孤独な二人が共鳴していく、「静かな熱量」を感じる素晴らしい物語
- ★★★ Excellent!!!
二学期の始まりという、日常が少しずつ動き出すアンニュイな空気感から、クラス内の権力構造の逆転、そして孤独な二人が共鳴していく過程に一気に引き込まれました。
鮮やかな「女王」の失墜と人間味、藤堂京華というキャラクターの造形が非常に見事です。最初、彼女は圧倒的な「強者」として登場しますが、岩沢の正論によってそのメッキが剥がれ、クラスメートからの手のひら返しに遭う。そのプロセスがリアルで、読んでいて胸がヒリヒリしました。
しかし、彼女を単なる「悪役」で終わらせず、ボロボロの教科書を探して茂みにうずくまる姿や、初めてのハンバーガーに目を輝かせる姿を描くことで、彼女もまた「ただの不器用な少女」であったことが強調されています。特に、髪を切り落として登校してくるシーンは、彼女の強い決意と、誠人への信頼が目に見えるようで、物語の大きな転換点としてカタルシスがありました。
主人公・誠人の「冷淡さと優しさ」のバランス、決して「正義の味方」として振る舞おうとしない点が現代的で共感できました。「早く終わってほしい」「どちらの味方にもならない」というドライな視点を持ちつつも、ゴミ箱から教科書を拾い上げるという「最低限の、けれど決定的な優しさ」を持っている。
「完璧を演じていた少女」と「一人でいることを選んでいた少年」が、お互いの欠落を認め合った瞬間に、新しい「自分らしさ」を見つけ出す再生の物語だと感じました。