第6話 マナコさん 下
行方不明になったのは、妹のクラスのリーダー格だった。
目立つ子だったから、俺も顔くらいは見たことがあった。
親がかなり騒いだらしく、学校中で噂になっていた。学校から帰ってこなかったらしい。
大体の奴がそのことを知っていたが、本気で心配しているのはそのうちどれくらい居たんだろうな。かくいう俺も、冷やかしや野次馬の側——というか、心底どうでもよかった。
中学生と言っても、赤ちゃんじゃないんだから、ある程度は大丈夫だろ、とそう思っていた。俺が住んでいたところは犯罪に巻き込まれるほど都会じゃなかったしな。
その子が行方不明になって、数日経ったときだったはずだ。
俺が学校から帰る途中、知らない女に声をかけられた。
「こんばんは、マナコです」ってな。
俺は当然、それが本物だとは思わなかった。マナコさんの噂を聞いた誰かが、いたずらを仕掛けてきたのだと。ただ、それにしては不自然な点がいくつかあった。
まず、俺にいたずらを仕掛けてくるような友達は居ない。通り魔的ないたずらかもしれないが、どこか違和感があった。それに、目の前の『マナコさん』が顔を隠している布は、ずっしりと重そうだった。つまり、おそらく彼女に前は見えていない。にも拘わらず、まっすぐ俺に顔を向けている。
だけど、その違和感は、いたずらではないと確信するに足りるものなんかじゃなかった。ここはひとついたずらに乗ってやろうと、俺は「お久しぶりです、マナコさん」と答えた。
すると、「ごめんなさい、誰だったかしら」と、噂通りの言葉を返された。それにも、「あなたの友達の〇〇です」と定型通り答えた。当然、『マナコさん』は「じゃあ、私の目玉を知っているわよね」と言った。
そこで、俺は「あんたが知ってるだろ」と言って、その顔を隠している布を取った。
なんでそんなことをしたのかはもう覚えていない。マナコさんの振りをする奴の鼻を明かしてやろうとでも思ったんだろうな。
布の下の顔とぴったりと目が合った。いや、目が合ったという表現はおかしいか。なぜって、合うための目は無く、代わりに、眼窩の暗闇と俺は見つめ合ったからだ。
そして、『マナコさん』の容貌は、行方不明になったはずの後輩の、そのものだった。
——とまあ、僕が持っている怪談話は、こんな具合だよ。僕自身の話ではないけど、僕の友達がしてくれた話で満足してくれるかな?
本物らしさなんて無いエピソードだとは思うし、これは趣旨に合わないかなとも思ったけど、いくつかはこういうのもあっていいかもしれないね。君自身が選別すればいい話だ。
ところで、この話には綺麗なオチが無い。わざとって言うならまだしも、この話をした友達は、言いづらいから言わなかった、っていう風だった。つまるところ、マナコさんの怪談は完成じゃあないんだ。
ただ、部外者である僕が完成させられるってわけでもない。だから僕は、少しだけ情報を提供するだけに留める。そこから何がわかるかもわからないけど、僕が捏造するわけにはいかないからね。
・この話をしてくれた友達だけど、一時期行方不明になっていた時があった。
・話に出てきた、行方不明になった後輩は、3日ほどで帰ってきた。
・例の後輩が行方不明になった日に、別の行方不明者が発見された。
・妹さんはその後、弱視と診断された。
・僕は彼が行方不明になる前から友達だったけど、その前後で、目の色が少し変わっていた。
最後のは気のせいかもしれないけどね。
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