第13話 インターバル
上陸した四人は、ミロウンガ号へ帰還した。最初の接触は成功だったとサクロは考えた。
ミロウンガ号の戦闘指揮所に六人が集まり、今後のことを話し合った。イヌビトたちの集落で何があったかをサクロが説明して、ルルアとスーの二人がそれに補足説明を加えた。
「それで、その生肉と脳みその和え物が、塩だけの味付けだったんだけど、新鮮だからかとにかく美味しかったんだよね」
スーは、いたって大真面目にそう報告する。
「上陸組ばっかり美味しいもの食べられて、ずるい! 次は絶対、私も行くから」
そういうマーザは本気で悔しそうだ。
「オレは何も食べていないが、代わって欲しいなら代わってやろうか?」と、ナウルがマーザをなだめる。
「分かりました。報告ありがとうございました。それで、調査官たちは、次の行動はどうするのですか?」
ファルハ艦長はサクロにそう尋ねる。
三年間の調査期間でやることは山のようにあった。最終的な目的は、マックスcにおける脅威を排除したのち、リゾート地として開発することだ。すでに脅威は去った。なので本調査隊が来る前にしておかなければならないことは、大きく分けると三つある。
一つ目は、人や資材を受け入れるための宇宙港の候補地の調査、二つ目は、原住民たちを労働力として雇用する可能性の調査だ。原住民には、ゆくゆくは食料生産や、リゾート地でサービスを提供する連合傘下の企業の下で働いてもらうことになる。そのためには、原住民に銀河連合経済協力機構の価値観を共有させ、連合の経済システムに組み込む必要がある。三つ目は、有用な動植物や微生物の調査になる。未知の惑星には薬用の植物や、実用に応用可能な構造を持つ生物が珍しくない。
それらの膨大な調査項目に優先順位を付ける必要があるけれど、方舟を沈めた今、サクロは原住民たちとのコミュニケーションを最も優先すべきと考えていた。マックスcにある五つの大きな島はいずれも深い樹林で覆われていて、宇宙港の候補地の探索には現地民の案内が不可欠に思えた。また、連合機構と価値観を共有させるためには言葉によるコミュニケーションは必須であり、有用な動植物の蒐集も原住民たちに聞いたり、買ったりするのがもっとも手っ取り早いはずだ。
そのためサクロは、今後の調査で最も優先すべきなのは原住民との言語によるコミュニケーションであると述べた。
「というわけで、イヌビトたちとの言語による意志疎通ができるように、彼らの言葉をAIに学習させるつもりです。そのため、しばらくあの集落に滞在しようかと思います」
「分かりました。では戦闘車をお貸ししましょう。運転手はスー、引き続き頼みます。マーザも行きますか?」
「はい!」
「では、ナウルと私は艦に残るので、二人は調査官の護衛をしてください」
「了解です」
「それと、私からサクロさんにお願いがあるのですがよろしいですか?」
「はい。なんでしょうか、ファルハ艦長」
「私は、あの戦闘以来、メルビレイ、つまり例の方舟が気になっています。調査官たちが集落に滞在している間、艦による海上からの護衛の任を解いてもらって、メルビレイの沈んだポイントの調査をしたいのですが、よろしいですか」
イヌビトたちの集落は平穏そのもので、護衛は戦闘車で十分すぎるほどだ。艦砲射撃による護衛や制圧が必要になる事態などありそうもない。サクロには何の問題もなかった。むしろ、方舟の核心的な部品の一部でも回収することができれば、仕事の査定に有利に働くかもしれないとすら思えた。
「分かりました。護衛は戦闘車で十分だと思います」
「ありがとう。もし滞在中に必要な物があれば、戦闘車経由で工廠衛星を使ってください。集落に直接物資を着陸させることが可能です」
今後の方針会議の後、イヌビト語の習得は任せろとルルアがいうので、彼女に任せることにした。ルルアは早速、工廠衛星に子ども型ロボットを一体発注していた。その横で、サクロは滞在に必要な物資や、イヌビトへの贈り物としてのアルコール飲料、菓子、ライター、石鹸などと、同時に硬貨として使えそうなコイン型の金属板も大量に発注した。
それらはすぐにマックスcを周回している工廠衛星の無人工場で製造され、二日とかからずに筒に入れられた状態で宇宙からミロウンガ号に着艦した。
ルルアの注文したロボットは人間そっくりにつくられたタイプではなく、一目でロボットと分かるタイプだった。二足歩行ロボットではあるものの、顔の部分は平面的で、ゆるく湾曲したディスプレイで構成されていて、その表情がアニメで表示されている。そして背中にはエネルギーユニットを搭載したバックパックを背負っていた。
「なぜリアルな人間タイプにしなかったんだ?」
「こっちの方が可愛くないですか? イヌビトもこっちの方が好きですよ、ぜったい」
「そうか?」
「そうです。名前も決めました。フェリスにします」
「そうか」
「サクロ先輩こそ、そんなコインどうするつもりですか?」
「これをクレジットの代わりに流通させようと思っている」
「クレジットの代わりに?」
銀河連合経済協力機構の通貨のクレジットは、電子的に保存されたデータなので、紙幣や硬貨は存在しない。クレジットのやりとりはすべて情報端末を介して行われている。しかし、それは逆に言えば、情報端末を持っていないイヌビトたちはクレジットを認識することさえできない。そのため代替手段として、物理的な存在を持ったコインをひとまず流通させるつもりであることをルルアに説明する。彼女はなるほどとしきりに感心していた。
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