ツキアカリ6
ヒロとガロウはココをエスコートする事になった。話を詳しく聞いたところ、ココはこの街に来て数日、全く観光が出来てないらしい。ここに来た目的が違うとあの黒服の人達に止められているというのだ。
しかしそれをココは見越していたので、家からロープを持ってきたのでコッソリとお忍びで外に出る手伝いをして欲しいらしい。
現在ココが宿泊しているのは2階の角部屋。窓から飛び降りるのは実質不可能だが、ロープがあればバレないで外に出れる。
それがココの家出計画の全容だ。
「ということでロープを用意しました。2人、実験で下に降りてくれませんか?」
「俺らが被験者って事か?」
「一応、怪我とかできない身分なので......」
「同感だ。俺も怪我したら仕事が出来ないんでな。俺は断らせてもらう」
ガロウが口を挟む。
そのガロウの一言にムッとするココ。
「いいんですか。私のあんな恥ずかしい所を覗き見ておいて、逃げるんですか?本当なら万死に値しますよ??」
笑顔で恐ろしい事を言ってくる。もう、目元が全く笑っていない。
「脅しか?」
少し空気がピリピリしてくる。
「ま、まぁまぁ2人とも落ち着いて」ヒロがそこに入る「いいじゃん、ココが困ってるなら助けてあげようよ」
「フン......面倒事はごめんだ」
「ガロウ!」
ヒロが軽く嗜める。
「......わぁったよ。手伝ってやる。そのかわり絶対怪我すんなよ」
「ありがとうございます」
ロープをベットに縛り付け、窓に垂らす。
「じゃあ俺から行く」
シュルシュルと軽々しく降りていく。そもそもガロウはヒロより断然運動神経が良い。
そもそも、彼は怪我なんてしないタイプなのだ。
「降りたぞ」
次はヒロ。ガロウほど器用ではないが、ゆっくりと安全に地面に着地する。
「あわわ......」
お洒落で可愛いリュックサックを背負ったココがゆっくりと降りてくる。ぎこちない足運びで壁を渡る。
ヒロもガロウも内心ヒヤヒヤしながら見ていていた。
「ひゃっーー」
不運にもココは足を滑らせて姿勢を崩し、落下する。
「ばっか!!」
約1、2メートル程落ちたココをガロウが両手で受け止める。
「ッーー。おっも」
「はぁぁああ!!?ガロウさんってサイテーですね!!」
「受けて止めてもらってそりゃあねぇだろ!?」
怒号が交差する。
「ふふっ。あはは!!」
それを見てヒロが笑い出す。
「急に笑うなよ!?」
「急に笑わないでください!?」
2人同時に。
「「怖いから!!」」
「2人って仲良さそうだね」
「「仲良くない!!」」
必死になっている2人を見て、ヒロは笑い涙を拭きながらヒ笑うのだった。
*
「ふん、ふん、ふふーん」
鼻歌を吹かしながら、ココはスキップを踏んでいた。
それについていくヒロとガロウ。
「なぁ、ヒロ......」
「うん。分かってる」
ガロウの少し怒った声色。
ガロウの言いたい事はヒロにもわかった。苛立ちが立ち込めるガロウに流石のヒロも共感できた。
それもそのはず。
ヒロとガロウは無数の紙袋とプレゼントボックスを担いで足を引きずりながらココについて行っているからだ。
そんな彼らを置いて、ココは何も持たずに呑気にステップ踏んでいるわけで。
「本当にあいつお嬢様なんだな......懐が広すぎるだろ。本当に同年代の人間なのかよ」
「あはは......」
彼女少し常識離れした思考や金銭感覚は確かにお嬢様たるものだった。きっと毎日働いて食い繋いでいるガロウにとっては不満の一つでも言いたくなるんだろう。
「あ!こっちにカフェがありますよおふたり!!」
大声で呼び出すココ。
「勘弁してくれよ......」
「僕はまだいいけどココはそろそろ戻らなくても大丈夫なのー!!?」
ヒロが声をかけるとトコトコとこちらにやってきて、「今何時ぐらいですか?」と聞いてきた。
「2時。ざっと1時間ってぐらいだが」
ガロウが腕時計を読み上げた。
「......そろそろ戻らないと探されますね」
・・・自由気ままだ。
「さて、早く帰りましょう!!」
「さっきから勝手だな!!」
「まぁまぁ、ガロウ落ち着いて。ココ、ここから宿屋の近道知ってるよ」
「路地裏だろ......お前ほんと好きだよな」
「ヒーローは早く駆けつけるためにルート把握を欠かさないのだ」
「早く行きましょう!!」
*
建物の影に入る。少しジメジメとした人気のない道を行く。
そういえば路地裏といえば、ココと出会った所だ。なんて考えた。あの時はトラブルを起こしていたけれど、なんでココは路地裏なんて1人でいたんだろうか。まさか、脱走は初めてじゃないのか。
「ねぇーー」
それはヒロが声をかけようと思った瞬間だった。
「......ヒロ」
何やら険しい顔つきでガロウが歩みを止めた。
「その、臭わないか」
「ん?まぁちょっと臭いかもだけど。どうしたの?」
確かに少し生臭いような気がするけれど、ここは路地裏。あまり違和感に思えない。
「いや......」
言葉を濁すガロウ。ずっと張り詰めた顔で何か考えている。
不穏な雰囲気だ。
「どうしたんですかガロウさん。思い詰めた顔で」
「少し嫌な予感がしただけだ。気のせい気のせい。いやなに、ちょっと生臭いような感じでな」
「うーん?腐った生魚が捨ててたりしてるのは珍しい事じゃないよ」
少しだけ、違和感を感じる。
不安。不穏。ちょっとした胸のざわめきがあるというか。焦燥感にも似たいわゆる“嫌な予感”がヒロに生まれる。
少し気まずい沈黙の中、3人歩いていた。それだけではない。進めば進むほど、臭いは強くなっていくし、胸のざわめきは膨張していった。
でもそんな気持ちを否定したくて、払拭したくなって、歩みだけは止めなかった。
そしてヒロは後悔することになる。
近道をしようとした事を。
胸のざわめきという直感を信じて引き返さなかった事に。
それはただのありふれた曲がり角だった。
石を砕くような鈍い骨を砕く音。血濡れた肉塊が擦れる咀嚼音。あたり一面に見たことのない量の鮮血が広がっていた。
ヒロ達が目撃したのは、老人の姿をした化け物が肉塊と化した子供だったものを咀嚼していると頃だった。
老人はヒロ達を見るなり、紅い歯を見せて不気味にはにかんだ。
その日、ヒロは人生で最大の困惑と衝撃を受けた。
死体を見たことでも、食人族を見たわけでもなく。目の前の老人が、昨日予約を入れたヒューマノイドだったという事に。
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