第11話 ゑッ!!!!?
情報を得た翌日、あまりにも盛況過ぎたアカモの出店は従業員が二人増えた。
「…いらっしゃいませ、現在列の最後尾はこちらとなっています。順番を守り、追い越しなどはせずお並び下さい」
「安いから買ってけ!!!!!!!」
「…ちょっと、今くらい突然の大声出すのやめなさいトビさん」
一人は先日ユヅルと行動を共にしたガン、そしてもう一人がガンにトビと呼ばれた男だった。ガタイがいいのがゆったりとしたローブの上からでもわかるほどであり、例のごとくフードで顔を隠している。
そんなやり取りをしている二人を見たユヅルは料理の仕上げをしているアカモにそっと耳打ちした。
「あの…副組合長?明らかに呼び込み君の見た目が怪しいと思うんですけどなんでこんなに大盛況なんですか」
「…料理がおいしいんだろう、多分、きっと、恐らくな。てか呼び込み君ってなんだ?おっさんそれなりに長く生きてるけど聞いたことないんだけど…」
「お店に一つ置いておくと中毒性のある音楽を垂れ流して客をリピーターにする呪いの魔道具らしいですよ」
こわっ、と思わず声を漏らすアカモに対し、ユヅルは「まぁ嘘ですけどね」とこぼした。アカモはムグッと口を噤むとそのまま喋らなくなった。
今日は先日得た情報を基にルキが情報を精査、王家お抱えの暗部に情報を流したらしい。そのため現状できることがないアカモ達は店を運営しているわけである。
ちなみにルキは情報の件で王城へと一時的に帰っている。帰る際に、「面白いことがこれから起こるっつうのになんで俺だけ帰らにゃなんねぇんだ!!くそっ!!!」と悪態をついていたのが印象的だ。ただ、近衛騎士に迷惑をかけない程度の悪態だったため、その辺の道理は弁えているらしい。言葉遣いは乱暴なのに、とユヅルは内心で漏らした。
昼を過ぎて時刻は午後2時、食材貯蔵用の荷車を見たアカモが少しだけ驚いたように目を見開く。そしてユヅルに声をかけつつ荷車を指さし、
「売れ行きが良すぎて夕方まで食材が持たんなぁ…なぁユヅル、どうする?元は取れてるし、目的も既に達成してる。材料もなくなるし、今日はもう閉店、ってことで」
あとおっさん疲れちゃった、と漏らした。その発言を聞いたユヅルは物凄い異臭を放つ靴下を見つけた時のような表情をしたが、閉店に関しては賛成のようで「じゃあそうしましょう」とそう言った。この日は惜しまれながらも店じまいとなった。
一方西部収穫祭の真っただ中、西部地区の第一防壁外にある大規模な農村では収穫時期となった作物を収穫するのに大忙しだった。周囲は平野になっており、地平線が見えるほど広い。この平野を超えると別の国があるのだが、関係が良好であるため大きく畑を作ることができている。
そんな農村の中でも王都にほど近い場所にある畑で働いている人影が二つあった。
「───サラ、そっちは終わったかい?」
作業着に身を包み、麦わら帽子を被った老婆が収穫物を担ぎながら、同じく作業着と麦わら帽子に身を包んだサラにそう問いかけた。サラの母の実家、つまりサラの祖母の家に手伝いに来ていた。サラは祖母の問いかけに対し「うん!終わったよ~!」と快活な笑みを浮かべながら答えた。
祖母は実子であるサラの母とは完全に縁を切っている。子供として可愛がっており、しっかり育てたのにも関わらず縁を切っているのだが、その理由は孫であるサラにも聞かされていない。というより、サラが気を使って聞かないようにしているようだ。
ある程度収穫に区切りがついた状態でサラと祖母は休憩のため一度祖母の家へと戻った。サラはテキパキ動き、祖母のために軽食を作ったり飲み物を用意したりしている。祖母はサラに礼を言うと、
「それにしても、サラはいい嫁になるよ…私が保証する」
おもむろにそう呟く。サラはびっくりしたのか一瞬固まったが、すぐにフッと笑うと「そもそも私なんかを貰ってくれる人いないよ…いっつも言ってるじゃん」とそう言った。そうかいそうかい、と祖母は言ったが、飲み物を飲みながら横目でチラリとサラの様子を窺った。
「…サラ、あんた『恋』してんのかい」
ごふっとサラから変な音がしてしばらく咳き込む。少し落ち着いてから、しかし慌てた様子で「何言ってんのばあちゃん!!」と言った。その様子を見た祖母はくつくつと喉を鳴らす。
「どうやら図星らしいね。去年来た時はとてもじゃないがそんなこと考えられない、って顔してたよ。それが今年はどうだい、寂しそうな眼をして、指摘されたら顔を真っ赤にして…」
