僕が見つめるものは全てが黒く、どことない味気なさを漂わせていた。それは僕がどこに行こうとも、どのように動こうとも、決して僕の元を離れなかったのである。それはまるで、僕に一生付きまとう決意をさらしているかのようであった。 

 僕はいつのまにか、その姿にすっかり見入っていた。なぜならそれが、無性に美しいと思ったからである。だがおそらく、これが普通の街中ならば、僕はこんなことをしなかった。

 目の前で寸分の狂いなく同期する黒い僕は、まさにもう一人の僕であった。もう一人というのは、あくまでも精神的なものであろうか、否、僕はこれが、きっとだれにも縛られない唯一の自分に思えた。もしこの世の全てを否定できても、目の前のこいつは否定できない。そして、仮にこいつを縛るとすれば、それはきっと、『僕』にしかできないのである。

 僕は、こいつになかば信頼にも似た絶対的なものを感じていた。

 何気なく入ってみた美術館で、ああ、これだ。という絵画に出会うことがある。それは一度そうなってしまうと、仮に身近で単純にもかかわらず、さながら難解で入り組んでいるように見える。たとえばリヒターの一面一色の抽象絵画を前にして、おもわずそこに裏付けられた意味を見いださずにはいられないように、何か、美学的な、ある種の難題が張り出されているに違いない……と。

 その難題は、そのままをたとえるならば、さながらうずまく邪悪に似ている。人型のブラックホール。そしてそれを体現するかのように、それは僕の意識をがっちりとらえて離さないのだ。さながら現実のブラックホールのような、孤独で壮大で美しく、残酷で暴力的なこいつによって…………呑まれゆくかのように……。

 ……今の僕は、暗黒不気味な思考が濁流のように、絶えず流れては過ぎさっていた。僕の中の暗黒はいつまでも完結することなく、脳の細かなしわの間を余すことなく透きとおっていた。やさしくもとめどなく、たたみかけるようないきおいに、思わず苦しまず……、呑まれつつ……。

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