第七章 最終決戦〈4〉
「さあ、天使の口づけです。浄化を受け入れなさい」
ペイルの触手が一斉に襲いかかってくる。
だが、同時にアドリーも素早く
「キッモイこと言ってんじゃないわよペイル! 翻れ爆炎、紅蓮に染めよ――
アドリーが
「その疲弊した魔力で放った魔法にしては、なかなかですね。だか、どうせなけなしの一発と言ったところでしょう?」
「フンッ!」
「強がるのはよしなさい、アドリアーナ。今や我が内には、我が率いてきた三千の天族が、その魂が融合されているのです。そして、増大したこの魔力。今や我が力は汝の
「だからなに?」
アドリーは、「はぁァァァァ……」と、呆れ返るような長い溜め息を吐いた。
「ペイル、アンタ忘れてない? うちのダーリンがデビルズサーガの勇者さまだってこと」
「それこそ、だからどうしたと言うのです? まさか、あの技で我をどうにかできるとでも? あの技がそう簡単に出せるものではない事を我が知らないとでもお思いですか?」
「さて、それはどうかしらね……」
アドリーがニヤリと笑う。
その瞬間、再び触手が襲いかかってきた。
「虚影雷鳴斬ッ!」
瞬時にシルヴィが援護に入る。その後ろでアドリーは、ペイルを指を指して笑った。
「アハハハッ、アセってるアセってる!」
「そんなバカな話、聞いた事もありませんが、光の剣使いはやはり根絶やしにせねばなりませんね!」
今度は無数の口から天威による衝撃波が襲う。だが、同時にアドリーも叫んだ。
「ミーッ!」
「魔蟲召喚――蟲結界」
ペイルの攻撃が届く寸前、俺とアドリーを鉄塊蟲が包む。
鉄塊蟲の結界にペイルが攻撃を続ける中、アドリーは俺を見詰めて言うのだった。
「さて、いよいよラスボス戦ね。ここからはダーリンの出番よ」
「俺の……?」
「アタシは天族の奴らを倒す決定打を求めて、こっちの世界にやって来た。でも決定打なんて、もうとっくに見つかっていたの。それがダーリンよ」
「だけど、いくら俺の勇者の力を使ったところで、あの回復力は――」
「聖剣シャイニングブリンガー。あの光の剣は、人の生命力を源とする光魔法、その究極の形なの。そしてそれは、天族の奴らがもっとも恐れる魔法」
「ちょっと待ってくれアドリー。俺はアイツをシャイニングブリンガーで斬ったが、でも効かなかったんだぞ」
「だからね、それだけじゃダメなのよ。アイツらを倒せる唯一の技を出さなければ。あの技は、どんな武器でも魔法でも、本来は決して傷付ける事の出来ない永久不変の存在である『魂』を斬れる唯一の剣技なの」
「それが、あの勇者最強の必殺剣技……」
「そうよ。アタシはそれをダーリンに思い出してもらう為に、シルヴィと戦わせ、アタシも自ら戦った。どのみちリイネを助ける為に、アタシは一度自分の命を絶つつもりだったし。でもそれは、ダーリンを追い込むいい材料にもなってくれたわ。あそこまで本気にならないと、ダーリンもデビルズサーガのすべてを思い出してくれそうになかったからね」
「それじゃ、アドリーは初めから全部計算ずくで……」
「まあね。ほら、アタシ天才だから」
アドリーは得意気に笑い、俺は呆れた苦笑を返した。
「かつて、アタシらの世界にも光の剣使いは居たのよ。でも、天族の奴らに根絶やしにされて、すでに対抗策は失われているの。だから、後は任せるわ。勇者キョウ!」
アドリーは、にっこりと満面の笑みで俺の肩を叩いた。
と、そこに外からミースの叫ぶ声が聞こえた。
「アドリー! 鉄塊蟲、がもう持たない!」
同時に、ペイルの天威と触手の攻撃により蟲結界が崩れ去る。
「ようやく出てきましたね! ならばもう一度拘束するまでッ!」
ペイルの拘束の天威が襲いかかる。
だが、俺はそれに瞬時に反応し、剣を一振りして弾き返した。
「バ、バカな……この魔力量による天威が弾かれるなど……」
驚愕するように呆然とするペイル。
俺は、その手に聖剣シャイニングブリンガーを、その身には、黄金色に輝く光牙の鎧を纏っていた。
そこにリイネの声が聞こえた。
「アンちゃん! アンちゃん!」
後ろの方で同じように蟲結界で守られていたリイネ。声と同時に結界が解かれると、リイネは俺に駆け寄ってきた。
「アンちゃん、その格好……」
「そうか、そうだよな……」
リイネも、この聖剣シャイニングブリンガーと光牙の鎧には、よく見覚えがあるはずだ。リイネには恐怖の対象でしかないデビルズサーガ……
「ごめんリイネ。でも今は……」
「違うの、アンちゃん! ごめんねはリイネの方なの!」
「リイネ……?」
「アンちゃんがゲームの途中で倒れて、それからリイネ、アンちゃんがゲームをやるのが怖くって……でも、ゲームをやめたアンちゃんからは、どんどん友達がいなくなっちゃって、アンちゃんは笑わなくなっちゃったの! そんなアンちゃんを見ているの、リイネとっても辛かったの!」
ゲームはやめたと言っておきながら、新作のゲームやハードが出ると惹かれる俺もいて、俺はいつもその葛藤に悩みながら気持ちを押し殺していた。
当然だ。リイネを泣かせないと決めたんだから。
でも、そんな思いが、逆にリイネを悲しませていたなんて……
「リイネね、あんまりむずかしいゲームは出来ないけど、でも、またアンちゃんと一緒にゲームで遊びたい!」
「リイネ……」
「だからアンちゃん、あんなオバケ、やっつけちゃえなのッ!」
俺は力強く頷き、笑顔を浮かべてリイネの頭を撫でる。
「見てろよリイネ。デビルズサーガをプレイさせたら俺は誰にも負けなかったんだから」
そして、振り返ってペイルを睨み、踏み出した。
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