アキトくんの心の弱さ

「先輩、相変わらず反射神経いいね。

子どもが飛び出したときに反射的に飛び出して、ギリギリで車を回避することができる反射神経? 相変わらずだよ」


 暗くて表情見えなくてもわかる、虚無な顔をしてること。

 優斗にその表情を何回もさせてしまったから。


 ボールを追いかけた子どもを抱えてギリギリ回避したときも。

 階段の滑り止めにつっかかった女子生徒を庇って、背中から落ちたときも(運よくカバンがクッションになって、打ち身だけですんだ)

 テスト直前に、姉の頼みごとを聞いて、一睡もせずにテストに挑んで誰もいないところで倒れたときも。

 痴話げんかをした生徒を仲裁し、平手打ちをされ、殴られそうになったときも。

 生徒会のメンバーが間に合わなかった書類を肩代わりして、一人で作業していた時も、毎回そんな顔をしてたから。


 きっと、僕はヒーロー志望を、病的にこじらせていたんだと思う。

 心が折れて、それに気づくことができた。

 大切な人に、そんな表情をさせてまで叶えるべき夢ではなかったんだよね。……今回はつい、手を出しちゃったけど、大切にしてくれる人のために反射的に動く癖をどうにかしないと。


「ごめんね、もう自分が怪我をすることはしないように気をつけるから」


 もう無茶はしないと、今は意思表明することしかできない。

 その言葉に、暗くてもわかった。優斗は驚いたように目を見開き、すぐに目じりに涙が溜まり、嬉しそうに微笑むのが。


「……やっと、気づいてくれたんで、今回は許します。

それに、まおは俺が抱えていたんだから、猫一匹の衝撃くらい耐えてみせる。反射で動こうとする癖、やめてくれよ」


 先輩をお姫様抱っこできるくらいの筋力はあるんで、と照れくさそうにそういう。……少し泣いてしまったことを恥ずかしがって、素直じゃないことをいうとこ、変わらないなと懐かしく思う。

 それを察したかのように、


「用がある猫見つけたんだろ、戻りますよ」


 話をそらそうとする。

 素直じゃないことを言って、出会った当初はちゃんと先輩として扱っていた時の敬語と、僕を甘やかすために敬語を外した今が混ざった口調になるところも高校生のときのままだ。


 大人になっても、僕を甘やかそうとする君と再会してしまった。もう、僕はこの子から離れられないだろうな……。


「それでよい」


 まおのその言葉に、心を読まれたかと思った。あまりにタイミングが良すぎて。……目的を果たしたから帰るという言葉に、それでいいと答えたんだだけなんだと思うのに。

 僕の心の弱さを、それでいいと肯定されたような気がした。




 






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