第17話 国一番の暗殺者さまに、新ミッションのお知らせです。

 左腕に庇っていた王女を、俺の背後に控えさせる。

 困惑している彼女は、薄っすらと紅くなった頬を月明かりに照らしながら、おずおずと告げてきた。


「あの、暗殺者さま……お救い頂き、ありがとうございます。ですが……わたくしが消えれば、このまま黙って汚濁おだくを呑み込んで果てれば……国は、良くなるのだと。それが真実ならば、わたくしは――」


「――――だ」


「えっ?」


 俺の発した不明瞭な一言に、王女は首を傾げる。

 一方で俺は、王女の悪逆なまでの純真をもてあそばんとする、汚濁を越えた害悪が許せず――全ての感情を排した激烈な憤怒を押し殺し、冷静に徹して語った。


「女王制とは、女性が最上位の実権を握る形式……裏を返せば、その下にある男の権力者、特に本来なら自分が実権を握れる立場にあるヤツからすれば、面白くないのだろう。クソくだらん自己顕示欲や我欲が強い者なら、なおさらな」


「! そ、そんなっ。ですがわたくしのお母様は……女王は健在。それに歴代の女王は清貧をたっとび国に尽くし、決して悪政を敷くことはありませんでしたっ。それなのに、あらぬ野心などのために、それを否定しようなどと……」


「ああ、くだらん。心から唾棄だきすべき腐った性根だ。俺の故国である遥か東側の国には〝女が国政に関われば国が亡ぶ〟などという言葉もあるが、こんなもの、一部の悪例を大げさに取り上げているだけだ。事実、この国も含め、女王制で正しく国威を保つ国や歴史も、いくらでも存在しているし」


 そう言い切ってから、俺は――短刀の先を、大臣へと向ける。


「だが――王位の第一継承権を持つ王女は〝悪逆だ〟などと流布るふし、恥も知らず讒言ざんげんをバラ撒く、見るにえん奸臣かんしんというのは、いつの時代も存在するものでな」


「! なっ……ぬ、ぎぬだっ、そやつは嘘を――」


「ああ、いい、いい。調べはついているし、キサマのような醜悪と問答する気など、毛頭ない。……俺は、もっと尊き者のために、ここへ来たのだから」


 視線は警戒と共に、血管が切れそうなほど激昂する大臣と、狼狽うろたえる兵士たちからは離さない。


 俺は、背中に感じる気配へと――実は兵士に槍を突きつけられていた時から、その華奢きゃしゃな肩を震わせていた、その人へと。

 薄紅の瞳を潤ませる王女へと、真実を打ち明けた。


「そして調査した結果、伝承にはこうあった――

〝薄紅の瞳を持ち生まれたる王家の者は、生まれつきにして膨大な魔力を持つ。清廉潔白なる心を持ち、国を救う天の遣い――即ち〟

 ――――〝〟――――と」


「!!」


「それでも、だ。どうだろう、王女……それでも。あなたが命を落として、それで満足するのが醜悪かつ無能な男のプライドだけだとしても。民など一切救われず、待ち受けるのが国の乱れと絶望だけだとしても。あなただけが、命を落として……それで構わない、と今でも思うのか?」


「……っ……」


「さあ、俺に――何かが、あるのではないか。もう、我慢などするな。望みを、言え。王女よ、今あなたの目の前に、立っているのは。

 ミッション達成率120%を越えようとしている――国一番の暗殺者だぞ」


 これまでずっと、不当な我慢をいられ続けてきた、王女が。

 もう仕方がないと、諦めていると、耐え忍んできた、少女が。


「…………暗殺者さま…………」


 今、この時。

 ついに――本音を、吐露とろした。



「……助けて、くださいっ……!」



 大粒の涙と共に、発せられた、それを――嗚呼、俺のほうこそ、待ち焦がれていたのだろう。


 今まで暗殺者を続けてきたのは、なのだと――本気で思えるほどに!!



「そのミッション――国一番の暗殺者が、確かに請け負った――!!

 これよりミッション達成率120%を確実に越えてみせよう――!!」



 俺の放った威勢が、荒れ果てた室内を揺らし、夜天を貫くほど響き渡る。

 すると完全に恐慌状態に陥った大臣が、あぶらぎった汗を流して、みっともなくわめいた。


「なな、ななになにをしておる兵士どもっ……あのクセモノを、さっさと討ち殺せ! なにをしておる、さっさといけっ!」


『っ、ひっ……国一番の暗殺者って、あのクソ有名なソウマ=クサナギだろ……』

『最後に聞いた話じゃ、ミッション達成率160%を越えようとしてたんだとか……そこは意味が良く分かんねぇけど!』

『っても、ここで逃げても大臣になにされるか……くそっ、くそっ……』

『もう、どうにでもなれぇぇぇぇ!!』


 さすが見るからに能力に乏しい大臣、率いる兵の士気も低そうである。

 が、そんな兵士たちを見て、悪逆なまでに心優しき王女は言った。


「あ、暗殺者さまっ……その、大変な無理を言ってしまって、重ね重ね申し訳ございません! ですがあの兵士たちは、きっと無理強むりじいされて、だからっ」


「フッ……安心しろ、王女よ」


「! あ……暗殺者さまっ」


 ぱあっ、と鮮烈な月明かりにも負けぬ、太陽の如く煌めく笑顔を浮かべる。

 そんな悪逆スマイルが輝かしすぎる王女に――俺は横顔だけ見せ、グッ、と親指を突き上げた。



「バッチリ全員、殺してくるぞ――任せてくれ!」

「いえあの、そういうことではなくてですね!? あ、暗殺者さま~~~!?」



 まあまあ、王女の言うことも、分かっているのだ。

 だから、まあ……まあまあ、な?


 国一番の暗殺者がきわめし技――――とくと、見ていてくれ。

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