第20話 デート
結局、それなりに主張していないアニメTシャツを着て、俺は霞と家を出た。ちゃんと、普段ならカバンに付けているキーホルダーや缶バッジなども外した。現状、俺ができるデートに相応しい格好にはなった。なったが……、
俺は、家を出てからずっと、鼻歌を歌いながらニコニコとした表情で、いかにも上機嫌な霞に謝る。
「……ごめん、霞。やっぱり、嫌だよな? 彼氏がアニTを着てデートなんて……」
もう、本当に申し訳なさすぎる。
周囲の人からも、痛い視線で見られている。
「何、あの子? デートなのに、アニメの服、着てるの?」
「センスない通り越して、論外なんだけど」
「いや、そもそもカップルじゃないだろ」
「確かに。ルックスが違いすぎる」
すれ違いざまに、四人組の男女にそんなことを囁かれる。カップルなんです! 付き合って半日なんです! 服装について言わないでください! 見ないでください!
隣を歩く霞が美人なのもあって、多くの人の注目を集めてしまう。
「気にしないで。私は、普段通りの颯くんが好きだから」
霞が優しい笑みを向けてくれる。その姿と言ったら、慈愛に満ちた女神だった。その笑みは、俺の罪悪感を薄めていく。
「私こそ、服そう変じゃない?」
心配そうに霞が聞いてくる。霞の服そうは、涼しげな白色のワンピース姿に、邪魔にならない水色のミニバッグ。髪型は、これは成島先輩から俺の好みの髪型を聞いたのか、普段はストレートに下ろしている髪を団子結びにしている。なので、先ほどから白くて綺麗なうなじがチラチラと見え隠れしている。そして、ハラリと落ちる前髪が色っぽさを演出していた。当たり前だが、
「……かわいい」
「……あ、ありがと……。この髪型、颯くん好きだよ、って瑠美ちゃんから聞いて……。普段はしないんだけど、頑張ったんだ……」
うっ、うぅ! く、苦しい……。こ、呼吸が……。
あまりの可愛さに俺は呼吸困難に陥る。
髪の毛をいじりながら、顔をさくらんぼのように染めて、恥ずかしげに照れ笑いを浮かべている霞。
成島先輩、ありがとうございます!
駅に着いた俺たちは、改札を抜けて電車に乗る。普段から利用客の多い路線で、かつ、休日ということもあって、車内はそれなりに混んでいた。
「混んでるね……」
「まあ、休日だしな……」
ぎゅうぎゅう詰めの車内。霞を扉側に寄せる。電車が揺れるたびに、俺の肩や背中に後ろの人の荷物や、両隣の人の肩が当たる。ブレーキが掛かれば、隣にいる人の体重が乗っかってくる。
隣のおっさん、汗かきすぎだろ! さっきから、触れるたびに汗が付着して気持ち悪すぎる! ……まあ、霞がこんな目に合わずに済むならいいけど……。
「大丈夫? 颯くん」
「大丈夫、大丈夫」
「ごめんね、ありがと」
「何が?」
「私に扉側を譲ってくれて」
どうやら気づかれていたらしい。
「何のことだ?」
「もう、隠さなくていいのに」
霞はクスクスと小さく笑みを零す。
というか、先ほどから霞を見る野郎どもの下卑たイヤらしい目が気になる。俺はその視線から守るように、自分の彼女だと威嚇するように、霞を隠すように扉に両手をつけ覆う。そして、周囲の野郎どもを威嚇するように見る。
その行動を見た霞が、俺の耳に口元を寄せ、その落ち着きあのる声色で甘く囁いてきた。
「だいじょうぶだよ? 私は、颯くんの恋人だから。安心して」
振り向くと、霞は嬉しさと恥じらいが混ざった笑みを浮かべていたのだった。
義姉の2つの告白 @annkokura
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