墜落ノ宴

結城 木綿希/アマースティア

無題


「柄本副操縦士……。」

「聞きたくないです。言わないでください。」


 僕は分かっていた。聞きたくないと言ったのもただの現実逃避だ。だってそうじゃないか!こんな状況……


「この飛行機は墜r─────」


 自分が副操縦士を務める機体がもうすぐ墜落する。そんなの……はいそうですかと受け入れられるわけがない。


「言わないでくださいって言ったじゃないですか!」

「これも仕事だから言って現状の共有をしなければならない。それでその現状なんだが、この飛行機は墜落する。燃料が切れた。」

「げ、原因は!」

「わからん。わからんが、作品進行上の都合ってやつだろう。いや、そんなこと今はいいんだ。何らかの原因で突然燃料タンクが空になった。そして俺らはこの機体をどうにか不時着させなければならない。それだけ分かっていれば今は十分だ。」


 はぁ?作品進行上の都合?なんの話をしてるんだ。今はふざけている場合じゃないのに。いや、逆なのかもな。こんな状況……真面目にやるだけ損だ。この世の中、真面目なことだけが取り柄の人間が損をするように出来ているのかもしれない。


「そんなことって……。」

「今はこの期待を安全に着陸させることが最優先だ。原因を探すのは全て終わってからでいい。この飛行機は東京発サンフランシスコ行きで今は太平洋上を航行している。この飛行機の最良滑空比は約20。機体の高度は1万メートル。つまり滑空できるのは200キロメートル程でその範囲に陸は無いか……詰んだな。」

「何諦めてるんですか!水上着陸を試みるとか……。」


 僕は機長のようにはなれない。


「無理だ。動力がない今機体の安定させるのは熟練の機長でも至難の業だ。しかも俺は今日初めて旅客機を操縦するんだぞ?そんな状況で水上着陸なんてしてみろ。間違いなく大破する。それにここは太平洋の上だ、絶対に助からない。」

「ちょっ!あんたしれっと今やばいこと言いましたよね!今日が初めての操縦とか僕の聞き間違いですよね?そうだって言ってくださいよ!」


 あの人のようにこんな状況で飄々と明るく振る舞うことなんて出来ない。

 

「残念ながら聞き間違いではない。純然たる事実だ。」

それにいろいろ思惑もあったんだよ……。今となっては意味はないけどな。

「何でそんなやつが機長やってんすか!」

「俺の父親が役員でな。所謂コネだ。」

それに……いや、今はそれどころじゃないな。

「じゃあなんでよりにもよって東京サンフランシスコ間の運航担当してんすか!」

「俺がアメリカに行きたかったからだな。」


 曲がったことが嫌いで生真面目、上司にも必要とあれば食ってかかる損な性分。だけどそんな自分が嫌いじゃない。

 

「普通そんなんじゃ決まらないんですよ!」

うん、それはそう。

「コネだ。」

「ざけんじゃねぇよ!」

てへぺろっ!

「どうせもう助からないし最期に俺は俺の夢を叶えてくる。」


 それでも……僕は機長が少し羨ましいのかもしれない。


 

──────────────────────────────


「夢?こんな時に一体何をするっていうんですか。あんたのせいでこれから僕を含めて大勢が死ぬっていうのに!」

「水上着陸することになった原因を俺に求めるのは筋違いというものだよ。文句ならこんな機体を航行させた整備員か創造主に言ってくれ、俺は知らん。」

「すんません、これはただの八つ当たりですね。それでいったい何をするんです?」

「デスゲームの主催者だ。は?あんた何言ってんすか?みたいな顔を今すぐやめろ。」

「は?あんた何言ってんすか?」

「言ったよこいつ。まぁとは言っても主催者は母なる海だけどな。俺はそれに相乗りする形にはなるが人間側の主催者ということでいこうと思うんだがどう思う?」

「こいつやっぱりイカれてんなぁ~って思いますけど。」

 

 ぐうの音も出ねぇ……。最後の抵抗をするか。

 

「ぐぅ」

 

 顔こっわ。ごめんて!ただの冗談じゃん!ぐうの音も出ないからぐうの音しか出ないにランクアップしただけだってのによぉ。

 

「どうせみーんな死んじゃうんだ!最期のゲームと洒落込もうぜ?まぁデスゲームと言っても俺が直接誰かを殺す訳でも殺し合いをさせる訳でもない。ちょっとしたゲームをしてその結果としてとある薬を飲んでもらうだけだよ。どうだ?楽しそうだろう?」

「いいえ全然。ただ、こいつ……イカれてやがるとは思いましたね。てかなんでそんな薬なんて持ってるんです?」

「ん?ただの自分用の睡眠薬。最近寝れてなくてさ、病院で処方してもらったんだよ。」

「いや、なんでそんな状態で機長なんてやってんすか!」

「てへっ!それよりデスゲームだよデスゲーム!ワクワクするな!お前もそう思うだろ?柄本。」

 今から俺はゲームの始まりを予告する紳士になる。俺の中のデスゲーム司会者のイメージを今の俺自身の状況に落とし込め。


 よし、いける。それじゃあ始めよう。墜落事故という確実な死へと向かう最期の遊戯を。


「淑女、そして紳士の皆々様方!今からフライトの余興として楽しい楽しいゲームを執り行わせていただきます。誠に勝手ながら、機長を務めております私がこのゲームを取り仕切らせていただきます。準備が御座いますので開始まで暫しお待ちを。では、良い時間を。」


