ダンジョン配信者スレイヤー、配信妨害していたらダンジョン攻略ギルドで最上級攻略者に推薦されてしまう……
ナナシリア
第1話 ダンジョン配信者スレイヤー
配信者が持つ手持ちカメラ。ダンジョン攻略用の剣を、それに向けて振るう。
俺の剣は配信者の身体を綺麗に避け、カメラだけにクリティカルヒット。
カメラはダンジョンでの配信向けに頑丈な造りをしているが、それでも直接攻撃には耐えられない。
強い衝撃と斬撃を受け、手持ちカメラは中のパーツが飛び出すくらいに傷ついた。
「えっ……お前なにしてんの!?」
カメラの持ち主が驚愕の声をあげる。
たぶん有名配信者だろう。機材もいいものを揃えている。
しかし、実力が伴っているとも限らない。今回の場合は、対モンスターの実力は高いみたいだが、対人戦はからっきしだった。
「俺はリア充が許せない!」
「——は? そんなふざけた理由で? 俺がどれだけ配信に力を入れているかわかるか!?」
配信者は自分勝手に都合を語った。
彼にとってはそうかもしれないが、俺や、俺のフォロワーにとってはその都合は関係ない。
「わめくな殺すぞ」
ダンジョン攻略用の剣。有名配信者に、差し向ける。
有名配信者は、足を竦ませながらも、なんとか俺に向けて剣を構える。
俺は即座に駆け寄り、彼が構えた剣を弾き飛ばす。幸いなことに、彼の身体に直接刃物が通ることはなかった。
床に転がった剣を拾い上げると、丸腰の有名配信者はがくがくと震えてその場に崩れ落ちる。
無様だ。名声ある人間が、こうやってなにもできずにいる様子を見られるのが俺は好きだ。
しかし、配信者の都合が全世界共通だと思われるのは好ましくない。
「こっちだって必死で生きてるんだ。それなのに、お前たちダンジョン配信者はたまたま有名になりやがって! おかしいだろ!」
大声で怒鳴り力説する。剣を握る手に力がこもる。
目の前の配信者は完全に腰が抜けてしまっていた。ダンジョンのモンスターを相手にするのは慣れていても、対人戦は慣れていないのだろう。その状態で怒鳴られてしまっては、動けなくなるのも納得か。
無理もない。こちらは配信者を相手にし続けているのに対して、あちらはモンスターばかりと戦っている。
「配信活動を辞めれば、命は奪わない。だから、もう二度と配信をするな」
ダンジョンの床に倒れ込んだ配信者に背を向ける。一気に背後の恐怖が強くなるのを感じる。いい気味だ。
「ま、モンスターから生き残れたら、の話だけどな」
にやりと、邪悪に笑う。
配信者の呼吸がどんどん荒くなっていく。それだけ焦りと恐怖を抱いている。
可哀想に、運悪く俺に見つかってしまったがためにこんな目に遭ってしまって。
しかし、それもすべて配信を始めて、成功してしまったのが悪い。
「待ってくれ、助けてくれ!」
「嫌だね。ご自慢の実力で、生き残れよ」
時たま襲い掛かるモンスターを片手間に捌きながら、ゆっくりと歩き去る。
配信者の声を無視し続けているうちに、いつしかその声は聞こえなくなっていた。
「ということで本日の配信は以上になります! いかがでしたか?」
締めの挨拶をして、カメラを切る。
ライブのコメントが流れていくのに、俺は目を通した。
【自分も配信してるくせに配信者狩るのきしょすぎる】
【ダンジョン配信者スレイヤー配信の語感すこ】
【なーにドヤ顔してんだ。自分は大して苦労してないくせに】
【非リアの味方感出しといてスレイヤー配信で稼いでるだろお前】
【拗らせこどおじの典型例】
【死ね】
相変わらずアンチばかりだなあ。
こんな配信をして、ダンジョン配信者とその視聴者を敵に回している以上、アンチが増えるのは必然ではある。しかし非リア諸君は俺を応援してくれてもいいんじゃないか。
そんな中で、一つのコメントに目が留まる。
【BANされろ】
「こういうのが一番怖いんだよなあ……」
具体的で、しかも現実的な内容。
ダンジョン配信者スレイヤー配信なんていう非倫理的なことをやっているものだから、BAN判定を食らってもおかしくない。
なるべく暴力的な描写は避けるようにしているので、延命できればいいが……。
「法律面も怖いし」
突然世界中にダンジョンが現れてから、まだ一か月かそこらだろうか。
日本の立法権力は面倒な仕組みをしているもので、ダンジョンに関する法律の整備はまだまだ追いついておらず、ダンジョンの中は完全に無法地帯となっていた。
しかし、法整備が追いついたとき、ダンジョン内での暴行は真っ先に規制対象になること間違いなし。その時がダンジョン配信者スレイヤー配信の寿命だろう。
「そもそもいつ警察のパトロールが始まってもおかしくないし……」
現状では、ダンジョンに立ち入った際の影響や、ダンジョン内の危険性を考慮し、警察のパトロールは行われていない。
「今日は上がるか……」
配信は気力を遣う。
いつBANされるか。いつ配信者に負けるか。
今日はもうゆっくり休みたい気分だった。
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