ACT2.永遠なる生存者、イモータルサバイバー
イモータルサバイバー、それは不死の軍団である。
如何なる戦場でも「必ず」生き残るという部隊の噂が流れ始めたのは、戦争が国家産業となりサイボーグが戦場に現れて数年がたった後だった。米国の諜報機関の調査でメンバーは女性であると推測された。
しかし、公には認知されていなかった。
「興味が湧いただろう?なら、彼女等のことについて話をしようじゃないか」
イモータルサバイバーを作ったという人物が画面に向かって話し始めた。
彼女等は自分の住む国で「存在」を認められなかった。
時代が進んでも「女には武も技も力も、知もいらん」という「世間」からの圧力は根強く残り続けていた。
憤りを表したところで煙たがれるのがオチだった。
男共の言い分の本音は「俺達より目立つな」から変わっていない。
ケツの穴の小さい奴らだ。
彼女たちは相手にされなかった。
それでも純粋に高みを目指したいと鍛錬し続けた。
だが「社会」は悪辣で、いわゆる「女らしくない」と、いくら素晴らしい結果を残そうとも称賛されることは一度もなかった。
理解者である筈の家族にさえもだ。
味方は己のみ。終わりのない孤独は絶望をもたらした。
そして、孤独は思春期の只中の少女を破壊し、屈折させた。
心を折るには十分だった。
持つもの全てを「世界」から否定された。
自分に残ったものは、この身一つと培った己の力だけだった。
枷でしかなかった 「少女」という肩書がなくなり、自由が手に入った。
もはや強さしか自分には残っていないと思うようになった。
彼女等は一線を越える決意をした。
少数先鋭の、ビーストスーツを使用した傭兵部隊として集結した。
例えばこんな人生を送った者が所属していた。
貧困と暴力しか存在しない、生まれ落ちた瞬間から地獄のような環境から抜け出すために、アウトローの世界に身を投じた者。
両親から支配されたレールから逃れるために、養育期間を終えるまでボクシングの才能をひた隠しにして生き続けるしかなかった者。
名家に生まれてしまったがゆえに自分を殺すことを求められ、ありのままの自分を受け入れなかった世界に絶望し、鬼神となった者。
武の高みを目指したい、その一点を極める為に外道に堕ちた者。
この四名がメンバーである。
始まった新冷戦とサイボーグ技術(広義においてのサイボーグを指す)が全てを変え国が「戦争」を産業にしたことで、人の往来に規制がなくなった。
出兵を奨励し、更に多くの戦場にサイボーグが向かうようになっていくようになっていく。国が、企業に対し資金を提供し様々な戦場に向かうよう支援した。
彼女等はこの流れを見逃さなかった。
売り手市場において、地下格闘技の不敗伝説を作り上げた最強の化け物、体重ルールを書き換えさせたインカレの絶対王者、名家に生まれた自分を抑圧し続けた全てへの憤怒だけを糧として生きる鬼神、実力のみで流派を受け継ぎ進化させた若き後継者という経歴は注目された。
引く手数多であった。
彼女達は、戦場に出て自由を得た。
そこでは初めて、彼女らはまともに「人間」として扱われた。
生きているという実感があった。
武功は瞬く間に広がり世界中の戦闘地帯を渡り歩くことになる。
しかし、彼女らは無用な殺生はせず、相手を無力化するに留めていた。
慈悲というらしい。
その慈悲を戦場の地獄の住人たちは嘲笑った。
忘れたい過去の「世間」のように。
だが、戦場に身を置いている以上、相手に優しさを見せるのは付け入る隙を与えることになるということを知らねばならなかった。
私は、その甘さが気に入っている。
ほぼ同時期に、ターゲットだったテロリストの自爆攻撃に巻き込まれた。
ほぼ同時に武闘家にとって致命的な重症を負った。
