202405⁇

 田舎だ。静謐な森が広がっている。雨上がりのふくよかな土の匂い。世界が青ざめているような冷たさを感じる空気。並木通りのような大きな道を、ちょうど半分まで行ったあたりに神社がある。神社には立ち入らない。私は道を歩く。森を抜けると田んぼが広がっていて、賽の目のように畦道が走り、たまに納屋のようなものがぽつんと建っている。コンクリートの側溝には蓋があったりなかったりして、踏み外せば落ちてしまう。このあたりに人の気配はない。そう思っていたが、若者が、数人話しているのが見える。

 空中、いや、空間に赤い線が見える。子供が作った失敗作のあやとりのように、無秩序に走った細い赤。触れることはできない。その線は、神様が怒っている証拠だった。なぜ怒っている?

 私たちにはひとりひとり、名前がある。そこで話している若者たちにも。人は生まれ変わる。ここで生まれた人たちは、名前の中に一文字、生前の名前に使われていた文字が入ってる。そうやって、受け継いでいく。

 この田舎は、神社を中心とした狭い範囲で閉じている。ここだけが青く静かで、時々、赤い線がそこらじゅうに伸びる。

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