流れゆく額の汗が規定量超えて爆誕 夏の妖精


一人の男が朝、仕事に向かうため自宅のドアを潜った。

外に出た途端、男に熱気がまとわりついて、玄関の庇の影から出れば太陽光が男を照らした。男は思わず手で太陽を遮り、夏だと思った。

男は歩き出す。

駅まで歩いて15分だった。男の体は徐々に熱を持つ。歩いているから、太陽の日差しが強いから、纏わりつく空気が湿気を含んでいるから、全ての理由が重なり合って男は汗をかいた。

妻が持たせてくれたハンカチを取り出して、額から、こめかみから、頸から、流れでた汗をハンカチで拭う。

けど、横断歩道に立ち止まった時、拭いきれなかったこめかみの汗が男の輪郭を通り顎先につたう。そしてそのまま粒となり、空中は投げ出された。地面に向かった汗は、そのまま地面の染みとなるはずだった。

けど、汗は地面に落ちなかった。

なぜなら汗は妖精になったから。

男を離れた汗は頭と手足と羽を持つ。汗は地面に落ちる寸前ではえた羽を動かして重力に逆らい空へ向かった。

信号が青になったので男は汗、基は妖精に気がつかないまま、どんどん道を進んでいき見えなくなる。

妖精は自分を生み出した男の背中を見送った後、久しぶりの実体を確かめるように手足を伸ばして、太陽の日差しを身体全体に感じた。

妖精は夏の妖精だった。夏が生まれた時に生まれて、夏の間だけ身体を持てた。透明で、人間の目には見えない。

妖精は高く飛び立つ。空を飛翔して、夏がやってきた喜びを全身で感じ、満足した妖精は飛んでいく。

生まれた使命を果たすため、夏の中を飛んでいく。

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