湖の公園 ……（交遊記）5

　　灯し日の会の春

　ウッちゃんから一本の電話がかかってきた。

　「灯し日の会を４月９日にケンが計画しているんだって。」

　それを聞いた善行はすぐにガンちゃんへ電話し、詳細を確かめることにした。

　「ガンちゃん、元気？」

　「うん、元気だよ。」

　ガンちゃんは相変わらずの様子だ。

　「ケンが交遊会を計画しているみたいなんだけど……」

　善行は、スマホを持つ手を変えて、聞き耳を立てる。

　「知ってるよ。でも、グループホームでの用があって行けないんだ。」

　「そうなんだ……」

　「僕の代わりに楽しんできてね。」

　「わかった！」

　こうして、灯し日の会はケン、ウッちゃん、善行の三人で行くことになった。

　後日、ケンからのメールで、今回は湖のある公園へ桜を見に行く計画だと知った。集合は中央駅南口のニャンデュウ入口前、時間は１０時３０分。加えて、最近買ったデュエルマスターズのカードデッキを持参するようにとの指示が添えられていた。

　　再会の喜び

　当日、善行は普段より早く家を出て、中央駅へ向かう電車に揺られてい。久しぶりの再会に胸が高鳴る。

　４月のはずなのに、まるで５月の終わりのような穏やかな晴天。桜を見るには、絶好の日だった。

　車窓に映る景色の中で、テレビのニュースが、ふと脳裏をよぎる。ウクライナ、中国、アメリカ……世界は騒がしい。でも、日本は平和だな、と善行はぼんやりと思った。

　善行は、待ち合わせ場所に到着し待っていると、寒さに震え、不安が募る。

　――本当に、ここに来るのだろうか？　待ち合わせの場所は、ここでいいのだろうか？　 そんなことを考えていると、遠くから元気な声が響いた。

　「 よちゃん、こっちこっち！」

　振り向くと、ケンとウッちゃんが、満面の笑顔で手を振っていた。

　「お久しぶりです！あはは……」

　「ケンは元気そうだね。」

　「はい、元気ですよ！」

　温かい挨拶を交わし、ウッちゃんが問いかける。

　「カード、持ってきましたか？」

　「うん、持ってきたよ。スマホでやり方を見たけど、実際にやらないと分からないね……」

　「じゃあ、公園に行って、でやりましょう！」

　「うん！」

　　ケンの見事な計画

　会話が盛り上がると、ケンは今日の予定を発表した。

　「これからバスに乗って湖のある公園へ行きます。公園ではゆっくり過ごし、カードゲームをしたり桜を楽しんだり。その後はタクシーで丸外ラーメン屋へ向かい、食事をした後に中央駅へ戻り、近くのマックで軽食をとって解散します。」

　「おお！」

　ウッちゃんと善行はケンの堂々とした様子に驚いた。予想外のサプライズ、タクシーの利用まで盛り込まれていて、どうなるのか楽しみだった。

　「じゃあ、バスに乗りましょう！」

　そう言って三人はバス停へ向かった。ほどなくバスが滑り込んできて、乗り込むと車窓から街の風景が流れていく。

　「この辺り、よく知ってるんですよ。職場がこの近くにあるので毎日通っています。」

　善行は思った。

　――ケンはこういうところで生活しているんだな……

　街の様子が変わっていく。やがて市民病院が見え、目的の公園前のバス停に到着した。

　　公園でのひととき

　まずは隣接するスーパーでドリンクを購入し、公園へ向かう。

　「桜はまだ満開じゃないみたいだね。」

　「うん、満開になるともっとふっくらして、ボリュームが出るよね。」

　静かな湖畔で桜を愛でながら、ウッちゃんがカードゲームを提案した。

　「ゲームをしよう！」

　ケンは場所を探し、小屋のような遊べるところを見つけた。

　そこでカードバトルが始まった。ウッちゃんのデッキは最強にカスタマイズされていて、善行は歯が立たない。何度挑んでも敗北を喫した。

　ケンは黙ってその様子を観察していた。どうやら、しっかりルールを理解してから善行と対戦したいらしい。

　――ちょっと、ケンに、負けるのは嫌だなぁ……

　ゲームの余韻を残しつつ、ケンは言った。

　「ラーメンを食べに行きましょう。今タクシーを呼びます。」

　　サプライズとトラブル

　タクシーで丸外ラーメン屋へ向かったが、まさかの休業日だった。

　善行とウッちゃんはケンに任せておけば大丈夫と楽観していたが、ケンは、頭が、真っ白になって、大慌てで、スマホを弄って、ラーメン屋を探し、丸内ラーメン屋へ行くことを提案した。

　善行とウッチャンは、「ＯＫ」と了承した。

　タクシーは行き先を換えて、丸内ラーメン屋へ。そこは営業しており、無事に食事にありつけた。

　　ラーメンを食べながら話題はテレビへ。

　「最近テレビ見ないんだ……」

　「私はネットで見ることが多いね。」

　「私も音楽ばかり聞いていて、テレビを見なくなったな……」

　テレビを見ないことが良いのか悪いのか、善行には判断できなかった。

　　長い帰路

　食後、バス停の場所が分からず迷う三人。丸内ラーメン屋の店員から聞いた話では、「右に曲がって、真っすぐ行けばある」と言うが。歩いても見つからず不安が、募る。

　しかし、突然ウッちゃんが叫んだ。

　「あれ、バス停じゃない？」

　「本当だ！」

　バスの時刻表を確認すると、約４０分後に到着することが分かった。

　バスに乗り、中央駅に帰還。最後はウッちゃんの希望で、マックに寄り、軽食をとって解散した。

　帰りの電車で善行は今日一日を振り返った。

　――ケンのおかげで楽しかったな。ありがとう、ケン。

　幸せな余韻を残したまま、善行はアパートへ帰り、リキュールを一杯。ほどなくして眠りについた。

　次の日の早朝、彼は新たな一日へ向けて作業所へと向かった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０２２，４，１０