ラストリゾート
香田
1. 希望的悲劇
あと1週間で隕石が降ってくる。
5年前、1%の確率で隕石が当たるかもという程度のニュースで焦っていたあの自分ならきっと今頃、取り乱していたことだろう。
だけど、今の自分は失いたくない幸せなどとうに奪われてしまった抜け殻で。
惰性で息をして、食べ物を食べて、働いて、眠って、コピー&ペーストを繰り返すロボット。
目の前にニンジンとしてぶら下げていたほんの少しの期待は、日々を重ねるごとに小さくなり、「何のために生きるのか。」ではなく、「死ぬ勇気はいつ湧いてくるのか。」が、自分にとってのテーマになっていた。
でもそれも、今日で終わり。
何年もの構想を経て行われた隕石の衝突を避けるための全世界のプロジェクトは全て失敗に終わり、1週間後に隕石が落ちることはほぼ確実になった。
教会で祈りを捧げる人たちや、最期の時を目一杯楽しもうとする人たち、隕石衝突時に苦しんで死ぬよりも安楽死を選ぶ人たち。
そんな人達の心持とは裏腹に、この1週間が来るのを心待ちにしていた自分。
誰かにとっての限られた時間は誰かにとっての永遠で、誰かにとっての悲しみは誰かにとっての喜びで、誰かにとっての絶望は誰かにとっての希望である。
もう二度と君を失わないで済むのなら。
もう一度二人で同じ時を過ごすなら。
この1週間しかない。
だから、また始めよう。
最後の1週間を。
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