第22話 Moto3 アメリカ 修正版

 第1話から第25話までは修正版です。実はPCの操作ミスで編集作業ができなくなり、パート2として再開しています。表現や文言を一部修正しています。もう一度読み直してみてください。


 4月半ば、私はアメリカのテキサス州オースティンにいる。初めてのアメリカだ。フランクフルトからドイツ系のL航空でオースティンに入った。久しぶりに時差を感じる旅をした。時差ボケ解消のためにレースの1週間前に現地入りしている。

 エイミーの案内でオースティンの街を歩く。テキサスの街は何でも大きい。でっかい公園にでっかいハンバーグにでっかいコーラ。レギュラーサイズが日本のLLサイズだ。飲み干せなかった。ステーキハウスに行くと、日本での3人前が一人分だ。ヨーロッパと比べても2倍の大きさで、これも食べきれなかった。食べ過ぎたので、自転車で公園内を走るのがいいトレーニングになっている。

 木曜日、合同練習日。反時計まわりのサーキットは珍しい。全長はおよそ5300m。結構長いコースだ。ホームストレートからターン1へは上りだ。スタートから上りというのは珍しい。それもターン1はブラインドの左コーナー。ターン1を過ぎてからS字が連続する。ボーッとしていると何コーナーを曲がっているかわからなくなる。そしてターン11のヘアピンを抜けるとトップスピードがでる1200mのバックストレート。ターン12は抜きどころだ。まさに度胸だめしのサーキットだ。高低差41mは鈴鹿サーキット並みである。ちなみにMOTEGIは高低差30m、SUGOは70mの高低差がある。

 金曜日、気温29度、路面温度35度といういいコンディション。さすが南部アメリカである。フリープラクティスは様子見で走った。なにせS字での体重移動が忙しい。リズムよく動かさないとタイムがでない。それにターン1の上ってからの左へのダウン。これは他では見ないコーナーだ。ただ前半の高速コーナーはドイツのホッケンハイムに似ているなと思っていたら、真似て造ったとのこと。比較的新しいサーキットなので世界各地の有名なコーナーを参考にしているそうだ。

 結果、Q2には進めずじまい。エイミーは以前に走ったことがあるというので、タイムを出しQ2進出を果たしていた。

 土曜日、今日も天候は晴れ。昨日と同様のいいコンディションだ。日本人ライダーでQ1を走るのは私と山下だ。古山と鈴本はQ2進出を果たしている。そこで、山下の後ろで走ることにした。山下はスウェーデンのH社のマシンに乗っている。今年チームを移籍したばかりでマシンコントロールに苦慮しているみたいだ。でも、Q1のライダーの中では2番目のタイムを出している。上位4人がQ2に進出できる。ところが山下はなかなかピットから出てこない。仕方ないので、他のマシンにつくべくピットを出た。

 残り9分で最終コーナーで1台がハイサイド転倒をした。私の目の前だった。ちょっとあせってアクセルを開けすぎるとハイサイドを起こしやすい。MotoGPやMoto2でも結構ハイサイド転倒があった。きついコーナーが多い。結果2分16秒234で4位。かろうじてQ2に進出することができた。山下はマシントラブルらしく思うようなタイムが出せないでいた。

 すぐにQ2が始まる。Q1から進出した4台にはなかなか厳しい。

 エイミーが

「 Come on ! 」(ついておいで)

 と言ってくれたので、彼女のペースについていくことにした。そして3周目の最初のアタックで2分15秒台を出すことができた。トップは2分14秒台だ。

 後半残り5分。二人でスリップストリームを使いあうことにした。ロングストレートでスリップを使う作戦だ。タイヤ交換を済ませて、3周目にまずは私がスリップにつく。エイミーがうまく引っ張ってくれる。直線の終わりでアウトに出て、アウトインアウトのラインをとる。自分自身はうまくいったと思った。次の周は私が先行。ロングストレートであらんかぎりのアクセルをあける。エイミーがそれについてくる。そしてエイミーがアウトにでる。私は即ブレーキだ。私の前をエイミーが駆け抜けていく。ほれぼれするコーナリングだ。

