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小林さんは一応声かけたけども家族でどっか行くみたいで誘えへんかったしあの親父はやっぱ不倫相手のとこやった。ついでにお母さんの方は帰省らしい。永崎のことも連れてったれやと思うけども今更や。
クリスマスに家族以外と過ごすん初めてやなあと思いながら、俺は俺の本棚をキラキラした目で眺めとる永崎の顔をぼんやり見てた。
ご丁寧に雪が降ってて、頼んでへんのにサイレントナイトやった。家にはおかんだけおって、中学の後輩やて永崎を紹介したらめっちゃ喜ばれた。まあそらそうや。鷹島家は転勤族でその息子は深く付き合う友達なんかずっとおらんかった。前に小林さんセットで越させたけども俺の部屋には入らせんかったし、永崎がほんまに初めて踏み入った血縁以外の存在や。
「どれが少女漫画ですか?」
「ちゃんと固めたるで。本棚の左側の真ん中から下が少女漫画系統や」
「表紙めっちゃキラキラしてるし、髪型が派手ですね」
「それノリで買うた神風怪盗ジャンヌやね」
「こっちの本は?」
「タイトルで買うた桜蘭高校ホスト部やね」
「……これも少女漫画ですか?」
「夏目友人帳は一応少女漫画媒体やねん」
こうやって紹介しながら、あれもしかして俺ゴリゴリの少女漫画らしい少女漫画持ってへんかもしれんて焦った。恋愛がめっちゃ主体の漫画、そういやあんまし持ってへんかも。永崎に漫画で恋愛勉強させようと思うてたのがもう詰んだ。
おろおろしながら探したら適当に買うてた短編集が見つかった。すぐ抜き出して、ホスト部……ホストの部活……とか言うてる永崎に手渡した。付き合う話やら別れる話やらちょっと仲が深まる話やら色々入っとるキラキラのやつや。永崎は受け取って床の上に座って読み始めた。ケツ痛そうやから途中でベッドに座らせた。俺も暇やしスマホ取り出して今なら無料で半分くらい読めるらしいデスノートの一話目開いて読み始めた。
静かやった。永崎が漫画のページ捲る音が響いてた。デスノート、あったら楽チンかもしれへんなと思た。永崎の親父の名前書くだけや。事故っぽい感じにしといたら保険かなんかで金入ったりするやろし、永崎家って経済まずいわけやなさそうやから今後もふつうに暮らせるやろう。そんなこと考えながら夜神月の邁進を眺めてた。不意打ちで永崎に肩をとんとん叩かれた。
「鷹島先輩、好きな人はどうやって作るもんなんですか」
漠然としながらかなり深いとこ探るような質問やった。難しい。ちょっとびっくりしつつ隣見たら、女の子が同級生に告白しとる見開きページを膝に置いとる永崎がいた。複雑そうな顔してた。初めて嗅いだ花の匂いが嫌いやないけどどう感想言うたらわからん、みたいな雰囲気やった。
「好きな人の作り方……」
思わず呻いた。俺は俺で、恋愛感情とか好意みたいなやつがめちゃくちゃふわっとしてた。多分これ小林さんが一番強い。あと今家におる俺のおかんに聞いたら色々教えてくれそう。
せやけど永崎は小林さんでもおかんでもなく、俺に教えて欲しそうやった。
そういうの、わかるようになってもうてる。
「作れはするやろうけど、作ろうと思て作るもんちゃうやろ」
俺の答えに永崎は、
「勝手にできるもんなんですか?」
とか更に突っ込んで聞いてくる。俺はまた呻く。勝手にできるもんやと思う反面で積極的に作るやつもおるやろなと思うてる。
「……ちょっとそれ貸して」
俺は永崎の膝から少女漫画取り上げた。パラパラ捲って、永崎が開いとった短編を頭から確認する。女の子が別のクラスの男子とたまたま委員会で会う。委員会終わりに忘れ物取りに行ったらその男子がおって、そん時にちょっと話して仲良うなる。男子は怖がられとるけどほんまは優しいやつで、女の子はそのギャップに惹かれとるっちゅうことがモノローグでわかる。ここや。俺はすばやく女の子の赤面顔を指さして見せる。
「これこれ、このギャップや」
「ギャップ」
「そうギャップ。女の子的には怖い相手やったんやけど、話してみたら優しいし忘れ物一緒に探してくれたし、遅なったから近くまで送ってくれるやん。はじめがマイナス印象やったから、そこからプラスに跳ね上がったわけや。この落差があって、女の子は相手に好意を持つことになるんやな」
「……まあ、印象は良うなりますね」
「せやろ? 言うたらこの女の子は勝手に好きになってんから、好きな人は作ろうと思わんでもできる場合もあんねんて」
「人間て、こんがらがっとるんですね」
