第23話 【激ウマらしい】
すっかり夕食時なので、俺達は数日ぶりに宿屋で食事をすることにした。
昼間買い物をしていた時に食材の流通具合はチェック済みだ。
ブラックウルフロードの影響で止まっていた流通もそこそこ回復してきているようだった。
なので恐らく女将さんも食堂で料理を出す為に食材を仕入れているはず……
食堂に入ると、今日も女将さんが出迎えてくれる。
「あんた達、また食べに来てくれたのかい?
今度は美味しいものを用意するから少し待っててくださいな」
席に座り5分ほど待っていると、料理の盛り付けられた皿が運ばれてきた。
「はいお待ち。
どうぞ召し上がれ」
「「いただきます」」
うむ。2人とも『いただきます』に慣れてきたようだ。全く違和感がない。
「んっ!?美味いな!!」
「これは美味しいわね!」
「初日にあの料理が出てきた場所とは思えないくらい美味しいねぇ」
「おいリリア。
さすがに失礼だと思うぞ」
しかしこれは本当に美味いな。
ステーキは肉厚で柔らかく、噛めば口の中で肉汁が溢れ出てくる。
パンもふわふわで初日に食べたものとは比べ物にならないくらい美味しい。
そしてスープに入っているのは……チマチといってたかな?これは恐らくトマトのようなものなんだろうが、これもまた美味い。程良い酸味と調味料で整えられたスープの味が口に残ったステーキの脂を洗い流してくれる。
「女将さん!
すごく美味しいです!」
「それなら良かったよ!
そこのお嬢さんが言うように初日にあんなものを食べさせてしまってから申し訳なくてね。
食材が買えるようになったと聞いて、すぐ仕入れに行ったのよ」
これならブラックウルフロードを倒したのにも意味があるってものだ。
「それにしても本当に美味しいわね。
失礼だとは思うのだけれど、宿屋の女将さんが作る料理にしては美味しすぎると思うのよ。
もしかしてどこかの料理屋でシェフでもしていたの?」
「……ここだけの話、実は王宮料理人をしていた時期があったのだけど、
その時に身に着けたスキルみたいなものね。
元々宿屋をするつもりなんてなかったから、意外なところで経験が生きてることに私も驚いてるのよ」
「王宮料理人?!
そんな凄い人がどうしてこんなところにいるの?」
「細かく話すと長くなってしまうから省くけれど、
この国の王都で生まれた小さい頃の私は、料理人になるのが夢だったの。
だから頑張って料理の腕を磨いて、
数年で若いうちに王宮料理人にまで上り詰めたのよ。
でも、それが気に食わなかった同僚に嵌められて罪を擦り付けられて、
王都から追放されたわ……」
「そんなことが……嫌なことを思い出させてしまったわね。ごめんなさい」
「良いのよ、気にしないで。
それよりこんな暗い話を聞かせてしまってごめんなさいね――」
王宮料理人。後でエルフィナから詳しく話を聞くと、俺が住んでいた世界で言う三ツ星レストランのシェフに匹敵する腕前だそうだ。
そりゃまあ料理もここまで美味しいわけだ。
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