラ様、赤の球に『アレリウスの青剣』を差してください」
俺たちは、両手で青い剣の持ち手をつかんだ。
そして……。
「あぶない!」
俺は、シルキラを突き飛ばした。
その瞬間、青のカギの番人から、ファイアボールが飛んできた。
「わはは。よくよけたなこぞう!」
「ばかやろう、おまえの嘘はバレているんだよ。本物の青のカギの番人はどこだ!」
「バラバラにしてごみ捨て場にすてたよ。こぞう、お前おれが本物ではないとどうやって気が付いた?」
「1つ目、お前は俺とシルキラの名前を知っていたよな。いままでのカギの番人は、俺たちの名前を知らなかったんだよ。知っているのは、これまでの事を知っているやつだけだ。2つ目この部屋に来るには、必ず転移陣で飛んで来た。ところが今回はなぜか階段だった。おかしいだろう。お前が本物なら転移陣を起動させられるはずだ。それができないって事は、お前は本物のカギの番人ではないって事だ」
「なるほど。ならば仕方がない。これでもくらえ!」
そう言って出されたのは、砂漠で男が飲み込まれていった渦だった。
そして、その渦を見たのは、これで3回目だという事を思い出した。
俺がこの『元世界』へ転移して来た時に、飲み込まれて死にかけた渦だったからだ。
「ばかやろう。俺に2度も同じ手は効かないぞ」
それから、シルキラに叫んだ。
「シルキラ、やつを倒してくれ。俺はこの渦を壊す!」
「アル君わかった!」
そう言って、俺は特大のファイアボールや、ストーンランス、ウインドボム、フレイムバーストなどありったけの魔法を次々と渦に打ち込んだ。
渦を壊すには、渦の限界以上の魔力で攻撃すれば壊れる。それを俺は前回の経験で知っていた。
俺の撃ち込みまくった魔法で、渦はようやく消えた。
シルキラも〈ダッシュ〉で瞬時に移動し「ヤア!」という気合とともに男の右手を切り落した。
そして俺は、深手を負った男がもう動けないだろうと思ってしまった。どうしてこんな事をするのか聞いてみたかったし、人間を切り殺したくはない。だから、男にとどめを刺すのはやめておいた。それが失敗だった。
「ならばこれでもくらえ!『ファイアボール』」
男は、残った左手でファイアボールを放った。
それが、ドガンという音とともに台座に命中してひびが入ってしまった。
「ヤバイ!」
おれは、男に近づいて、真っ2つに切った。
男は、うめき声も出さずに、一瞬で死んだ。
「シルキラ急ごう」
俺はシルキラを呼んで、「アレリウスの青剣」を2人でつかみ上から差し込んだ。
「魔力を全開にして、いそいで刺そう」
「わかったわ」
俺たちは協力して、アレリウスの青剣を、球体に刺した。
なんとか間に合ったのだろう。台座から青い光の奔流が俺たちの体に入ってきた。
そして、いままでの4つのカギをつなぐ光が俺たちには見えた。これが結界だろう。
「アル君。ありがとう全部のカギに封印ができたわ。とてもきれいな結界になった。これで『新世界』もこの『元世界』も安泰よ」
シルキラは嬉しそうに見えたが少し寂しそうな顔をしていた。
「シルキラ、もしかして、おまえ『元世界』へ戻れなくなったんじゃないのか?」
「ばれちゃったか。あの男が台座を狙ったファイアボールは、私をこの世界から帰らせないためだったんだよ。全部の台座と球体が完全でないと、帰還の転移ができないんだ……」
「そうか。それは、残念だったな」
「でもいいや、アル君とこの世界で生きて行くよ」
「おお……そうか……」
「そうすると、俺も謝らないといけないんだ」
俺は思い出した本当の事を話す事に決めた。
「何を?」
「俺は、異世界転生者なんだ。俺の魂は地球って言われる世界の人間なんだよ。本当のアルルスは、最初この世界へ来た時に、さっきの渦に巻き込まれたんだ。そうして、死にそうになってようやく脱出したんだけれど、そこで、生命が尽きたんだ。その身体に俺が入ったんだ」
「それって、アル君は、身体はアル君でも、魂は別の人ってことなの?」
「ああ、そうだ。だからごめん。おれ、アルルスじゃないんだよ」
「大丈夫だよ。一緒に旅をして、世界を救ってくれて、アル君はアル君だよ。別の人だなんて思わないよ」
「じゃあ、シルキラこれからもいっしょに旅をしてくれるんだな」
「もちろんだよアル君」
青いカギの部屋はとても神秘的だった。天井は水で満たされているのに落ちて来ない。大体、この球体と剣と台座を突き刺せばカギになって、2つの世界が救われるなんて、むちゃくちゃ不思議なことだ。
考えてみれば俺たちの出会いも不思議な出会いだった。
予想がつかない出会いで知り合った俺たち2人。それから出会った人たち。自動人形にホムンクルス。この世界は不思議でいっぱいだ。
これからも、この不思議な世界を2人で旅するのもいいなあ。そんな事を俺は考えていた。
いつの間にか俺の手は、シルキラに握られていた。
俺は、その手に、力を込めた。
駆け出し冒険者の俺に世界を救う力があると美少女に言われた 朝風涼 @suzukaze3
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