第4話 冒険者

 建物の中は、想像していた物とは全く違っていた。

 俺の想像していたギルドは、昔見ていた異世界物のアニメのように、イカツイ男たちの喧騒によって常時騒がしい場所だ。

 しかし実際のギルドは、お役所かよとツッコミたくなるほどに静かで、鎧を付けた冒険者と思わしき人たちもゴリマッチョよりも線の細い細マッチョが多い。


「早く行きますよ」


「は、はい」


 女性の背中を追い、ギルド内を進む。

 彼女は冒険者の中では有名人のようで、周囲の冒険者からの視線が集まって来ている。


「あれって――」


「――モンスターだよな」


 こそこそと噂話が聞こえて来るが、おっさんの耳では聞き取れない。だが女性の武勇伝でも語っているのだろうと、俺は思っている。


「ギルド長を呼んでくれ」


「どういったご用件でしょうか?」


「初スキルの発見だ」


「は、はい!」


 女性からの言葉に、受付の人は慌てて奥へと消えて行った。

 初スキルかぁ……できるだけ時間を取られないと良いけど。


「お待たせしました、あちらの部屋へどうぞ」


「行きましょう」


「はい」


 案内された部屋は、シンプルな机と椅子しか置いてなく、来賓室というよりは会議室と呼ぶのが正しい部屋だな。

 

「ギルド長を呼んでまいりますので、お掛けになってお待ちください」


 俺と女性は隣り合って座る。

 それにしても、ずっと静かだなゴン太。


「大丈夫か、ゴン太」


「コン!」


 返事は元気だし、意図的に静かにしてくれていたのか?

 こういう知性的なところを見ると、改めて普通の動物じゃなくて、魔物なんだなと思う。


「入るぞ」


「はい」


 女性が立ち上がったため、俺も合わせて立ち上がる。こういった時の反応速度は、社会人になってから磨かれたものだし、多少はあのクソ会社でも学んだことがあるんだな……。

 現実逃避は終わりにして、ギルド長イカツ過ぎるだろ。


「それで、そいつが初スキルらしきものに目覚めたって奴か?」


「はい」


 声まで怖えぇぇ!!?

 プロレスラーみたいなガタイで、顔には死線を潜り抜けた勲章のような傷跡、腕に刻まれた龍の入れ墨。まるでヤ――いや止めておこう。


「じゃあここに手を置いてもらえるか」


「えっ?」


 ギルド長は机を指さして言った。

 指を詰めろってことですか!? 俺は冒険者でもなければ、ヤ――でもないんですが!? 


「早くしてくれ、俺も忙しいんだ」


「は、はい!」


 あの声で言われたら、やらないわけにはいかないだろ!!

 ふぅ、覚悟を決めるか。

 左手ではゴン太を撫でつつ、右手を机に置く。


「じゃあ行くぞ」


「……はい」


 ふぅ……やっぱ無理! 指を詰めるなんてカタギには無理だ!!

 そう思って手を退かそうとしたが、逃がさんと手首に手錠が掛けられる。


「ギャァァァァ!!」


「うるせぇぞ!!」


「ヒッ」


 こっわ。

 指詰めよりも人の方が怖いなんて……諦めよう。俺は指と引き換えに、ゴン太との安寧を手に入れるんだ。


「終わったぞ」


「へっ?」


「確かに初確認のスキルだ」


 ギルド長が渡してきた紙を受け取る。

 

種族名 人族

個体名 窪田 悟

スキル テイム

従魔 ・ゴン太


 これは……アニメとかでありがちなステータスか?


「何勘違いしていたのか知らないが、この机にはステータス測定機能が付与されている。俗に言う魔道具だ」


「魔道具……」


「ここからは勧誘に入るが、スキルに目覚めたのなら、ギルドに所属して欲しい……が無理強いはしねえ」


 いや、世ではそれを脅迫と言います。

 そのイカつい顔を近付けて、無理強いはしないと言われても、拒否できる人なんていません。


「は、入ります」


「よし、この書類に必要事項を書いてくれ」


「は、はい」


 いろいろと書いていく。

 名前や生年月日、住所などの基本事項を書き終える。

 そんな俺を待っていたのは、途方もなく長い規約の同意書だ。


「……」


 慣れない人では読み飛ばしてしまいそうな文だが、社会人として擦り切れた俺は、小さい字で不利なことが書かれていないか、言い回しで二つの解釈があるものはないかなど、隅々まで読み込んでいく。


 ほぼ一般的な規約だった。

 強いて言うなら、個人事業主となってギルドと契約するため、何かあった際は自己責任という所だけが心配だが、死と隣り合わせの職業だから仕方ないのだろう。


 よし、書くか。

 隣のギルド長から発せられる圧が怖いしな。


「ようこそ、窪田悟。これからお前もFランク冒険者だ」


「は、はい。よろしくお願いします」


「これから、私が色々教えてやる!」


「は、はい?」


 最初以外は敬語を貫いていた女性が、急にタメ口で来た。

 確かに同業者で、後輩になったが、急すぎやしないか?


「凜々花はお前と同じFランクだが、半年先輩になるから、色々教わるといい」


 同じFランクだと?

 いやいや、何かの間違いだ! 車に乗った時、後進に夢を見させる的なことを言っていただろ! そもそも最下級のFランクでは高級車に乗れないだろ!


「あと、凜々花。レンタカーを荒々しく乗るのは止めろと、何度言ったら分かる!」


「す、すみません。ち――ギルド長」


 えっ? そこ親子なのか?

 あとレンタカーなのに、あんなに荒かったのか?


「早く行こう悟!」


「えっ?」


 腕を組んで引っ張られる。

 逃げるのに俺を使わないでほし――ッギルド長が睨みつけて来ているんだが!? それは逃げることに対してなのか、おっさんが娘と接近しているからなのか、結果次第で俺の命の有無が変わるんですけどォ!?


 ゴン太可愛いなぁ。


――あとがき――

契約書はしっかり読みましょう。

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