永崎は眉の間を親指でぐりぐりしながら俺の手元の漫画見る。納得したみたいで良かった良かった。安心しながら漫画返して永崎は受け取って、せやけど開きはせんとこっち向く。
「先輩」
「ん?」
「おれ、少女漫画は難しいです」
「あー……まあ、合う合わんはあるからな」
「はい、すんません」
「謝らんでええって、ほな適当に少年漫画出したるわ」
頷いた永崎の手ぇから少女漫画を返してもろて、本棚に突っ込むついでにちょっと考えてから読ませてみるかとBLEACH出して渡してみる。永崎は受け取った。でも開かんかった。複雑そうな顔になっとったからどうしたんかと思ったけども、聞いてみたら教えてくれた。
親父の話やった。この前また暴力振るわれていつもみたいに喧嘩したけど余裕で負けた。あいつに腹蹴られて吐いた。その辺におる不良とかは勝てるんやけど親父には全然歯が立たんのがなんでかわからん。
考える前に俺の口が勝手に開く。
「多分やけど、心持ちやろ」
そう気持ちの問題。永崎は親父相手やといらん力が入るんやと思う。でも不良相手やとまあちょっと殴っとくかくらいのフラットさで向かうから勝てるねん。ほんでこの気持ちの問題は相手側にもある。永崎はまあ、有名な暴れん坊や。不良はそれ聞いてちょっとはビビってたりするんやろう。腰引けてるまでは言わんけど、力入ってもうて攻撃とかが見切りやすいように見える。横で見てる感想やけど。
そんでから永崎の親父はまた更に違う。話してしもたから俺にももうわかる。めっちゃ余裕そうやし何してくるかわからん怖さある。急に胸倉掴まれて、その前のモーションとかなんもなかったからわりとほんまにビビったし、あんなん相手にして喧嘩すんの絶対嫌や。
せやから気持ちの問題、心持ち。俺はそう思たから、言葉飲み込もうとして難しい顔になっとる永崎に説明しようとしたけど直前で止めた。あの親父と話したこと、永崎には言うたらあかんと思た。心配させるっちゅうか、永崎は親父を俺に会わせんように家までの送り迎え断るんやから会ったて言うてもうたらどうなるかわからんかった。
俺は結局脇役や。永崎にしてやれることなんてほんまに少ない。漫画貸して学校で一緒にいるくらいしかできてへん。
「あのさ、永崎」
「はい」
「お前成長期まだやろ」
永崎は難しい顔ほどいて首傾けた。
「わからんけど、まだかもしれません」
「多分まだや、うん、せやからこう……背ぇ伸びて身体でかなるかもしれんねんから、その後やったら親父ぶちのめせるんちゃうか?」
まあまあ苦し紛れの話逸らしやったけど、永崎はなるほど……て納得した声で呟いてた。内心ほっとする。ほんまに背とか伸びたらあの親父とやり合うんは楽になるやろし、間違った話をしたわけでもない。
こっそり息つきながら、窓の外の降る雪見た。相変わらず白かった。クリスマスやったわて思ってから、こんな日でも親父をいつか殺す話するんやなって思った。永崎は終わらんし止まらん。殺意で毎日生きていっとる。俺にも小林さんにもあの親父にも、それを止めたりできひんやろう。
「あ、先輩、卒業したあとは学校で会われへんから、どうしたらええですか」
BLEACH片手にそう聞かれて、放課後とか土日とかに会うようにしよて提案した。永崎は頷いてから同じ高校行きます言うて笑った。鷹島先輩がおらんと嫌なんで。そう付け加えられてうまい返しが思い付かんかった。
主人公としての永崎を見てたい気持ちと後輩としての永崎を可愛がりたい気持ちがあって、そこに自分でも説明できひん生ぬるい塊みたいな気持ちが混じってた。
俺がなんとかしてやれたらええのに。
そう思い浮かべてもうて背中に嫌な汗かいた。めっちゃ身の程知らずやんけって自分を内心罵倒した。永崎は俺の焦りに気付かん横顔で、手元のBLEACH開いて刀強いんですねて言いながら一話目をじっくり読んどった。
クリスマスが終わった後はすぐ受験があってすぐ卒業式になった。高校には無事合格して俺は高校生にちゃんとなった。
そんな矢先に両親が「転勤してくれ言われた」とか言い出して、もう春先やったけど鳥肌立つくらい怖かった。こんなん初めてやった。全然ついて行きたくなかった。このまま受かった高校行って学校生活送りながら中学の時とそんな変わらん時間過ごすもんやと思うてた。
俺ほんまに永崎と離れたくないんやって、申し訳なさそうな親の顔見ながら考えてた。
ほんでこれ、当然のように一悶着の原因になってもた。
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