 結果は私が2分14秒981。エイミーが2分14秒953と自己最高タイムをだせた。エイミーは予選8位。私は予選9位となった。3列目からのスタートはQ1からの進出としては上々の結果だ。ポールポジションは絶好調のアレンソ。2分14秒292をたたきだした。ちなみにジム・フランクは予選7位とエイミーの隣に位置している。昨年のチームメイト3人が3列目に並んでいるのは少しおかしかった。でも、スタートでまた競り合いになるかもしれない。


 日曜日の決勝。ひとつのハプニングが起きた。予選2位のルエドが欠場になったのである。なんと虫垂炎にかかったとのこと。せっかくいい走りをしていたのに残念なことだ。それで私は予選8位のポジションになった。3列目の中央、左右にマシンがいるのはややプレッシャーを感じる。スタート直後の混乱にまき込まれないようにしなければならない。

 気温は25度まで下がった。天候はくもり空である。昨日までの晴天がうそのようである。タイヤはソフトを選択した。後半たれてきた時に、どれだけおいしい部分を残していられるかが、このレースのポイントだと思われた。

 決勝スタート。ターン1でインのゼブラにひっかかった1台がハイサイド転倒。私のすぐ後ろだ。そしてS字でトップ集団が接触。3台がオーバーランしている。そして最終コーナーでまたまたトップ集団で2台がクラッシュ。予選3位のオルトルがここで脱落した。

 トップはポールをとったアレンソだ。残り12周で独走状態になっている。第2集団の先頭はジム・フランク、続いてエイミー、古山・山下・鈴本の日本人勢が続いている。山下は予選最下位からここまで追い上げてきている。そして1台はさんで、私が第2集団の最後尾だ。

 残り10周で古山が最終コーナーで転倒。後ろのマシンからプッシュされてハイサイド転倒してしまった。ついてないとしか言えない。

 残り9周、山下がエイミーをストレート後の12コーナーで抜いた。突っ込み勝負で勝った。

 残り8周、ターン1で山下がジム・フランクを抜く。昨日の不調がウソのようだ。後でわかったことだが、この周山下はファステストラップをとっていた。2分14秒906でトップの2分15秒台より0.5秒速い。

 残り6周、私の前を走っていたオルガダがファステストラップを塗り替えた。2分14秒256で予選なみのタイムをたたきだした。トップと第2集団の差が縮まってきている。その差2秒。

 残り4周、ターン4でジム・フランクがハイサイド転倒。後ろにいた山下とエイミーが大きくコースアウトしたが、すぐにもどってきた。トップのアレンソは5秒のマージンをとることができた。私は3位に上がった。

 残り3周、第2集団はオルガダ・私・山下・エイミーの順番だ。ほぼ等間隔だ。

 ファイナルラップ。私は勝負をかけた。バックストレートでオルガダのスリップストリームについた。そしてターン12の手前でインにつき、ブレーキング競争に持ち込んだ。問題は曲がれるかどうかだが、ぎりぎり曲がれた。しかし、オルガダもくいついている。ターン19の左90度コーナーでインをとられる。勝負は最終ターン20だ。オルガダはインインアウト、私は立ち上がり重視のアウトインインのラインをとった。加速勝負。結果、タイヤひとつ分負けてしまった。やはり経験の差なのかもしれない。

 でも、表彰台に上がることができた。上位のアクシデントによる拾い物の表彰台だが、タイヤを大事にして耐えて走ってきたおかげだ。これもチームの作戦勝ちと言える。エイミーもジム・フランクの転倒がなければ表彰台に上がれたかもしれない。おしくも4位だったが、チームとしては上々の結果だった。監督のジュン川口だけでなく、オーナーのハインツ氏も自分のレースそっちのけで喜んでくれていた。

 次は4月末のスペインGP。ここからはヨーロッパでの戦いが始まる。

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