第20話 SF 富士 第7戦

※この小説は「スーパーGTに女性ドライバー登場」「続スーパーGTに女性ドライバー登場」のつづきです。実は、パソコンのトラブルで編集中に保存できなくなり、また新しいページで再開した次第です。


 昨日に続き、今日も快晴。陽射しがきつい。気温22度、路面温度は24度だが、これからどんどん上がりそうだ。チームは昨日と同様ソフトタイヤを選択した。

 予選のQ1Aグループ。今回は朱里の番だ。少しでもいいタイムをだして、山木にデータを提供したいと思っていた。

 他のマシンと同じタイミングで最後まで粘ってタイムをだした。走るごとにタイムをあげることができた。結果、1分24秒008をだすことができた。昨日よりも1000分の2秒縮めた。でも最下位だった。トップは1分21秒台をだしている。下手をすると周回遅れのタイムになってしまった。ピットではタイムを上げたので、誉められたが、あまり嬉しくはなかった。

 Bグループでは山木が走った。今回も調子よく1分22秒637でグループ4位となりQ2進出を果たした。マシン自体はもう問題ない。後はドライバーの技量ということだ。

 Q2では山木が9位のタイムを出した。まずまずの結果である。WEC仲間の小田は8位、ミックも11位に入った。ミックもだいぶマシンに慣れてきたようだ。

 予選を終えて、軽い食事をとる。いつもは栄養ドリンクだけだが、山木がフルーツサンドを分けてくれた。リフレッシュできる味だった。

「終わったら自宅にもどるんだろ?」

 と山木が言ってきた。国内にいる時はできるかぎり自宅にいるようにしているが父は国内戦全戦を見てくれている。自前のキャンピングカーで関係者駐車場に停め、ピットにも顔を出すが、口を出すことはしなくなった。レースが終われば、父のキャンピングカーで自宅にもどる。でも会話はほとんどない。ヨーロッパでレースをしていた時は父親のアドバイスだけがたよりだったが、今は山木やチーム監督のアドバイスがある。父親が言えば、混乱してしまうことになってしまう。ただ、あたたかく私を見守ってくれている。うれしいことだが、さびしい時もある。

 山木に返事をしかねていると、

「野島パパはピット内でモニターを見ていて、一喜一憂しているんだよ。朱里の前では何も言わないようだけどな。今度、朱里から、今日の走りどうだった? と聞いてみたらどうだ」

 と言われたが、どうするか迷ってしまった。

 

 午後の決勝。お決まりの最後尾のポジションにつく。スタートに集中だ。レッドシグナル消灯。レーススタート。すると朱里の前で2台がエンジンストール。朱里は右にラインを変えて2台を抜く。昨日もそうだが、最後尾だと回避する能力が高くなる。

 2周目、シケインで4台がからむ事故が起きた。朱里の目の前だったが、うまく回避した。回避能力は高くなった。SCカー導入だ。朱里は17位にあがっている。

 7周目、SC解除。トップは昨日優勝したT社の坪江だ。奥さんもレーサーでがんばっている。最終コーナー手前からスピードをだし、レース再開。

 8周目、朱里は19位に落ちた。OTSの利用場所がなかなかうまくつかめず、最終コーナーからメインストレートで抜かれてしまう。

 13周目、T社の大山がコースアウト。またもやSC導入だ。ここでタイヤ交換の義務を果たす。

 17周目、レース再開。16位だったが、またもやストレートで2台に抜かれ18位に落ちる。

 32周目、第2コーナーで2台がからむアクシデントがあり、3度目のSC導入だ。昨日と違って今日のレースは大荒れだ。

 38周目、残り3周で再開。トップ争いはし烈だ。結果、坪江がトップを守り2連勝。富士では全て勝ち。「富士マイスター」と言われていた。小田は6位、ミックは8位。山木は7位に入りポイントゲット。ミックは初のポイントなので満面の笑みだった。朱里は昨日と同じ17位に終わった。完走したマシンの中では最下位だった。今回は抜かれることが多くて、フラストレーションがたまるレースだった。


 自宅へ帰る父親のキャンピングカーの中で、朱里はめずらしく父親に声をかけてみた。

「今日のレースどうだった?」

 と聞くと、父親は少し間をおいて

「1年目としては悪くない。でも限界の走りをしていない」

「限界?」

「カートからはじめて、ヨーロッパでF3までいったが、その時は限界の走りをしていた」

「そういえばスピンをよくしてたわね」

「それが箱車の耐久レースをするようになって、限界の走りよりコントロールする走りが要求されるようになった。それでおのずとアクセルワークやハンドリングがおとなしくなったんだと思う」

 そう言われて思い当たるふしがあった。少しでもリアタイヤが滑るとコントロールしがちになる。コースアウトすることはほとんどない。今回ミックはコースアウトを何回もやって警告を受けていた。それぐらいしないとマシンを自分のものにはできないのかもしれない。

 次戦は1週間後のスーパーGTオートポリス。九州だが、国外でなければ体の負担は少ない。帰りに寄る大分の温泉が楽しみだ。

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