第15話 ミサノにて 修正版

 第1話から第25話までは修正版です。実はPCの操作ミスで編集作業ができなくなり、パート2として再開しています。表現や文言を一部修正しています。もう一度読み直してみてください。


 9月初め、イタリア・ミサノにやってきた。イタリア北東部にあるミサノサーキットはザルツブルグからもさほど遠くはない。でも、かのイタリアのレジェンド・ルッシの実家から10kmにあるという、まさにイエローマジックの本拠地である。

 そして、ここミサノは日本人にとって悲しい思いでの地である。2010年にMoto2で戦っていた富沢祥也氏が転倒し、後続マシンにひかれ亡くなったのである。

 到着した木曜日の夕方、監督のジュン川口が他の日本人ライダーも誘って、富沢氏が亡くなった11コーナーに向かった。右の高速コーナーである。そこで皆で黙とうを行った。その後、ジュン川口が日本語で話しかけてくれた。

「富沢氏はMoto2に参戦し、初戦優勝、第2戦は2位と好調だった。だが、その後は表彰台を逃していた。第12戦のミサノでは焦っていたのかもしれない。そこで無理をして、ここで転倒。運の悪いことに後続のマシン2台にひかれてしまった。期待されていた富沢氏の冥福を祈るとともに、彼が残してくれた教訓、つまりレースで無理をするなは、各自の胸のどこかに残しておいてほしい。無理をしなければ勝てないと思っている者もいると思うが、自分の力を高めて、本番の決勝では余裕をもって勝つぐらいの日常の努力が必要だと思う。それゆえに、私はハインツアカデミーの校長を引き受けた。学ぶ者は強くなる。と富沢氏は生前言っていた。皆もこの言葉を肝に命じていてほしい」

 11コーナー脇に小さな石碑がある。富沢氏の冥福を祈るためのものである。ちなみに彼のゼッケン48はMoto2では永久欠番となっている。


 金曜日、フリー走行。ここではルッシアカデミーの速そうなライダーを見つけ、彼について走るようにした。全長は4000mほどと短い。長いストレートがないので、全体的には低中速コーナーが多い。ポイントは裏ストレート後の第8コーナー左リバースのクェルスィコーナーと第10コーナーの右リバースのトゥランオントコーナーである。ここをうまく越えるかどうかで、次の第11コーナーの高速コーナーの走りにつながっていくのだ。

 午前と午後のフリー走行で、私はくたくたになってしまった。常にマシンを倒している感がして、気を休める間がないのだ。こういう思いはオランダ・アッセン以来だ。ましてやここ2戦、転倒しているので安全に走ろうとしているのかもしれない。タイムも伸びていない。チーム内でも5番手のタイムしか出せてなかった。

 土曜日、午前の予選。今日はエイミーについて走る。エイミーは好調で、フリー走行でチームトップのタイムを出している。彼女の走りは春に比べると格段に上手になった。倒し込みのタイミングがうまくなった。コーナリングがスムーズだ。エイミーのおかげで、チーム内で2番手のタイムを出し、全体でも予選5番手に入ることができた。

 夕方の決勝、5台のトップ集団に入る。ルッシアカデミーが強い。上位3台はイエローのマシンだ。4位にエイミーがいる。徐々に3台に引き離される。と思いきや、裏ストレート後の第8コーナーでその3台がトラブった。3位のマシンが突っ込みすぎて、接触したのである。突っ込みすぎたマシンはコースアウトしている。他の2台もスピードが落ち、トップ集団が4台になった。

 ファイナルラップ、第10コーナーの右リバース、トゥランオントコーナーでエイミーがしかけた。アウトからインに飛び込む。ルッシアカデミーの2台はインを守ろうとするが、スピードが落ちた。立ち上がりでエイミーがトップにでる。そのままチェッカーを受けた。

 エイミーは表彰台ではじけんばかりに喜んでいる。彼女にとっては2度目の優勝だ。表彰台の真ん中の感激は立ってみないと分からない。私は4位で拍手をする方だったが、エイミーのおかげで上位で完走することができた。転倒続きだったので、この完走はうれしかった。

 その日のうちにザルツブルグにもどる。深夜には寮に入ることができた。部屋に入ってから急に涙がでてきた。負けたことには変わらない。やはり表彰台にあがりたいと願う自分がいた。

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