将棋の名人戦という特殊な舞台設定が、このミステリーに独特の緊張感をもたらしている。対局室という閉ざされた空間、名誉と誇りがぶつかり合う頭脳戦そこに殺人事件が重なることで、将棋の「読み合い」と推理の「読み合い」が二重になって物語を締め上げる。
三田村香織と藤田涼介のコンビが今作でも軽快に動き、テンポよく真相へ迫っていく。将棋の知識がなくても十分楽しめるが、盤面の論理が伏線として機能しているので、知っていればさらに味わい深い。「王将の死角」というタイトルの意味が解けたとき、思わず唸ってしまう。
全8話・完結済みとコンパクトにまとまっており、港町事件簿シリーズの入口としても最適な一篇。