第28話 動機は各々違う
俺は冒険者ギルドの一室で【闇夜の竜殺し】のリーダーと話し合っていた。
「だから俺は階層ボスには挑まねえよ! ただでさえ乗り気じゃなかったのに、あの女と組むなんてごめんだ!」
三十路くらいの細マッチョの男、彼こそが【闇夜の竜殺し】のリーダーだ。三十歳と言うと冒険者としては、ちょうと脂の乗った時期だろう。
これより若いと経験が足りず、これより老いると身体が衰えていく。三十くらいが冒険者としての全盛期な者が多い。
たまに三十超えてから急に覚醒する晩成型もいるけど少数派だ。
「まあまあそう言わずに……ソールレイスも悪気があったわけではないですので」
「俺があの女になんて言われたか知ってるのか? 人生の負け犬だぞ!? よくもそんなことを初対面で言えるな!?」
「……申し訳ありません。あの娘、冒険者としての技量の代わりに他のことをぶん投げてるので」
ソールレイスは冒険者としては完璧だが、それ以外に関してはかなり危うい。
俺との会話でもそうだがソールレイスは歯に衣を着せないので、色々な冒険者と喧嘩になるのだ。
この都市の冒険者ならソールレイスの暴言は聞き流してくれるんだけどな。半分諦められてるのと実績のおかげで。だが外から来た奴はどちらも知らないからなあ。
でも人生の負け犬と言われたのはなんでだろうか。ソールレイスは大砲のように暴言を言い放つが、思ってないことは言わないはずだ。
「だからってなあ! 俺たちだって考えがあるんだよ! もう結婚する俺たちからすれば無理して階層ボスに挑む必要はねえんだ! 最後の一稼ぎと思って来たんだよ!」
「確かにその通りです。ソールレイスはかなり口が悪いので……」
「だいたいよお!」
しばらく彼の愚痴を聞き続けた結果、ソールレイスがどういうシチュで人生の負け組と言い放ったのか分かった。
まずこの【闇夜の竜殺し】たちは全員が三十歳くらいで、そろそろ身を固めて冒険者として引退するのを考えているらしい。
だが先立つモノが必要ということで最後のひと稼ぎでこのダンジョンにやって来た。そしてドラゴンを倒していき、階層ボスの近くまでやってこれたのだ。
この時点で彼らが優秀であることは間違いない。ドラゴン階層のボスまでたどり着くのはすごく大変だからな。
そして彼らはそこでどうするか話し合っていたらしい。そもそもドラゴン階層のボスに挑むかどうかを。
すでにドラゴンは何体も狩った上に、うちのダンジョン都市が普通より高く素材を買い取ってくれるので、目標の額を稼ぎ終えていた。
なので無理して階層ボスに挑む必要もないし、撤収してこの都市から去るか。あるいは金はいくらあってもいいので階層ボス攻略に参加するかで迷っていたと。
パーティー内での意見も半々でなかなか話が進まなかった。その時にちょうど通りがかったソールレイスたちが話を聞いて、暴言をぶちまけてしまったらしい。
……ソールレイスが言った理由は分かった。あいつはなにせ人生は前進であり常に上を目指す思考だ。
彼女からすれば挑む能力があるのに階層ボスに挑戦しないのは、人生の負け組と言い放ってもおかしくない。
「誠に申し訳ありません。ソールレイスには強く言っておきますので」
言ってもムダだけどな! 俺が言った程度で聞くわけがないのだから。
「そ、そうか。今さらなんだが市長に言ってもしょうがない話だったな。つい頭に血が上っていた。すまない」
【闇夜の竜殺し】のリーダーは頭を下げて謝ってきた。
すごいな。冒険者としての実力があるのに人格も優れているだなんて。
冒険者ってのはだいたいが強さの代わりに品性とか犠牲にしてるからなあ。ただ俺としては【闇夜の竜殺し】にも階層ボスに挑んで欲しいんだよな。
彼らの話を聞く限りでは問題はふたつだ。そのうちのひとつは簡単に解決できる。
「ところで結婚されるからリスクを取りたくないとのお話ですよね。でしたら強制転移の札はいかがでしょうか。階層ボスに挑んでくださるなら無償でお渡ししますが」
強制転移の札があれば死んでもダンジョンの外に出られるので、絶対に蘇生してもらえるのだ。なので結婚直前に殉職することはない。冒険者を職業と言うかは議論のしどころではあるが。
「マジで? 強制転移の札って絶対にダンジョンの外に出られるやつか。それを無償でもらえるなら危険はなくなるなあ……でもあの女と一緒に組むのは」
よしちょっと心が揺れているようだ。もう少し説得すればいけそうだな。
「結婚って思ったよりお金がかかるって聞きますよ。ならここは階層ボスに挑んで最後のひと儲けしたほうがいいのではないでしょうか。ソールレイスと組むのは嫌かもしれませんが、あいつは味方にするとすごく頼もしいですよ」
「……俺だって冒険者だ。あの女が強いのはわかってるさ。性格が酷いのもな」
流石はソールレイスだ。言動は相当ひどいが、それでもなお認めざるを得ない力を示している。
ただあいつのことを弁護しておくと、言うほど悪い奴ってわけでもないんだ。ソールレイスがどんな人物かを知っていれば、ああいう奴だからなで済ませられる。
それにあいつはどんな相手でも暴言を吐くわけではない。普通に会話している分には話がかみ合わない程度だし、基本的に実力を認めた者以外にはそもそも悪口も言わないのだ。
今回は最悪のタイミングで出会ってしまっただけで。
「ならソールレイスを利用して最後のひと儲けはどうですか? あいつは利用されてもまったく文句言いませんよ」
「……そうなのか?」
「はい。あいつは階層ボスを倒せればいいので。なのであいつをサポートしてボスを倒させて、素材の分け前を頂きましょう」
ソールレイスは階層ボスを倒せさえすれば、利用されても文句は言うまい。
「…………わかった。改めてみんなと話し合って相談してみるよ。ただおそらく階層ボス討伐には参加させてもらうと思う。やはりみんな金は欲しいからな」
そう言い残して【闇夜の竜殺し】のリーダーは帰っていった。そして翌日、参加すると正式に返事が来るのだった。
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よろしければ読んでいただけると嬉しいです。
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