死にかけていたが、謎の医療部隊に救出された。
体の一部を無くしながらも生き残った。
そんな彼女らを一つのチームへとまとめ上げたのは「とある国の女性議員」と言われている。真偽は定かではない。
失った機能を、金を出しサイボーグ化で補ったのも議員らしい。
何を隠そうそれが「私」だ。
「共に、有能で強く、力ある「女」として、この世界のクソッタレ共をぶっ飛ばしてやろう。女であることを誇ろうじゃないか」
我ながら良い演説だったな。
──────
「⋯⋯イ!ジェ⋯⋯うした!⋯⋯にがあっ⋯⋯ジェイ!起きろ!」
「はッ⋯⋯!」
車から這い出て護衛メンバーとチョウを助け出す。
「クイーンに大統領が誘拐されたと伝えてくれ、俺はあの女を追う」
「え、ええ、分かったわ。クイーンにサポート部隊を要請する⋯⋯」
「既に向かわせている。案件の継続が危うい緊急事態だ、私も地上に降りる。チョウをピックアップした後から付いて行く。先行して向かってくれ」
クイーン自らサポートに入るらしい。
まずいことになった。
「ジェイ、大統領の位置をマップに示してる。最短ルートで走れ!」
「任せとけッッッ!オラああああ!」
屋根に飛び移り、走り出した。
数多くの無人兵器が向かってきた。
だが、別の兵器に撃ち落とされ始めた。
「ジェイ、聞こえる?」
脳内通信が入った。
「あぁ、バッチリだ。それで、状況はどうなってる」
「大統領誘拐犯達はその後、ハイウェイを通って貨物列車に向かってる。最短距離で行けば間に合うはずだがら、そのまま突っ走って!」
「分かった、待ってろ。必ず大統領を救い出す」
無線はビーストスーツに取り付けてあり、首元に応答ボタンが有る。
人指し指で触れると指紋が認証され、以降は脳内無線で通信できる。
走っているうちに妨害が止んだ。
「J、誘拐犯の正体が分かったぞ。バイスアーミーボディー社、シェアトップ3に入る軍用サイボーグの製造企業なんだが、そこのPF、要するに有名企業様のプライベートフォースがイモータルサバイバーらしい」
「プライベートフォース?」
「そうだ。その名の通り個人から企業まで、あらゆる顧客に対応した私的な軍隊のことだ。昨今、PFによる武力介入が問題になってる。実際、ウクライナ戦争を終わらせたのはロシアの国内PFだった訳だが、現状変更に大掛かりな軍隊が要らなくなって各地で内戦が繰り返されるようになった」
「職業軍人にとっては吉報なんだろうな」
「そうとも言えんさ、知ってると思うが「サイボーグ」つうのは当然ながら適合手術を受けなきゃなれん。当然金がかかる。だから、貧困層の労働者が家族の生活のために企業に文字通り身売りをする。その代わりサイボーグにさせてもらう。そして、企業の金稼ぎの歯車として使い潰されるんだ……」
八雲の刀鍛冶の師匠である母親は、高周波日本刀作りの企業で使い潰された。
家族を養うためだった。
母子家庭で、過労で倒れてそのまま⋯⋯
訴えた会社側の弁護士団は強かった。
はした金を投げつけられて終わったという。
「あぁ、お前の母親も⋯⋯」
「そうだ。まぁ、理由は過労だと聞かされていたが違うんだよな。理由は他にもあるんだが、おっと、お前さんそろそろ着くみたいだぜ」
「……わざとだな?」
「さあな」
跳躍し、列車に飛び乗った。
「んで、だ。向こうに大統領の反応があるんだが」
「罠臭い、だろ?」
「そうだ。何があるかわからん。慎重にな」
先頭列車に行くと一人の女がいた。
見惚れるほど美しい黒髪、忘れるはずがない。
「どうやら、ネズミが紛れ込んだようですわね」
この女のせいで、俺の人生は大きく変わることになる。
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