読者の読み方、作品の読まれ方

 多くの小説投稿サイトでは、一つの作品を連載形式で発表できるようになっています。つまり、一つの小説を例えば百の節に分割する。それらの各節を別々に公開する。そのような連載形式の作品を読む読者の行動様式には五つのタイプがあります。正確に言えば、各読者の行動様式ではなく、各小説の読まれ方です。それは各節の累計閲覧数、つまり公開から現在までにその節が何回読まれたのかを調べれば分かります。

 なお、小説投稿サイト上の長編小説の圧倒的大多数は、以下で説明する第一のタイプか第二のタイプです。小説投稿サイトで公開され、後に書籍化される作品の多くは第四のタイプです。

 第一のタイプ。第一節の累計閲覧数は例えば百、第二節は七十、第三節は二十と、序盤で急減。その後も減り続け、ある節以降はほぼ零、つまり全く読まれない。

 そんな作品になってしまう原因はあまりにも明白です。作品の質に問題があります。その作品は良し悪しの境界を越えていないのです。

 第二のタイプ。第一節は百、第二節は七十、第三節は六十八と微減。その後も徐々に減り続け、最終第百節は極めて少数の五。

 読者が徐々に脱落していく。脱落は最後まで止まらない。そんな作品になってしまう原因は複雑です。そのため、解説は後に行なうことにします。

 第三のタイプ。第一節は百、第二節は七十、第三節は二十と、序盤で急減。その後も少ない状態が続く。しかし、終盤になって閲覧数が回復し、最終第百節は八十。

 このタイプになってしまう主な原因は作品にではなく、読者の事情にあります。序盤を読んで、この作品には読む価値があると思った。しかし、中盤を読むのは何となく気だるい。今のところ、中盤を読む気力や時間が無い。だから、中盤を飛ばして終盤だけでも読んでおこう。読者はそのような読書行動をとっているのです。

 第四のタイプ。第一節は百、第二節は九十、第三節は八十五。その後、最終第百節まで八十前後が続く。

 このタイプに関する説明は必要ないでしょう。多数の読者を獲得したという意味では成功です。ただし、各読者がその作品を読むのは一回限り。繰り返して何度も読まれる域には達していません。

 なお、このタイプには亜種があります。序盤の勢いを維持できずに途中まで閲覧数を減らし続け、その後少数で安定するという作品です。コアなファンを獲得したという意味では成功ですが、多くの読者を逃したという点では成功とは言えません。

 第五のタイプ。第一節は百、第二節は九十、第三節は九十二。その後も徐々に増え続け、最終第百節は百五十。

 このタイプは、一回限りではなく、繰り返して読まれている小説です。なぜか時折、再び読みたくなる。そして途中から読み始めると、結局は最後まで読み通してしまう。その積み重ねによって、節が進むにつれて節別累計閲覧数も増えるという結果になるのです。


 それでは、第二のタイプについて解説します。

 自身の作品が第二のタイプになっていることに作者自身は気付いていない。実は良くある話なのです。もちろん、それは深刻な問題です。

 例えば、第一節の累計閲覧数は百。その後、節別累計閲覧数は一直線に減り続け、最終第百節は五。その場合、作品全体の総閲覧数は五千を越えます。その数字の大きさに気分を良くして舞い上がってしまう人が多いのです。最後まで読み通してくれた真の読者は実は最大でも五人しかいなかった。そのことを見落としてしまうのです。

 重要なのは作品全体の総閲覧数ではありません。節別累計閲覧数の推移です。問題は最後まで読み通してくれるかどうかなのです。

 ちなみに逆に、総閲覧数が伸びずに頭を抱えている人。悩む前に節別累計閲覧数の推移を調べてみましょう。序盤からずっと低位ではあっても安定しているのなら、作品の質の問題ではなく宣伝不足かも知れません。

 第二のタイプの多くには、徹頭徹尾一本調子という特徴があります。例えば、常にハイスピードでハイテンション。例えば、常にまったりのんびり刺激が無い。例えば、ストーリーは確かに進展しているのだが、なぜか同じことの繰り返しのような印象を受ける。

 そのようなことになってしまう原因は、数千文字を書いては順次公開していくという細切れの執筆法と公開法にあります。その執筆法と公開法には根本的な矛盾と無理があるのです。

 作者自身が読者の読書を一々中断させておきながら、読者に読書の再開を一々求める。それが矛盾です。徐々に公開すれば、作品の存在を読者に認知させる機会が増える。その種の事情はもちろん理解できます。それでも矛盾は矛盾です。

 この矛盾が問題を引き起こします。興味を繋いで次節も読んでもらわなければならない。そのため作者は、自身が最良と考えるスピードやテンションなどをどこまでも貫こうとする。その結果として、様々な面で作品全体が一本調子になってしまうのです。

 小説執筆の初心者が小説を書いて公開するのなら、以下の点に留意しましょう。

 細切れに書いては、細切れに公開する。それでは良い作品は生まれません。いったん全てを書き上げた後に、作品全体にわたる調整や見直しを行なわなければなりません。その際、読者が一本調子に飽きたり疲れたりして中途離脱しないよう、様々な意味で抑揚を付けましょう。


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 この節を読んで、自身の作品の節別累計閲覧数の推移を調べてみた人もいると思います。本文で「小説投稿サイト上の長編小説の圧倒的大多数は第一のタイプか第二のタイプ」と書きました。どうだったでしょうか。中には、ショックを受けた人もいるかも知れません。

 この解説書の目的は小説の書き方を解説することにあります。決して、人の心を折りたい訳ではありません。そのことは理解してください。

 小説を書き、不特定多数に向けて公開すると、どうしても自身の作品の評価が気になるものです。それは人間の性です。

 ところが、忌憚の無い意見を聞かせてくれと依頼しても、大抵の場合、当たり障りのない答が返って来るばかり。かと言って、妙に自信満々で一家言を持っていそうな人に聞くと、否定ばかりの何ら建設的ではない答が返って来るだけのことが多い。ちょっと機転を利かせて人工知能に尋ねてみると、人工知能は太鼓持ち以外の何ものでもない。やはり、作品の総合評価は読者の全体動向を確かめるのが一番なのです。

 第一のタイプや第二のタイプだった人。問題はここからです。

 他人の評価など関係なく、執筆を楽しめればそれで良い。それは間違いなく一つの考え方としてあり得ます。何の問題もありません。

 やはり、他人から良い評価を得られるような作品を書けるようになりたい。それは間違いなく立派な考え方です。頑張っていきましょう。

 俺は駄目だ、私は駄目だ、と嘆き節。それはいけません。いずれ、その嘆き節が自身の心に拭いきれないほどに染み付いてしまいます。

 最後に評価の実例を示します。ただし、他人様の作品を挙げるのは何となく憚られるので、ここでは私の作品を採り上げます。

 「校舎の片隅で見た夢」は「小説家になろう」では第五のタイプ、「カクヨム」でも第五のタイプです。

 「流星の魔法使い」は「小説家になろう」では第四のタイプ、「カクヨム」では第三のタイプです。

 「佐度野朝美の疾走」は「小説家になろう」では第四のタイプ、「カクヨム」では判別不能です。つまり、「カクヨム」では読者数が零、読者がいません。

 このことからも分かる通り、読者の好みや読書行動は小説投稿サイトごとに異なります。作品を公開するにあたり、自身の作品を受け入れてくれるサイトを選ぶことも重要かと思います。

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