おっさんテイマー~趣味のキャンプ飯を間違ってダンジョンでやったら魔物に懐かれました〜

Umi

第1章 焔が輝く狐火

第1話 狐?

 夜道を疲れた様子でフラフラと歩く1人の中年男性こと、この俺、窪田悟は超がつくほどのブラック企業に勤めていることを除けば、ごく普通のサラリーマンだ。


 大学新卒の就職活動で失敗して、やっとの思いで入れた企業もドが付くほどブラック。辞めようにも、資格を持たない俺が転職したとしても、再びブラックに入るのが関の山であり、そもそも職を失う恐怖に足が震え、その1歩を踏み出す勇気さえ持ち合わせていなかったため、結局十数年もの間、ブラック企業で働き続けている。


 その十数年ですり減った精神は、休日にやる趣味のキャンプ飯のみが支えてくれていた。


「はぁ、2連休なんていつぶりだろうな……」


 地獄の15連勤から帰宅してきた俺は、明日から始まる2連休に希望を抱きながら、ベッドの中に身体を委ねた。安月給の中、無理して購入した高級マットレスは、身体を優しく受け止め、深い眠りへと落としてくれた。



 翌朝。

 勤労戦士として鍛えられた肉体は、一晩眠れば元気な大人を演出するようになっていた。

 当然演出しているだけで、身体の芯には疲れが残っており、いつかは積み重ねた疲れが爆発する運命なのだろうが、気にせず趣味に勤しむ。どうせ長生きは出来ない身体だからだ。


「久々の2連休だし、行ったことがないところがいいな……」


 スマホを弄りながら、自宅から程よく近い穴場のキャンプ場を探す。

 探し始めてから十数分、ようやくお目当てのキャンプ場を発見することができた。


「ここなら当日でも受け付けてくれるみたいだし、早速向かうとするか……」


 重たいキャンプ道具を車へと積んでいき、忘れ物をしていないかのトリプルチェックを済ませてから、車へと乗り込み、キャンプ場へと向かう。

 道中の車内では、若い頃よく聞いていたアニメソングを聞き漁り、一分たりとも時間を無駄にしない。


「ここからは歩きか……それにしても人がいない。時代はダンジョンだもんな……」


 十数年前に発生した第一世代ダンジョンを皮切りに、世界中に大量のダンジョンが発生し、人々を魅了した。

 クリーンエネルギー、ポーション、スキルなどファンタジー世界のみで生きていた言葉は現実となり、人々の熱意を一点に集めることとなった。


「まあ俺みたいな社畜のおっさんには無縁の話だけどな」


 確かにダンジョンは世界に大きな影響を及ぼしているが、俺が務める会社の事業はダンジョンとの関わりが薄く、そもそも社長がダンジョン嫌悪世代なこともあって、会社は進んでダンジョンとの関わりを断っていた。


「この山道を登ったところがキャンプ場か」


 人がいないとはいえ、キャンプ場と謳っているいるため、山道はしっかりと舗装されていて、俺のようなおっさんでも登りやすそうな道だ。

 

 と思っていた数分前の俺を殴りたい。重たいキャンプ用具を背負っての登山のようなもので、脚も腰も悲鳴を上げていた。

 

「はぁはぁ……あと少しでキャンプ場だ……」


 スマホを見ながら、山道を進む。こんな小さな山でも、遭難する可能性はゼロとは言えないからな。まあスマホがあれば、道を間違うわけないから、心配はしていないが。


「ここを……あっ」


 一本道だったから、余裕ぶっこいてスマホを見ずに登って来たのが災いした。気付かぬうちにスマホの充電が切れており、この分かれ道でどちらに行けばいいのか、分からなくなってしまった。


「ま、まあ違ったら来た道を戻ればいいだけだし……何となく左に行こう」


 ある程度舗装されている道だから、来た道が分からなくなることはないはずだ。

 

 俺の勘は良かったみたいだ。


「ここがキャンプ場か……早くテントを設営して、焚火を作らないとな」


 だいぶ苦戦してしまったせいで、だいぶ日が落ちてきているし、完全に日が落ち切る前に準備しないと、大変になるからな。


 

 ふぅ、ギリギリ間に合った。

 もう真っ暗になっているし、メシでも作ってゆっくりするか。


「適当に肉を焼いて……味付けをして……よし、良い感じにできたな」


 アツアツの肉にかぶりつく。

 歯を突き立てたところから溢れ出る肉汁は、肉体に蓄積した疲労からの解放を教えてくれる。


「あんなに持ってきたのに……」


 一心不乱に喰らいついてしまったせいで、気づけばあと一口分しか残っていない。

 大事に食べようと思い、これまで以上にタレへと潜らせて、口へと運ぼうとした時、森が騒めいた。

 社畜として培われてきた生と死の際に対するライン引き、それが騒めきに反応してしまい箸の間から肉が零れ落ちる。


「あっ」


 肉が地面に落下するまでの1秒にも満たない時間。俺の瞳にはスローモーションに映っていた。

 まあスローモーションに見えていようと、俺の動きが速くなるわけでもないし、嫌がらせにしかならない。


 そして肉ばかりに意識を向けるわけにもいかない。

 先ほどの森のざわめき、あれは風によるものではなく、確実に動物によるものだと、経験が言っている。


「――」


 唾を呑み、息を潜める。

 鹿とか兎とかであれば大丈夫だが、猪や熊となるとマズい。

 冷や汗を垂らしながら、揺れた林に注視する。草食動物が出てくることを願いながら。

 

「コン」


「狐?」


 しかし林から出てきたのは、一切予想していなかった生物だった。


――あとがき――

野生の狐――動物全般に触れるのは止めましょう。

病気や寄生虫を持っている可能性が高いです。

これはフィクションです。


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