第9話
ある程度の時間が経ち、太陽が真上に来る頃。
俺は枝や葉をスラさんの助言を受けながら組み合わせ、鞄に入っていた火打石を使って火をつけて焚火を完成させていた。
「ふぅ……火を見るとなんか安心すんね。あとはー……流石に調理道具は無かったよな」
フライパンのようなものがあれば一番良かったのだが、無いなら無いで仕方がない。
「大き目の石で周りを囲んでから、大きい石を火の上に置けば肉を焼くことはできるし、そうすると良いじゃろう」
「石で焼いてるのなんかショート動画とかで見たことあるな……イメージしやすいしやってみるか」
全員で湖の付近の石を集め、肉を焼くための石はしっかり水で洗うなど、準備を済ませ、火の熱さに先にやっておけば良かったと後悔しながら焚火の周りに石を並べていく。
「最後にこの石を乗せれば……っと、完成!」
ついでに近くにまな板の代わりにと持ってきた平たい石を置いて、簡易的な調理場が出来上がった。
「まさかここまでできるとは……。スラさん居なかったら数日はかかってた」
「大げさじゃのぉ……」
「いやいや、マジだって」
実際、ゲームで何度か見ることがあるからこういうものだろうのイメージはあるが、作るとなれば話は別だ。
「スラさんが教えてくれなきゃまずイメージを形にするための試行錯誤で時間がかかってたからな……」
そしてその間に食料などが減っていき、完成したとしてもまたギリギリな状態になっていただろう。
「スラさんには感謝してもしきれないな……。今から肉焼くし、一番最初はスラさんが食べてくれ」
トレントが捌いてくれた肉をサイコロ状に切り分け、脂身の部分をナイフの先に差して石に塗り込むようにして、申し訳程度に油を引く。
「めっちゃ石に引っ付いたりしそうだな。と言うか大き目の枝とか削って箸つくりゃ良かった……」
ナイフだけでは無理だろうと少し尖った石を用意したはいい物の、よくよく考えれば使い慣れた箸の形状をしたものの方が圧倒的に使いやすいに決まっている。
「まぁ……後で作ろう」
そろそろ腹も減る頃で、気分も焼き立ての肉を食べるものになってしまっているため、今別の事をしようと思っても体が追い付かないだろう。
「今は肉だ肉……! 久々にあったかい物食べれる……!」
焦って台無しにしないよう、慎重に肉を熱い石の上へと並べて行く。
肉が焼ける音が聞こえ、徐々に焼けた肉のいい香りもしてきてより腹が減ってきてしまう。
「後はしっかり焼けるまで様子見つつだな」
この世界で医療がどの程度発達しているかは分からないが、こんな人の手を借りられない地で少しでも生の部分を食って病気になるのは怖いため、焦げたら仕方ないの精神でしっかりと一面ずつ焼いていく。
「そうだ。待ってる間にちょっと確認してみるか」
ふとそろそろかと思い、ゴブリンのカードを取り出して近場へと呼び出す。
完治とまでは言わないが、問題ない程度には傷は治っているようでその場に倒れた状態で出てくるなどは無かった。
ゴブリンは不思議そうに辺りを見渡し、そしてこちらを警戒しているのか少し距離をとっている。
「まぁそりゃそうか……。大丈夫、取って食うつもりも命を奪うつもりも無い……って言っても信じれんか」
ある程度の知能があれば、この状況で相手を信用しろと言う方が難しい。
「ま、ちょっと待ってな」
全ての面を焼き終えてから、石を採るついでに洗った水筒に入れた水で軽くナイフを洗い流し、肉の一つを刺して取り上げ。
「よし、まずはスラさんだな」
そのままスラさんの方へと肉を近づける。
「ではありがたくいただくとしよう」
ナイフごと肉を飲み込み、肉だけを取り込んでナイフからは離れて行く。
肉がゆっくりと溶けて行く様が見えるのはやはり不思議な感覚だが、全てが溶けた頃にぷるぷるとスラさんが震え始める。
「ど、どしたスラさん? 気に入らなかった……?」
「逆じゃ……今まで食にこだわりは無かった故知らぬにいたが、焼いた肉がここまでとは……」
「そっか。気に入ったみたいで良かった」
「多少助言した程度でこんなものを貰えるとはの……むしろこっちが申し訳なくなるの」
余程気に入ったのか、震えは止まっているが飛んだり跳ねたりと、嬉しそうにはしゃいでいる。
その様子を微笑みながら眺めてから、もう一つ肉を取りゴブリンの方へと向ける。
「ほら、お前も食べな」
理解が出来ないと言った様子で警戒していたが、空腹には抗えずに恐る恐る手で掴んでナイフから取り外し、また少し距離を取ってしまった。
「めっちゃ熱いと思うんだけどな……結構熱さに強いのか?」
手に持っているがそこまで熱そうな様子は見せずに、小さく一口食べ、飲み込んだと思えば勢いよく二口、三口と一気に食べ、すぐに完食していた。
「おー、良い食べっぷりだ……ほら、ウルフも」
ウルフの近くに肉を置き、食べているのを見てから俺も自分の分を取り口へと運ぶ。
そこそこ大きくしたおかげか噛み応えがあり、噛むたびに肉汁と肉の旨味が口の中に広がっていく。
焼いたものをそのまま直で食べているため思ったより熱くはあるが、この地に来てから初めて温かい物を食べれたという感動でそこはあまり気にならなかった。
「マジで美味い……」
やはり食事は生きる上で重要なのだと改めて理解するほどに、活力がみなぎって来るのを感じる。
「しっかし、トレントに食わせてやれないのが残念だな」
植物系の魔物は基本日の光と水以外は必要なく、肉などは食べれなくはないが逆に不調をきたし弱くなってしまうこともあるらしい。
もちろん、マンイーターのような例外もいるが、大体の植物系がそうなのだとスラさんが言っていた。
「めっちゃいい水とか見つけて飲ませてやりたいな……。目標にしておこう」
密かに新たな目標を追加しつつ、ゴブリンの様子を確かめる。
警戒はわずかに解けている様子はあるが、まだ時間がかかりそうだ。
「ま、今は肉食べるか!」
皿も用意できなかったため、一々俺が全員に配ることになったが、それぞれの反応が見れてこれはこれでいい物があった。
スラさんは予想以上に気に入ったようで満足そうにゆっくりと食べており、ウルフは食べるのが早く何個か近くに置いておかないと間に合わない程だった。
ゴブリンも差し出せば近寄ってきて、肉を取っては離れて食べるを繰り返していたが、徐々に離れる距離が減り近くで食べるようになってきていた。
そして、気が付けば肉は無くなっており三匹はそれぞれ横になり満足そうにしている。
「俺2、3個しか食ってないなぁ……!?」
空腹が満たされる程度には食べれはしたが、取り分ける事に夢中になりすぎたせいで折角の久々の肉を満足するまで食べる事はできなかった。
「……まぁ、他のが満足そうだしいっか……」
俺を慰める為か近くにやって来たトレントを抱えながら、横になっている者達を横目に夕陽で赤く染まった空を眺めるのだった。
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