第21話 渇いたスポンジ

十二月に仕事を退職してやることがなく、就活サークルに戻りました。

前回の就活サークルとは、また違って、新しい顔ぶれがそろってます。

みんなと仲良くなれるかな、とは考えてしまいます。

そんなところに、好みのタイプの女性、発見!皮肉なものです。どうして、仕事して、お金を稼げるようになったころには、女性との出会いなどないのに、いま、お金も稼げなくなったころに、こんな女性と出会えるんでしょう。

斜め前に、その女性は座っていましたが、話しかけることもできません。

ああ。この女性は、どういうひとで、どんなことを考えているのだろう?ひさびさに胸が、キュンとなります。うれしいような、せつないような。これは.....



サークルの時間も終了して、結局、なにもできないまま、父の施設に迎いました。父は、用意された服、用意された車いすに乗って、座って黙っています。

「お父ちゃん、こんにちは」

父は、失語症です。こくっ、とうなずきました。意志疎通は、できるのですが、だんだん、ぼくの言ってることを理解できなくなってきてます。ややこしい話はできません。カーテンのすき間から、エアコンの風がはいってきて、エアコン音以外はなにも、聞こえない。

テレビもなっていますが、そのテレビの音ですら、物音にまみれた小さなBGMです。父は、こんな静かなところで、生活しているんだなあ。


ことあるごとに、なにかを話しかけていましたが、父は、うつむいたまま、黙ってます。

「お父ちゃん、腹減ったわ」


すると、やっと、父が反応して、笑顔を見せてくれました。おもしろかったのでしょうか?時間は十六時。


「腹減った、お父ちゃん。なんか、もう、晩ごはんのことを考えてしまう時間やな!」

と付け加え、するとまた、少し笑ってくれました。


どうして、父といると、こう落ち着くんだろう。父は、苦しいことも、悲しいことも、なんでも吸い取っていってくれる渇いたスポンジのようだな、なんて考えていました。

十六時十分ごろになり、看護師がやってきて、面会時間終了です、と言ってきました。

「また、来るな、お父ちゃん!」



そう言って、部屋を出て、エレベーターを降りていきました。



この前、面接があり、なんだかんだと一週間が経ちました。

郵送で返事は送ります、と言われたのですが、まだ、なにも来てません。

十日経ってなにも来てなかったらヤバいっすよね。


また、新しい履歴書の作り直しです。

宙ぶらりんな生活は、まだ、続くのかな......

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