第24話 SF 鈴鹿 第9戦最終戦

※この小説は「スーパーGTに女性ドライバー登場」「続スーパーGTに女性ドライバー登場」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、また新しいページで再開した次第です。


 第8戦の翌日、2日続けての連戦である。朱里は昨日、手ごたえを感じていたので、予選1のグループAで意気揚々とでていった。エンジンの伸びはいい。苦手なデグナーカーブも無難に抜ける。ヘアピンでも理想のラインがとれた。そしてスプーンカーブからはアクセルを思いっきり踏む。130R何するものぞ。と感じで走る。

 結果、1分38秒351を出せた。グループAのトップタイムは1分37秒574。なんとトップから1秒以内のタイムをだせた。順位は7位で予選2にはすすめなかったが、朱里は満足だった。目標タイムを上回るタイムを出せたからである。ちなみにチームメートの山木は1分38秒280で朱里よりわずかに速いタイムだった。

 午後の決勝。気温20度。路面温度25度とレースとしては低い。タイヤは昨日同様ハードを選択した。上位にいくためにはタイヤ交換のタイミングが大事だ。前半は遅れるかもしれないが、後半勝負だ。

 チーム監督が山木と朱里を呼んだ。

「レーダーを見ると、雨雲が近寄っている。雨の量はわずかだが、もしかしたら後半降るかもしれない。後半はレインで勝負するかもしれない」

 と言ってきた。雨は歓迎すべきことではないが、荒れるレースが予想された。


 決勝スタート。集団で1コーナーに突っ込む。朱里は予選14位のポジションを守ることができた。だが、S字で1台に抜かれる。青いマシンの小田だ。小田についていく。デグナー、ヘアピンを小田の後ろで走る。まるでカルガモの親子みたいだ。ヘアピンの立ち上がりで少し離されるが、スプーンカーブでおいつく。バックストレッチではスリップにつける。

 15周目、他のマシンがぞくぞくとタイヤ交換にはいる。雨は降っていない。降ったとしても路面は大丈夫と判断したのだろう。ドライタイヤに換えている。

 16周目、前を走っていた小田もピットイン。朱里は一時的に3位に上がった。次の周にピットインかと思っていたら、ヘルメットのシールドに雨粒を感じた。すかさず無線を入れる。

「監督、雨粒を感じます」

「よし、わかった。レインでいく。ピットインだ」

 バックストレッチだったので、すぐにピットインだ。チームの準備は早い。レインタイヤが並んでいる。

 17周目、レインタイヤに換えてコースイン。順位は12位で復帰だ。雨は強くない。タイヤ交換を終えたマシンはそのままいきそうだ。

 18周目、ピットインを終えていなかった3台がタイヤ交換をはたす。朱里のすぐ後ろのポジションについた。

 19周目、山木のマシンにトラブル発生。電装系のトラブルでペースが落ちる。朱里は11位にポジションアップ。

 20周目、雨はやまない。だが路面は確実にウェットだ。ドライタイヤのマシンのペースが落ちている。

 21周目、山木がピットイン。ガレージに入った。朱里のマシンにも同じトラブルが起きるかもしれない。ピットクルーはドキドキだ。

 22周目、朱里が小田のマシンに接近する。先ほどと同じ親子のカルガモ走法だ。ストレートでは小田が速い。だが、コーナーでは明らかに朱里が優位だ。

 23周目、ヘアピン立ち上がりで小田の横に朱里が並ぶ。だが、インをおさえられ抜けない。さすがベテランの小田だ。簡単には抜かせてくれない。

 24周目、スプーンカーブからの立ち上がりで並ぶ。だが、小田のペースは落ちない。結局130Rで小田の後ろについた。濡れている路面で無理はできない。

 25周目、今度は1コーナーで並ぶ。小田はインインアウトのラインをとる。朱里はラインを交叉させてアウトインアウトをとろうとするが、絶妙なラインでふさがれる。

 26周目、今度は苦手なデグナーカーブでしかける。ところがスピードオーバーでゼブラに乗り上げる。あぶなくコースアウトするところだった。小田に少し離される。

 27周目、今度はヘアピン勝負だ。ブレーキング勝負をしかける。小田がアウトにでたところで朱里はインに突っ込む。だが、曲がれない。結局大回りでコーナリングすることになり、小田に先行を許した。

 28周目、残り4周。朱里は小田の走りを見ることにした。どこかにスキが必ずあるはずだ。なくても後ろからプレッシャーをかけ続けていれば、小田がミスをするかもしれない。

 29周目、小田の走りにスキはない。

 30周目、最後のシケインで小田のリアが少しぶれた。もしかしたらここで抜けるかもしれない。と朱里は直感で思った。

 31周目、ファイナルラップ。小田にプレッシャーをかけ続け、いよいよ最後のシケインにやってきた。小田がアウトにいく。朱里はインに並ぶ。そのままのスピードでシケインに突入だ。並んでシケインを通過する。接触寸前だ。そして、立ち上がり。小田はアウト、朱里がインでアクセルをあける。

 フィニッシュ! 写真判定となった。結果はタイヤひとつ分で朱里が勝った。初の入賞。朱里はヘルメットの中で少し涙ぐんでいた。


 ピットにもどってきて、ピットクルーと喜んでいると、そこに小田がやってきた。

「朱里、ポイント獲得おめでとう。もっともオレからのプレゼントみたいなもんだがな」

「小田さん、ありがとうございます。小田さんとレースできて楽しかったです」

「オレは楽しくなかったぞ。10周にわたってケツにつかれたからな。お釜をほられるかと思っていたぞ」

「女性に対してその言葉はセクハラになりますよ」

「ごめん、ごめん。でも、シケインでインに入られたのはびっくりしたぞ。それでレコードラインからはずれて、ドライタイヤでは厳しかったからな。あそこが勝負どころだったな」

「はい、シケイン勝負はもうばくちでした」

「うまくいく時もあるが、無茶はするなよ。でも一皮むけたな。来年もがんばれよ」

「ありがとうございます。来年もよろしくお願いします」

 と言って、小田と別れた。山木と小田、二人のいい兄貴分を得た朱里であった。

 

 次戦は12月のスーパーGT最終戦。サクセスウェイトがなくなるのでガチ勝負だ。しめくくりのレースで楽しみな朱里であった。

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