第20話 服

 翌日、シェリーさんは水色のワンピースを持ってきた。


「これは……」


 袖の無いシンプルなデザインだが、美しい刺繍が入っており、胸元に小さなリボンが付いている。可愛らしい服だ。


 その意図はすぐに分かった。


「ええと、私、女装は苦手で」

「正装だよ」


 丁重にお断りしようと思ったのに食い下がられた。

 結局着せられてしまった。


「アッハッハ! 見事な膨れっ面だねえ!」


 ひらりと揺れる薄い布の感覚が落ち着かない。


 飾り気のない少年のような中性的な格好をしてるからといって、服飾に拘りがないわけではないのだ。


 シンプルで着替えやすく、動きやすく、肌触りが良く、女性らしくない格好でないと嫌、というのは、むしろ服への拘りが非常に強いとも言える。それに。


「今の私がこういう格好すると、男の子が女装してるみたいなかんじになる……」


 気持ちはありがたいけれど、苦手なものは苦手なのだ。可愛らしい服は、可愛らしい人にこそ似合う。


「アッハッハ! そんなことないよ! お姫様みたいに可愛いさ!」

「あ、はい」


 ──その単語から嫌なことを思い出した。


「この台詞にここまで苦い顔が返ってくることってあるんだねえ」


 顔に出すぎてついにシェリーさんにまで気を遣われてしまった。陰鬱な感情を上手く隠せないのは良くない癖だ。


「ごめんなさい」

「と、とにかくだね、あの馬鹿弟子にその可愛い格好を見せてやりな」

「なにそれ……」

「なんでも良いから、ほらほら行った」


 ぐいぐいと背中を押されて扉を開け、居間に行く。


「え、アマリ……?」


 私を見つけるなりジーンくんは目を丸くして、私の頭の天辺から爪先までを眺めた。


 無言で数十秒間、醜態を眺められる。


「…………」


 そうしていると、ジーンくんは俯いて口元を手で隠して震えだした。


「ジーンくん?」

「…………っ」


 何事かと思ってその顔を覗き込む。──すると。


「……無理やりっ、服を着せられたっ、犬っ」


 なんと必死に笑いを堪えていた。


「爆笑!?」


「違う、違う。似合っているのに、ひどい表情をして着てるから。ギャップがおかしいというか。物凄く愛嬌があるというか」

「ええ? そんなに酷い顔してる私?」

「してるだろ」


 そう言って顔を上げたジーンくんを真正面からしっかりと見てしまい、息を呑んだ。


「っ!?」

「なんだよ」


 指で涙を拭った目は柔らかに細められ、手で隠された口元はしっかりと口角が上がり歯まで覗いている。その表情は、なんだか、なんだか……。


「じ、ジーンくんて、笑うんだね?」

「普通にごく稀に笑う」


 茶化して必死に動揺を隠していたが、無理だった。

 欲望と好奇心に勝てず、じろじろとその笑顔を眺めてしまった。


「なんなんだよ?」

「……可愛い」


 じっと食い入るように顔を見つめてしまったのが分かったのか、ジーンくんは腕で顔を隠してしまった。


「もう見るな」


 そんな姿にますますそわそわとした心地になる。


 見たことのない姿、もっと見たい。


「ちょっと! アンタたち、もう見ていられないよ! 普通こういう時、こういうの逆だろう!」


 冷静さを失いそうになっていたところで、シェリーさんが止めてくれた。


「まったく! 女の子がとびきり洒落た格好をしているんだから、褒めるなり赤面するなりしたらどうだい馬鹿弟子!」

「ああ、そうか。その服、昨日の虹の布か。裁縫器に入れるとその者に似合う色と形の服になる魔道具。魔法防御力が少し上がる。良い出来だ」

「魔道具馬鹿弟子!」


 何かジーンくんが理不尽なことで怒られている気がする。


「俺は本当に服飾に関心がないから正直違いがよく分からん」

「それは流石に関心がなさすぎない?」


 流石に驚いた。良いか悪いかはさておき、男装と女装で印象は結構がらりと変わると自分でも思う。ジーンくんもジーンくんで、やっぱり少し変わり者だ。


「馬鹿弟子、こんなに可愛いのにかい!?」


 しかしシェリーさんは物好きだと苦笑する。


「別にいつも可愛い」

「…………ぇあ!?」


 驚きすぎて妙な声が出た。

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