もうやめておばあちゃん、とサラは顔を両手で覆いながらそう言った。祖母はそんな孫の様子を見てはっはっは!と豪快に笑う。そして飲み物を口に含むと、ふぅと一息ついて遠い所を見つめた。
「…ま、焦るこたないよ。こと人間関係においては特にね。急ぎ過ぎれば…アイツみたいに取り返しがつかなくなるんだから。ま、気長にやんな!」
サラには祖母の言っている意味がイマイチわからなかったが、祖母は構わずというか…と続けた。
「私達当事者が言うのもなんだが、西部収穫祭はでかい祭事だ。あんたの想い人も来てるんじゃないかい?」
その言葉を聞いたサラは、あー…と目を逸らすと同時に少し残念そうな表情を浮かべる。
「仕事でね、多分お祭りにはいるけど楽しむ余裕はないと思うし…大事な仕事だから邪魔したくないかな」
ふーんそうかい、と祖母は目を細める。そしてサラの背中を軽くさすると不思議そうに自らを見るサラに向け告げる。
「じゃ、仕事ならいいんだろ」
西部収穫祭の真っただ中に、サラは冒険者組合の出店へとやって来ていた。祖母に頼まれた仕事は既に収穫済みの食料の配達である。丁度昨日から大量の食材の注文があり、例年通り問題なく対応できる量であったことと、冒険者組合という信頼できる筋からの注文だったため食材を運搬していたのだ。
さて、目的地の冒険者組合の出店までやってきたサラは自らの目を疑った。出店で働いていたのは白いノースリーブシャツを身に着け、頭に鉢巻をした副組合長アカモだったためだ。何よりサラの脳内に『神出鬼没』のはずなのになんでいるんだろうという疑問が浮かんだ。そんなサラの思考を読んだのかアカモは苦笑すると、
「…言わんとしていることはわかるが、まぁとりあえず仕事の話しようやホアイト」
とそう言って自らの依頼書と持ってきた食材に齟齬がないかを確認し、問題がなかったようでお疲れさん、とサラに声をかけた。
サラはホッとしつつ、しかしどこか残念そうにしているサラの様子を見たアカモはふぅ、と一息つくと、
「荷車はこっちで運搬するから、お前さんはちょっと祭りでも楽しんで来いよ」
そう言った。その言葉にサラは怪訝そうにアカモを見ながら首を傾げた。アカモはわからなかったか、と少し苦笑すると「こういうときくらいははしゃぐもんだぞ。お前くらいの年なら尚更な」そう言って怪しげなフードを被った二人に目配せした。
するとフードの二人はサラの両隣を陣取り、それぞれ祭りに行こうと告げる。サラは副組合長の言うことも一理あるし、おばあちゃんも遊べって言ってたしな、と思い祭りを満喫することにした。
三人を見送ったアカモは、一人になった冒険者組合の出店で片付けを始める。途中で何かに気が付いたように「あ」と言ってその動きを止めると、
「…さて、アイツらとユヅルが会わなきゃいいけどな。おっさん知らんよ?」
苦笑を浮かべつつそう呟き、すぐに作業を再開するのだった。
一方、閉店したため暇になってしまったユヅルはなけなしのお金で出店の料理を頬張りながら自分にできることはないかと考えては、できることはないと思い至って諦める、ということを繰り返していた。
先日得た情報を精査し、一部の兵士に怪しい動きがあることと、西部への怪しい金の動きがあることがわかったのだが、それが具体的に何に使われるか、使われているかはまだわからず、対応としては後手後手にならざるを得ない状況なのだ。
「…だからって指を咥えて見ていなきゃいけないなんて」
そんなことはできない、という言葉は飲み込んだ。所詮は一般論、常識、その域を出ず、口先だけである。現状できることがないのであれば待つしかない、下手に動けば状況は悪化することは避けようがない、とユヅルもわかっている。
ただ理解と納得が別である、というだけの話で。
ユヅルは大きくため息を吐いて肩を落とした。祭りには全く相応しくない立ち居振る舞いだが、気に留めるような人は───
「───ユヅルさん?落ち込んでるんですか?」
どうやら、一人だけいたようである。他でもない、ユヅルの間接的な悩みの種であるサラその人だった。無論、ユヅルは驚きすぎて「ゑッ!!!!?」と大声を出してしまったことは言うまでもないだろう。
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