 フッ、決まったな。 

 

「ふむ……面白くなってきましたねぇ。」

 

 キャラ使い分けられるほど器用じゃないからこのまま話すけど俺の合ってねぇ。

 

「機長、その口調似合ってないっすよ?」

 

 DA☆YO☆NE☆

 

「え?そう?じゃあ今だけ戻すわ。めちゃくちゃ緊張した〜!緊張するけどロールプレイって超楽し〜い!」

「ええぇ……こいつガチでなんなんすかね。」

 

 そんなこと言うなよ。興奮しちまうだろ?


「うわぁ……」


 何かを察して引かれただと⁉ごめんて……。

 

「柄本副操縦士、今は緊急時だ。故に私の判断に従ってもらう、いいな?」

 

 ネタに走りすぎてほんとにキレられそう。

 

「は!了解しまし……って了解しちゃダメだろ!」

 

 あ、は~い真面目にやりま~す。

 

「口調が乱れているよ?柄本くん?」

 

 これが最後これが最後。

 

「腹立つ〜!僕は絶対デスゲームなんて協力しませんからね!」

 

 いや、やらせねぇよ。やるって言われても止めるし。

 

「それじゃあ柄本くんには見せしめとしてこの薬を飲んでもらおうかね。」

「いや、それただの睡眠薬じゃないっすか……。」

 

 待て待て、話は最後まで聞くものだぞ?少年よ。


「あ゙ぁん?」


 いや、だから顔怖いって。

 

「参加者にはこう言うんだよ。これはあなた方にドリンクに混ぜた形で既に飲んでもらっている薬の原液です。ってね。そして柄本くんにこの薬を飲んで倒れてもらう。その後解毒薬と言いつつ例の薬の説明をするわけよ。柄本くんには飲んだフリをしてもらうだけなんだけどね。まぁ大人しく縛られて寝たフリしといて〜!」

「なんで飲んだフリなんです?」

 

 チュドーンしちゃうからな☆ヒエッ

 

「柄本くんに機体の姿勢制御してもらわないとすぐ堕ちちゃうだろ?」

 

 チュドーンって言わなかった俺偉い!けどなんかチュドーンとかくだらないこと考えてたの柄本くんにバレてる気がする……。

 

「あ、それもそうっすね。僕は僕で悪足掻きさせてもらいますね?もしかしたら上手いこと着地出来るかもしれないし……。」

 

 それたぶん……。いや、今は言うまい。

 

「あ、一応薬自体は渡しておくから。時が来たら使うように。そう、例えば機体の制御が出来ずに墜落の未来を変えられないと悟った時とか……ね?」

 

 死ぬ未来が変えられないならせめて苦しまずに……。

 

「あんたまさか今回の事故の責任を一人で……。」

 

 バレちまったらしょうがねぇな……って言うわけないだろ?音声残っちまうんだから。

 

「いやいや、俺は父親のコネで今回の機長になっただけの新人旅客機操縦士だよ。案外今ここで眠っちまった方が楽に死ねるかもしれないぜ?」 

 

 ここからはオフレコってことでスマホの文面で伝えるかな。

 

“これは口に出さずに読め。水面着陸を試みてもいいが意味が無い。正直俺も水面着陸を考えたがラフトがなかった。職務怠慢だろ職務怠慢!それか誰かが金でも積んだんだろ。あいつらふざけんな!まぁそれはさておき話を戻す。このデスゲームの目的はこの事故から目を逸らさせることだ。親父は嫌な予感がしたから俺をねじ込んだらしいんだがこりゃいくらなんでも無理だろ。ある程度のことなら何とかする自信はあったけど今回は無理そうだ。そしてこの事故の責任はこのままじゃお前と俺になるだろうから大人しく巻き込まれとけ。”

 

「機長……。」

 

“あとは俺の趣味だな。”

 

「き……ちょう!?」

 

“俺デスゲームものの小説とか好きなんだよ。だから今小説の中に入り込んだみたいでワクワクしてる。”

 

「きちょう⁉」

「どうした柄本、語彙力なくなってるぞ?マジウケるんだが。」

「きちょー!」

 

 柄本くん、機長の四段活用は面白いんだけど少しうるさいぞ。

 

「あ、すいません。うるさかったですよね。最後までちゃんと感動させてくれないとこ、機長らしいっすね。」

 

 大丈夫だ。気にするな。そんな俺の思いをを目で伝えてやろうじゃないか。

 

「何急に僕のこと見つめてるんです?気色悪いっすよ?」

 

 残念ながら伝わらなかったようだな。ん?高度がえぐいスピードで落ちて……。あ、これ死ぬわ。


「じゃ、辞世の句でも……整いました。冬場の生足とかけまして柄本君と解きます。その心はどちらも服装重視副操縦士でしょう。よし、薬飲も。」


「それ辞世の句じゃなくてただの謎かけじゃねぇか!」

「すやぁ……。」

「え?え?え?アッ……」


GAME OVER


「なんだこのクソゲーは!」

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