202405⁇
田舎だ。静謐な森が広がっている。雨上がりのふくよかな土の匂い。世界が青ざめているような冷たさを感じる空気。並木通りのような大きな道を、ちょうど半分まで行ったあたりに神社がある。神社には立ち入らない。私は道を歩く。森を抜けると田んぼが広がっていて、賽の目のように畦道が走り、たまに納屋のようなものがぽつんと建っている。コンクリートの側溝には蓋があったりなかったりして、踏み外せば落ちてしまう。このあたりに人の気配はない。そう思っていたが、若者が、数人話しているのが見える。
空中、いや、空間に赤い線が見える。子供が作った失敗作のあやとりのように、無秩序に走った細い赤。触れることはできない。その線は、神様が怒っている証拠だった。なぜ怒っている?
私たちにはひとりひとり、名前がある。そこで話している若者たちにも。人は生まれ変わる。ここで生まれた人たちは、名前の中に一文字、生前の名前に使われていた文字が入ってる。そうやって、受け継いでいく。
この田舎は、神社を中心とした狭い範囲で閉じている。ここだけが青く静かで、時々、赤い線がそこらじゅうに伸びる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます