第7話 そろそろ帰るわ…またな?

 うちのマンションはデカいだけあって、遠くでやってる花火大会でもいい眺めで見ることができる。そして今日は規模の大きい花火大会。天気も快晴だし良く見えるだろう。うちの階、13階建ての11階だしね。


 当然のごとく、勝美と麗ちゃんの二人がいるけど…それも今日でおしまいかな。


 楽しい時間が過ぎ去るのが速いって、ホントだよな…。



 勝美は白を基調とした浴衣に、赤い椿が映える。紺色の帯の後ろが大きいリボンになってるのがお洒落で可愛い。正面から見て小柄だから後ろのリボンが横にはみ出てるのが地味に推せるわ。


 麗ちゃんは黒を基調とした浴衣に、百合の花が散りばめられている。赤い帯が目立ち、こちらも帯の後ろがリボンになってて可愛い。見た目だけなら年上のお姉さん…喋ると舌っ足らずの甘えん坊。俺に効くんだよなぁ。


 二人とも美容院でも行ったのか、髪をアップにしていてうなじが見える。なんか気合入ってると思うのは俺だけだろうか…。


「と言うわけで、今日はベランダで花火鑑賞だ」

「「お~」」

「一応、蚊取り対策のスプレーと蚊取りラリックマ」

「だからラリってないよ~リラックマだよ~」

「そうね…私と麗奈とコータ…誰がラリったことになるのか、コータを小一時間は問い詰めないとね」

「えぇ~…」

「そ、そうだよ! 浮気は駄目なんだよ!」

「二人とも浴衣姿とても似合ってて、すごく可愛いです」

「ありがとうコータ、で?」「ありがとう幸ちゃん、で?」


 ハモるハモる…君たち仲良しだよね。


「その件につきましては前向きに検討する所存ではありますが、いかんせん当方としては…」

「玉虫色の返答なんて聞いてないのよ?」「そうだ~!そうだ~!」

「でもさぁ…」

「言い訳しない」「しない~!」


 ったく…あぁ俺は幸せだ…幸せだった。生きてるうちに二股ゴミ屑野郎にならなかったから勘弁して欲しい。


 どっちも大好きでどっちも大切で…。選ぶなんておこがまし過ぎて…。


 俺が幸せにしたかった…。俺の手で二人とも、幸せにしたかった。


 でも………


 一緒に笑うことも泣くことも怒ることも喜び合うことだって、できない。


 二度と一緒に歩んでいけない。



「ふたりとも愛してる…じゃあ駄目でしょうか?」

「堂々と二股発言とは、あんたも偉くなったもんね」

「幸ちゃん、結婚は3人じゃできないんだよ? わかってる?」

「そんな蔑んだ目と残念な子を見るような目はやめて…ごめんなさい」


 はぁ~っとため息をついて、俺を見る勝美さんの態度はよろしくないと思います。それと麗ちゃんの可哀想って雰囲気もけっこうザクザクとわたくしのメンタルを削るので…メンタルあんの? まぁいいや、いつものほんわかさんに戻って欲しい


「俺の我儘だしな…それに二人とも…」

「そうね…そろそろなのね」

「そっかぁ…やっぱり、そうだったんだぁ」


 3人の視線が、壁にかかった時計に集まる。最初から今までずっと、長い秒針がクルクルと回り続けていたのが、通常の速さよりも遅くノロノロと動いていて…そろそろ止まるかな。


「コータ…もう会えないの?」「…」

「幸ちゃん…やだよ…もっといっしょにいてよ…」「……」

「なんか言いなさいよ! あんたにさわれるし生きてんじゃない!」

「そうだよ! ちゃんとあったか…くない…冷たくもない…なんで!? なんで!?」


 神様なんていないと思ってたのに願ってみるもんだよなぁ…二人が塞ぎ込んで、あんまり情けないツラしてんのが糞ムカついて…母さんや姉貴は立ち直り速くてほっとしたけどな。 


 俺を思ってくれてたのは、ちゃんとわかってた。しっかりと悩みまくって決断しようと思ってたんだよ…あの時までは。

 

 よくある話だ。学校からの帰り道、後ろから高齢者が運転する車が突っ込んできてグシャ! ああいうのってそれこそピョンとボンネットに飛び乗って、更に二段ジャンプ楽勝だぜとか思ってたけど…無理ゲーだったわ。


 車道側の俺が、隣を歩く二人を突き飛ばすので精一杯。時速80㌔くらいか? はええよ、小足見てから昇竜余裕の俺が、避けることもできないとかウケるわ…いやウケないわ。


 それでも最低限、勝美と麗ちゃんの二人が無事だったんだから御の字だろう。


 死んだ瞬間は何も感じたりしなかったな。痛いとか恐いとか、今際の際に見るとか自分の一生を垣間見ることも無かったわ。もちろん異世界転生なんてねぇよ。


 じゃあ今の俺はなんなん? って言うとなんだろな。幽霊? 魂だけ? 夢の中? 正直なんでもいーんだよ。


 勝美と麗ちゃんが泣いてんだ、ずっとだぞ? さすがに飽きるだろと思ってたら延々泣いてて…なんか段々頭にきて腹が立ってきて、そしたら自分の部屋にいたわ。


 時計がメッチャ速く回ってて、こりゃ異常だわなと。しかもマンションから出られない。ん~どうすんべと思ったら、勝美と麗ちゃんだけは俺が見えるみたいで、しかも都合良いことに俺が死んだこと忘れてる?


 僅かでも二人に会えたけど、でも何していいかわからんし、こういう時はあれか、なんか良い思い出を残せば前向きになる切っ掛けになるかと。


 結局二人が遊びに来て、俺が相手してもらってただけなんだけどね。嬉しそうだったし、楽しそうだったし、死んだ人間にしては頑張った方じゃない?


 物さわれるのに、腹が空かないし、なんか食べれないし、排泄もしない。眠くならないけど、眠れはしたな…。自宅でプールした時は二人がいたからか、安心して眠かったなぁ。


 長々回想したけど、別にお涙頂戴したいわけじゃない。ハッキリ言って死んじまったもんはしょうがない。故人を悲しんでくれるのも、まぁちょい嬉しいけど、何事もほどほどだ。


「二人の元気な姿も見れたし、悔いはないから」

「私はあんのよ! コータは良くても! あたし…は…あぁぁぁぁーーーー!!!」

「やだよ…こうちゃん…やだやだやだ…やだよやだよ…ふぇぇぇぇん!!!」

「泣いとけ! 泣いとけ! 泣き止んだらスパっと割り切っていけ!」


 胸に縋りついている二人を抱きしめて、背中を叩いてやる。勝美の方は、背が低いから後頭部を撫でてるけど。


「あたし…もコータと…一緒…に行く…」「私も…」

「どこいくんだ、どこへ」

「わかんないわよ」「わかんないよ~」

「べつにちょっとお別れするだけだ…また会えんだろ」

「適当ぶっこいてんじゃないわよ」「そーだ! そーだ!」

「んなことないって。せっかく生きてんだ、楽しんで楽しんで楽しんでから、死ねばいいんだよ。


 二人が俺を見る。


「勝美。お前フラワーアレンジメントの仕事、したいって言ってたじゃないか? フラワーデザイナーになって、自分の花屋を持ちたいって」

「ええ…」

「叶えろよ。それやってからでも、こっちくんの遅くはないだろ」

「…そうかもね」「だろ?」

「あんたのこと忘れて、イイ男と結婚するわよ?」

「しゃーない…お前を幸せにしてくれる奴なら、許そう」

「偉そうね、やりなおし」

「…お前と一緒に幸せになれなくて、ごめん。でも、お前の幸せを願ってる…願ってる」

「いいわ…コータの願い叶えてあげるわ」


 勝美に軽くキスする。


「麗ちゃんは、誰でも気軽に入れる料理屋さんがやりたいんだろ? 飯、上手いしな。接客だって問題ないだろ 」

「でも…幸ちゃんが、いないよ?」

「見てるよ…見守ってる。頑張りやの麗ちゃんを」

「私も見ときなさいよ」「待て待て、勝美もちゃんと見守るから。順番、順番大事」

「私も、幸ちゃん以外の人と結婚しちゃうよ?」

「麗ちゃん、大事なこと言うからね。身体目当ての奴だけには、絶対に気を付けること! 麗ちゃんは凶器を持ってるけど、それ対人相手には限定的だか…」


 スパーン!!!とメッチャ良い音したな…まだ痛覚あるのね、痛いわ。


「そのハリセンいつから持ってたの?」「最初からよ」

「どこに?」「乙女の秘密よ」

「乙女ってスゲーわ…とにかく、麗ちゃんを幸せにしてくれる奴は必ずいるから…どうか麗奈に、勇気と…幸運を」

「うん、うん、頑張ってみる…見てて幸ちゃん」


 麗ちゃんにも軽くキスする。


 これでやり残したことは…ないな。さすが時間も空気読んでくれるわ…そろそろか。


「じゃ、またな」

「待ちなさいっ」「待って~幸ちゃん」


 むんずと二人に腕を掴まれる。え? 今綺麗に別れるとこじゃない? 達者でな~みたいな? タイミングってあるでしょ!タイミング! グタグタになっちゃうから!


「なに一人だけスッキリして、言ってやった言ってやった、みたいな雰囲気なのよ。気に入らないわ」

「そーだ!そーだ!」「えぇ~…」

 

 勝美がタックル…じゃなかった、胸に飛び込んできて、


「コータ大好き! ずっと好きだった! ありがとう、私の初恋の人」「……あぁ」


 今度は麗ちゃんが…ゆっくり抱きしめてくれて、


「幸ちゃん、大好きです。ずっと大好きです。見守っててね、幸ちゃん…」「うん」


 時計が止まる。そして大きな花火がうちあがり…、


 このすべてがゆめまぼろしのごとく…。




 *





「勝美ちゃん、麗奈ちゃん、起きて。花火始まったよ」

「ん…コータ?」「幸ちゃん…?」

「そうね幸大も見てるかもね」「だね…見つけたらコンビニに買い物行かすけど」


 満開の花火が舞っている。大きな花火から小さな花火まで…。


 コータのお義母さまと幸子お姉様に起こされるまで、わたしと麗奈はベランダで眠っていた。さっきまでコータと一緒だと思ってたのに、それこそ夏休みは毎日…麗奈と日替わりでコータと一緒だったような。


 コータがいなくなったあの日から、わたしのすべての歯車が狂ってて、どうしようもなくて麗奈も同じで、どうにかしようと足掻いてたけど泣いてばかりで…。


 コータのご家族のほうがつらかったはずなのに、私と麗奈にいつでも遊びに来ていいよと合鍵を渡してくれて。普通そんなことありえないのに、お義母さまも幸子お姉様も気遣ってくれて。


 そうか、もう一年にもなるのね。…旧盆間近に逝っちゃったから早めに帰ってきたのかしら。なんとなく気分がスッキリしてる。麗奈の顔を見るとあっちもそんな感じね。


「麗奈…会えたわよね」「うん…勝美ちゃんも覚えてるんだ」

「あいつ偉そうに、励ましに来たのよきっと」「そうだね…幸ちゃんなら」

「なにが、お前を幸せにしてくれる奴なら許そう、よ。コータのくせに生意気な…だいたい乙女心が分かってなかったわよね、あいつは」

「そうだ! そうだ! 幸ちゃんは乙女心がわかってないよ~!」

「今度会ったら、このハリセンでまた引っ叩いてやるわ」

「私も私も! あ、でも私の凶器? でムニュリってしてあげた方が喜ぶかな?」

「麗奈…あんたとの淑女協定はこれまでね、破棄させてもらうわ」

「なんで!? なんで!?」「その凶器に聞いてみなさい!」


 麗奈の凶器を下からタプタプタプと手のひらで弄ぶ。


 ほんとお節介焼きなんだから…コータのやつ。


 じゃあもう少しこの人生を、コータに会いに行きますか。



おわり


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。懲りずにラブコメ書いてたんですが、気づいたら幸大君死んでましたw

あ、あれなんでと思ったのですがお盆も近い?し…ま、いっかと。


2万文字前後ぐらいがサクッと読みやすくて、だらだらしないのかなぁ~と。100話以上~ウン十万文字以上、書かれてる作家様方はスゲーなとw


ちなみに時計の針がクルクル回ったのは実話で自分の身内が亡くなって遺体を自宅に連れていって寝かせていた時に時計の針がクルクルと回りだして。電波時計でもないのに突然でビックリしました。家族そろって見てたので幻覚じゃないわこれ…と。


でもあぁ…なんだちゃんと家に帰ってこれたんだと、ほっとしたと言うか泣きましたw


ほんとはイチャイチャエッチな、二人と悶々するようなのだったのに…不思議ですね。ではまた…次があれば。読んでいただけると嬉しいです。


                                 にゃむ

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隣に住んでる幼馴染が毎日日替わりでうちに遊びに来るんだけど、休憩所か何かと勘違いしてない? Nyamu @Nyamu2023

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