第16話

「・・・・・・・・あ」


征司の間抜けな声が聞こえた瞬間、訓練所から音が全て消えた。ギャラリーもまるで凍ったかのように動かない無理もないだろう、征司の目の前にいる獅乃も震える手で指さし、口をパクパクさせている

今まで狐面に付与されていた認識阻害は剥がれ、着物を着た女性の姿ではなく、服の機能をしていないシャツにジーパン、破れた箇所から見えるおよそこの世界の男からはまず見ることのない黄金律を模したような肉体


「あ・・・え・・・男?」


獅乃は微かな言葉を紡ぐ、そして訓練所は大混乱。呆然とする者、叫ぶ者、慌てる者とさまざまな黄色い声で反応し訓練所はを揺らす。その中絵梨と天音、知っている組はこれからどうすればいいのか頬を赤く染めながら考え固まっていた。花蓮は絵梨の肩を大きく揺らしながら、花蓮は征司をずっと見て


「どういうことですの!?どういうことですのー!?」


と驚愕していた、そして当の本人である征司は頭を抱えた・・・

やっちまったな・・・これ、どうしよう・・・そう心の中でつぶやきながら・・・


「さて・・・困ったことになった」


征司は頭をポリポリと搔きながら天音のほうを見るが既に頭を抱えている様子が見られる。無理もないだろう、黒狐という大型新人が実は男でしたということがバレてしまった以上もはや真実が広がるのは時間の問題だろう

征司としては早々にこの場を離れたいのだがそう簡単にいくはずがない、天音は深呼吸をすると頭を上げた そして叫ぶように宣言した


「試合は終了しました!!訓練所はこれより修復作業の為一時的に侵入禁止とさせていただきます!直ちに訓練場を出てください!!これ以上の滞在は違反行為とさせていただきます!!」


半ば無理やりに天音はギャラリーを訓練場から出していく。流石に違反行為とまで言われてしまえばギャラリーは出ていくしか選択肢はない、そして訓練場には征司、天音、花蓮、絵梨、獅乃の5人が残った。

再びの静寂が訓練場を包む、だがこの状況をどう切り抜ければいいかまだ分かっていない。


「天音さん・・・ごめんなさい」


「・・・謝る必要はありませんよ征司君、これは不慮の事故みたいなものですから」


天音は征司の謝罪に対して言葉を返す、だがその声はどこか暗いそれはそうだろう

これから起きてしまうことを想像したら運が良くて日本が下手をすれば世界を驚愕させてしまう出来事だ


「なあ天音さん・・・どうにかできないかな・・・」


「・・・無理でしょうね、目撃者が多すぎますし動画も取られてましたし」


天音と征司は深いため息をつきながら言う、今まで固まっていた花蓮はようやく正気を戻し絵梨を連れ征司たちのいる方へ向かう


「く、黒狐様ですわよね?」


「ああ・・・これが俺が仮面をつけている理由だ」


「ほ、本当に?黒狐様が男?」


花蓮は動揺しながら征司に尋ねる。その問に対して征司は頷く、その姿を見た花蓮は後ろにいる絵梨に顔を向ける


「・・・絵梨さんはこのことを知っていましたの?」


「・・・はい」


花蓮は恐る恐る絵梨に尋ねる、絵梨は申し訳なさげに頭を下げ謝ると。ゆっくりと自信に起きたこと征司がパーティーを組むことをしだす起点になったことを話した。


「なるほど・・・確かにこんなこと誰にも言えませんわね・・・黒狐様の仮面にも納得がいきますわ」


「こんな形で秘密を喋ることになって・・・すまない」


2人は花蓮に謝罪をするがそれに対して首を横に振る、その顔は怒りや悲しみなどの顔ではなく満面の笑みだった


「構いませんわ、むしろ私は嬉しいくらいです。まさかあの黒狐様が殿方だったなんて」


花蓮は手で口を隠しながら頬を赤く染め笑っている、その様子に絵梨もついつられて笑う。それを見た征司と天音も緊張していた力が抜けたように息を吐いた


「ありがとう・・・改めて佐伯征司だ、今後ともよろしく」


「ええ、小太刀花蓮です、こちらこそよろしくお願いいたします」


征司は花蓮に手を差し伸べ握手をする。そして花蓮もまたその手を握り返した。これで本当の意味で仲間となった。この秘密を知ったことで今の関係が壊れてしまうとも考えていたがそんなことはなかった。そして1人取り残されたのは獅乃だった。彼女はただ呆然と立ち尽くし目の前の3人の様子を眺めるだけ。天音はその様子に気が付くと声をかける


「紅賀屋さん?」


「・・・・・・・・・」


だが獅乃は何の反応も示さない。一体どうしたのか、天音はその疑問をすぐに解消することになる。


「き、気絶している!?」


さっきまで獣のような姿から一変、立ったまま気絶していた。今まで戦っていた奴が実は男、しかも戦いのせいで上半身が露わとなった異性の鍛え抜かれた肉体を見てしまったせいだった。その強さとは裏腹に初心な反応に天音は苦笑いをする


「んん、とりあえず征司君、今日のところは裏口から帰るようにしてください正面よりかはマシでしょう。あとしばらくは探索は控えてください」


「ああ、わかった」


「絵梨さんと花蓮さんも同じパーティーということで変に勘繰られるかもしれませんから同様に・・・」


天音が2人にも裏口から出るように促し、絵梨と花蓮も了承した。そして天音は気絶している獅乃を担ぐと訓練場を後にした。残されたのは征司と絵梨、花蓮の3人だけとなった。


「とりあえず・・・帰るか」


空間魔法から服を出し着ると征司は2人に帰るように促す。2人は頷くと3人で訓練場を後にし裏口から帰ることにした。


「これからどうなるんですかね?」


「さあな・・・だが少なくとも俺はバレようがクライマーを続ける」


絵梨はこれからのことについて不安げに呟くが征司は特に気にしてはいなかった。その理由は単純バレてしまっただけでこんな楽しいことをやめるつもりはない、バレた以上そのまま貫き通すしかないと思っているからだ。


「そうですか・・・そういえば私、まだこのパーティーにいていいのでしょうか?」


2人の会話を聞いてか、花蓮も不安そうに呟くが2人共その答えは同じであった。


「ああ、むしろ大歓迎だ。これからよろしく頼む」


「私も花蓮さんがいなくなるなんて、むしろいてくれなきゃ困りますよ!」


征司と絵梨はともに歓迎すると花蓮の顔はぱぁっと明るくなり頬が赤く染まる。そして小さな声で、はいと答えた。こうして3人はこれからも進んでいく。



だがやはりというべきか一夜にして黒狐の正体は広まりだし日本を震撼させた

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