たまらない、愛してる。
@Yoakira
りく①
重い瞼を開けると蒼白い天井が見えた。
「こ、こはー…」
「ー…りくっ……」
ツンと鼻に付く薫りに混ざる柑橘系の香気。白い布団からは、片方の手足に巻かれた包帯が覗き、点滴を指した腕は痛々しく目立っていた。
(病室ー…? 俺……なんで今ここにいるんだっけ)
自分がなぜここにいるのか困惑した。全身が傷だらけの理由がわからない。
直ぐ傍には椅子に座っている男がいて、真紅髪の容姿、体格、共に申し分ない。切実に名前を読んでいたのは看病者の彼だろう。
だとしたら何日眠っていたのだろうか。
制服をきたその男が縋るように手を握り、離そうとしないから、彼のサラサラした髪がこそばゆくても振り解く気にはなれなかった。男は凄く不安だったのだろう。
かぐわかしい匂いと威厳のある雰囲気でこの男がアルファだとすぐに分かった。本能的に大きな息を吸おうとしたが、直後、浅い呼吸をくりかえし顔が僅かに歪む。
「君はー…誰? どうして、アルファがここに?」
体を起こし痛みに耐えながら彼に聞いた。
Ωの俺とは違い、真紅の短髪に凛々しい眉で、スッと整った鼻。誰もが認めてしまうくらい男前。
社会人の大人をどことなくイメージさせる雰囲気を持ちあわせているが、よく見たら俺と同じ高校の制服だった。一度でも廊下ですれ違ったら忘れられない圧倒的存在感。そんな人が同じ学校にいただろうか。
彼のわずかな動作も見逃さないと、視線は釘付けになりながら答えを待つ。
目を伏せ震わせた唇。八重歯を喰い込ませ顔を上げた時には血が滲み俺の心に風穴を空けた。
「ー…お前は最低のクズだ…」
酷く憎いと、その瞳はボロボロと涙を流し俺を睨んだ。目覚めたばかりの俺に全身全霊の罵声を浴びせたのだ。
「本当に……何も覚えていないのか?」
棘があるのに美しい。鋭い眼光に見上げられ戸惑いつつ。頭に手を当てるが、思い出そうとすればするほど霧がかかったように思い出せない。
「覚えてー…ない。俺は花園理久で高校2年生。Ωで……傷だらけの状態でここにいる理由も、最近あったことがモヤがかかったように思い出せない。君のこともー…」
(俺は事故に遭ったんだろうか。この人が助けてくれたとか……? にしては、心配してくれたみたいだし、この人は俺の大切な人だったんだろうか。でも凄い罵倒されたところだしー…俺、何かしてしまったんだろうか)
男がしばらくしてまた目線を逸らすと、今度は噛みつくような目をしながら低い声で言う。
「服、脱げよ」
「ー…は?」
男はベッドに乗り込むと構わず服を脱がそうとする。
「ちょっ……待てって。こんなのッ……痛いッ」
これ以上俺の身体に踏み込んでこないように抵抗しようとするが、ただただ思うように動かない身体と怪我の痛みを痛感するだけで。あっという間に病衣が両肩から肘まで崩れ落ち胸元が開いた。
肩から胸板へ滑らかに這わした指がそこでピタリと止まり頬に熱が集まる。意地悪く胸の突起を触れるか触れないかで、だ。俺の鼓動は早まり少しでも動けば触れてしまうだろう。
(こいつ……わざと意識させるために……)
俺を跨いだ燃えるように紅い瞳。まるでこの世の全てを手に入れることができる魅惑的な目に見下され息を呑んだ。瞳の奥深くには怒りをチラつかせていた。
「俺は今からお前を抱く。思い出せないなら身体に聞け」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます