第16話 菱家襲撃

「百里家で開かれた琴の鑑賞会? それって、私も参加していたのですか?」

 上官双晶の言葉に、上官景砂の頭の中はますますこんがらがっていく。そしてそれを上官双晶も感じ取ったのだろう、少しだけ付け加えた。

「ええ。あなたは鑑賞会開幕時に、短い曲を演奏していました。鑑賞会の開幕では、雲渓大陸でもっとも琴の腕がある子供が演奏する決まりとなっていますから」

「そうだったんですね。それで、私も琴の鑑賞会に参加していたのですか」

「ええ。ですが、それだけです。それ以上は景砂も参加していませんでした。まだ子供でしたからね」

 上官双晶が懐かしそうに目を細める。その話に、上官景砂もまた一抹の懐かしさのようなものを覚えるのだが、それが現実に起きた出来事のような感覚はまるでなかった。

「まあ、そんな話はさておき、今日はですね、書物を持ってきたんですよ。ずっとこの部屋で限られた娯楽だけを頼りに日々を過ごすのも退屈でしょう? ですから、少しではありますが書物でもあれば気を紛らわせられるかと思って」

「それなら、ありがたく頂戴いたします」

「ええ、ぜひ。それから、あと一つだけ伝えておきますね。明日からはしばらく部屋から出ない方が安全かもしれません」

 その瞬間、上官景砂の心の中には不穏な予感がよぎる。しかし、その言葉の理由を上官双晶はただの一文字も教えてくれなかった。


 そして、上官双晶の言葉の意味を上官景砂が理解したのは、それから三か月後のことだった。菱家が何者かに襲われたのだ。

 菱家が襲撃された、という話題で雲渓大陸中が湧いていたころ、上官景砂もまた上官家の自室で同じ噂を耳にした。その瞬間に彼女の心中に浮かんだのは菱珪玉だった。

(菱公子はこの話を聞いて心を痛めないだろうか)

 そしてそのすぐ後に、信じたくもないような疑念がむくむくと膨らんでくる。

(まさか、上官当主が菱家を襲撃させたのだろうか?)

 そんなことばかりを考えていたせいで、読書にも描画にも琴の演奏にも集中できていなかった上官景砂の元に上官双晶が訪れた。

「景砂、長い間退屈だったでしょう? もう上官家の中も安全になりました。今日からは外へ出ても構いませんよ」

「……わかりました。ですがその前に、一つ上官当主に伺いたいことがあります」

「何でしょう?」

 上官双晶は全てを見透かしたような視線のまま、わざととぼけるかのような口調で言った。

「菱家の襲撃には、上官当主も関与しているのですか?」

 すると、上官双晶はわずかに目を見開きながら、はっきりと頷いた。

「ええ。その件に関しては間違いなく私も参画しました」

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